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エリート

 俺と飛田が屁の臭いの漂う署長室に戻ると、神妙な顔つきのジジイと署長と長内が、三人並んでソファーに座っていた。その三人の前に、なぜか不機嫌な顔つきの由美子が、足を組んで偉そうに座っている。

「まったく誰なのよ、こんな狭い部屋でおならしたの。信じられない。それもこんなに臭いし。寝起きで臭いおならを嗅がされる、こっちの身にもなりなさいよ」

 恐ろしい目で三人を順番に睨みつけた。これは最悪だ。普通でも寝起きが悪いのに、熟睡して数分で起こされたから普段の数倍も機嫌が悪い。理不尽なことに、自分の屁を人のせいにしている。

「ちょっと、さっさと窓開けなさいよ。臭いがこもるでしょ。誰よ窓閉めたの」

「す、すみません……」

 長内がすごすご窓を開けに行く。

「鳥井くんが寝ているから、風邪引かないように閉めたんだけど……」

「こんな臭いおなら嗅がされるくらいなら、風邪引いたほうがましよ。グズグズしないで早く開けなさいよ」

「すみません……」

 長内は由美子の直属の上司だ。長内は三十四歳で課長だからエリートなのだろう。若いのに老けて見えるのは、部下に由美子がいるからだ。かわいそうに。

 窓を閉めた長内は、涙ぐみながらソファーに座る。俺と飛田もビビリながら、由美子の座る三人掛けのソファーに腰掛けた。目の前のテーブルには、先ほどの見取り図が広げてある。覗き込んで見ていると、署長が見取り図を指差した。

「これは小銭銀行横島支店の見取り図だ。君に来てもらったのは、ここに行って欲しいからなんだよ」

「俺が銀行に?」

 顔を上げて首を捻ると、署長は下唇を突き出し渋い顔でうなずいた。

「今朝、そこの銀行に強盗が押入ってね。人質を一人取って立て篭もっている」

「ああ、ニュースで観ましたよ。支店長が人質だって」

「そう。その支店長の体調が思わしくない。持病の喘息が悪化して、相当苦しんでいるようだ。なんとか早く救出しなきゃならん。そこで犯人と交渉して、一つの条件を取り付けた。その時に、君の話を鳥井くんから聞いたんだ。無敵な男がいるとね」

 署長は俺を見てニヤリと笑った。

「どうです署長、真治は無敵だったでしょ。さあ、早くあの作戦を実行しましょうよ!」

 由美子が鼻息荒く言うと、署長も決意を込めた顔つきでビシッとうなずいた。

「よし、実行だ! 飛田くん、長内くん、このことを他の連中にも知らせてこい」

『はい!』

 飛田と長内は元気に立ち上がり、ドタドタと署長室を出て行った。その風圧で、署長のズラがチョイとずれる。隣に座るジジイが、すかさずチョイと直す。なかなか良いところもあるじゃないか。

 横島署軍団は盛り上がりをみせているが、俺とジジイにはなんのことがさっぱり分からない。

「俺はなにをするんです?」

 部下が出て行ったドアを頼もしげに見つめていた署長が、機敏な動きでクイッと俺に顔を向ける。またまたチョイずれたが、手馴れた手つきでスパッとジジイが直す。署長はジジイにも頼もしげな顔でうなずくと、俺を見て「ふふふっ」と笑った。

「君には支店長の身代わりになってもらう」

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