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ヒーローが来た

 横島警察署の前でタクシーを降りたとき、通行人が一斉に俺とジジイに注目した。どの顔も目を丸くして、口を開けているのも気づいていないようだ。

 俺はサングラス越しに辺りを見回すと、「フッ」と口をひん曲げニヒルに笑って見せる。そして、傍らに立つジジイに向けても、顔をしかめて笑って見せた。

「おい、ホール。どうやら俺たちは注目の的のようだぜ。ヒーローになるといろいろ大変だな。フフフッ」

 ジジイは眉間に皺を寄せ困ったように微笑むと、サングラスを中指でクイッと上げ、外人のように両肩をすぼめてお手上げのポーズを決める。

「しょうがねえよ、本物のヒーローを見ちまっちゃあな。さぁ、行こうぜジャック。由美ちゃんが、いや、世界がおいらたちを待ってるぜ」

「おう」

 俺とジジイはマントをひるがえし、人々が見つめる中を颯爽と闊歩した。

 警察署の正面玄関に行くと、こん棒もって両端に立っている警官二人が、あんぐりと口を開けて突っ立てる。どうやら俺たちを見て、あんぐりとしてしまったようだ。まあしょうがない。本物のヒーローを見るのが初めてなんだから、これは致し方ないことだ。 

 ジジイは両足を広げて腕組みすると、ちこいくせに偉そうに胸を張り警官の前に立った。

「ようおめえさん方、由美ちゃん呼んでくれや」

「由美ちゃん?」

 警官の一人はあんぐり顔から、困惑顔になる。

 俺はジジイとバージョンを変え、両手のコブシを握って腰に当てると胸を張った。そして、もう一人あんぐり顔をしている警官に偉そうに告げた。

「俺たちは、鳥井由美子刑事に呼ばれたのでここに来た。ヒーローが来たと、鳥井刑事に伝えてくれ」

「ヒーロー?」

 警官はあんぐり顔から怪訝顔になる。怪訝警官と困惑警官が見つめ合うと、困惑警官が何かを思い出したのか、

「ああ、分かりました。鳥井刑事から聞いてます」

 困惑顔から若干、ほっとしたよ顔になって答えた。だがすぐに眉間に皺を寄せて、またしても困惑顔になるからややこしい。

「聞いてはいますが、ヒーローが来るとは聞いていないですね……。あなた、前田さんですよね? 前田真――」

「しっ」

 俺は困惑警官の口に、自分の人差し指を押し当てる。そして、周りを気にしながらニヒルに言った。

「それ以上は言わないでもらいましょう。確かに俺は、あなたが言おうとしている名前に間違いない。だが、今は迂闊に本名を口にしないでもらいたい。極秘に任務を遂行しようと思っている。世間に俺がヒーローだと知られたくはないんでね。フフフッ」

 困惑警官は嫌そうな顔で人差し指から遠ざかると、怪訝警官と見つめ合い顔を捻った。まあしょがない、本物のヒーローを見たことがないのだから。

「今の俺の名は、ミラクルジャック。そして、隣にいるのが相棒のヒップホールマンだ」

 ジジイは人差し指と中指を二本立て、デコにつけると前に弾いた。全ての仕草が外人かぶれしてやがる。

「ヒップホールマンだ、よろしくな」

「わ、分かりました。とりあえず鳥井刑事に伝えてきます」

 困惑警官の方が、逃げるように署の中に入って行った。まあ無理はない。本物のヒーローを見るのは初めてなのだから。

 俺とジジイは腕組のヒーローポーズを決め、困惑警官が戻ってくるのを待つことにした。

 先ほどから、俺たちのことをじっと見つめている親子がいる。母親は訝しい顔をしているが、小学生の低学年くらいの小僧は羨望の眼差しで見ている。

「ねえママ。あの人たちのマント、カッコいいね。それにピッタリしている服もカッコいいよね。ママ、僕にも買ってよ、あの服」

「いけません! さあ行くわよ。いらっしゃい」

 ママが強引に小僧の手を引っ張り連れて行く。小僧は振り返り振り返り、羨望の眼差しを向けて去ってゆく。

「なあジャック、やっぱりおいらたちはかっちょいいんだな」

「そのようだなホール。お前のセンスもなかなかのもんだ」

「当たりめえよ。おいらはヒーローにはちょっとうるさいんだぜ。ヒャヒャヒャ」

「グフフフッ」

 怪訝警官が俺たちを見つめ首を捻っている。まあしょうがない。初めてみるのだから。

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