闇のちから
朝の光が村を包み込み始めたころ、けんたろうはすでに集会所で村人たちと共に作業を進めていた。
木材を組み立てて壁を作り、リリアの魔法陣を村の入口に配置する。
手を休める暇もなく、皆が一つになって防衛の準備を進めていた。
昼過ぎ、見張りに立っていた少年が叫び声を上げた。
「来たぞ!盗賊たちが来たぞー!」
村人たちは一斉に作業を中断し、各自の持ち場に散った。けんたろうは集会所の前に立ち、リリアと共に盗賊の動きを見据える。
10人ほどの盗賊が武器を構え、村へと進んできていた。
「けんたろうさん、準備はいいですか?」
リリアが不安げに尋ねる。
「もちろんだ。でも、魔法は君に任せるよ。俺には格闘術しかないからな。」
けんたろうは拳を握りしめ、盗賊たちが村に踏み込むのを待った。
そして盗賊らは村へと侵入してきた。
盗賊たちは簡易の壁を見て一瞬戸惑ったが、すぐに攻撃を開始した。
リリアの魔法陣が作動し、何人かの動きを鈍らせる。けんたろうはその隙を突いて、最前線の盗賊に飛びかかり、渾身の一撃を加えた。
「やるじゃねえか、坊主!」
盗賊の一人が挑発するように笑いながら剣を構える。
けんたろうは息を整えながらも次々に攻撃をかわし、反撃を試みる。
だが、彼には武器も魔法もない。素手で戦うのは次第に限界を迎えていた。
一方でリリアは盗賊の後方を狙い、魔法を放ち続ける。しかし、彼女もまた疲労の色が濃くなっていく。
「これじゃ、全員を守るのは無理だ……」
けんたろうは体力が尽きかけた自分を責めながら、敵の剣を何とかかわしていた。
そのとき、けんたろうの頭の中に低く響く声が聞こえた。
「……貸してやるよ……お前の力に加えて、この力の一端を……。」
けんたろうは驚いて立ち止まった。
「お前は……昨夜の精霊か?」
「あぁ。お前はまだ未熟。この状況で無力でいたいのか?さあ、心を開け。力を受け入れろ。」
その声に応えるかのように、けんたろうの体が熱を帯び、闇のような黒いオーラが手から立ち上るのを感じた。
「これは……魔法なのか?」
「そうだ。だが、違う。私の力を媒介してお前が使う。お前自身の"想い"がなければ使いこなせないぞ。」
けんたろうは自分の中に霧散してるモヤモヤした気配を集めようとするが中々集まらない。
「そういうことか。」
けんたろうは心を落ち着かせ、目の前の盗賊たちに向けて手をかざした。すると、黒い霧のような力が自分の中で集まり始め敵を包み込み、その動きを鈍らせた。
ただそれだけの力。動きが遅くなるだけの力。だがけんたろうはそれだけで十分だった。
「何だ、この力は……!」
盗賊たちは初めて見る黒い霧に恐怖を感じ、後ずさりした。
「この力があれば、守れる!」
けんたろうは闇の力を使い続け、敵の武器を無力化し、彼らを次々に追い詰めていく。
リリアも驚きを隠せないまま、彼の戦いぶりを見つめていた。
「けんたろうさん……まさか、魔法が使えるなんて……」
盗賊たちはついに撤退を余儀なくされた。
村人たちは疲労の中にも安堵の表情を浮かべ、けんたろうに感謝の言葉を投げかける。
しかし、けんたろう自身は胸の中に複雑な感情を抱いていた。
「この力……闇の精霊なのか。そいつが貸してくれたのか。俺はこれをこれからどう使うべきなんだろう……」
その夜、けんたろうは一人静かに夜空を見上げながら、自分の選択の重みを感じていた。
光と闇、どちらも使いこなすためには、どうしたらいいのか。今わかっていることは、自分の意志を信じ続けるしかない。
新たな一歩を踏み出す決意が、彼の心に芽生え始めていた。