精霊からの告白
夜の帳が降り、村にはかすかな静けさが戻ってきた。
だが、それは一時的なものであることを、けんたろうもリリアも分かっていた。
取り逃がした盗賊の一人が、アジトに戻り報告をするだろう。
そして、次の襲撃があるのは時間の問題だった。
「けんたろうさん、今日の戦いを踏まえて、夜に作戦会議をしましょう。」
リリアが提案し、けんたろうも眠い目を擦りながらそれに頷いた。
村人たちの安全を確保し、次に備えるためには綿密な計画が必要だった。
夜の会議にて
村の集会所に集まったのは、けんたろう、リリア、そして村の年長者数名だった。
けんたろうは、盗賊たちが次に来るまでに村の防御を強化する方法を議論し、リリアは魔法の知識を基にした提案をいくつか示した。
「この村は防御が脆弱すぎる。木材や石を使って簡易の壁を作るのがいいだろう。」
けんたろうは冷静に意見を述べる。
彼の言葉には、元の世界の異世界もののラノベを読み培った論理的な思考が生きていた。
一方、リリアは魔法の防御を提案する。
「簡単な魔法陣を村の入り口に仕掛ければ、少なくとも敵の動きを一時的に鈍らせることができるはずよ。」
村人たちは不安げな表情を浮かべつつも、けんたろうとリリアの指示に従い、準備を進めた。
その夜、けんたろうは疲れ果て、村人の一人が用意した簡素な寝床で倒れるように眠りについた。
だが、眠りは深い静寂を与えるどころか、不思議な夢の世界へと彼を引き込んだ。
目の前には、闇と光、二つの存在が並び立っていた。それぞれ人の形をしていたが、その姿は揺らめいてはっきりしない。
それに、なにか聞こえる……。
???「ようやく会えたね、けんたろう。」
闇の影が低く落ち着いた声で話しかける。
続けて、光の集合体が柔らかな声で言葉を紡ぐ。
???「私たちは君がこの世界に呼ばれた理由を伝えに来たの。」
けんたろうは困惑しながらも、冷静さを保とうと努めた。
「俺がこの世界に来た理由……?どういうことだ?」
光の精霊が微笑みを浮かべながら説明を始めた。
「元の世界で、君は癒しの力を持つ看護師だった。そして、精神の闇を扱うことに適性を持つ精神科の経験もある。それは、この世界で必要とされる二つの力――光と闇、両方を使いこなせる素質を持つということ。」
闇の精霊が続ける。
「だが、ただそれだけではない。この世界は均衡が崩れ、混乱に陥ろうとしている。光だけでも闇だけでも解決できない問題があるんだ。」
けんたろうは静かに彼らの言葉を聞き、疑問を抱えたまま質問した。
「でも、俺が選ばれたのはその理由だけなのか?何か他に目的があるんじゃないか?」
闇の精霊は短く笑った。
「他にも理由はある。正直に言えば……『適当に選ばれた』部分も否定できない。」
光の精霊がやや困ったように付け加える。
「必要な条件を満たした中で、最も適していたタイミングで死んだのが君だったのよ。」
けんたろうは苦笑しながらため息をついた。
「まさか俺がこんな状況に放り込まれるなんてな……。元の世界の自分なら見て見ぬふりをしたかもしれないな。でも、こっちの世界で自分に力があることが分かれば、目の前で困っている人を見過ごすわけにはいかない。前のような人生はいやだからな。」
光の精霊と闇の精霊は満足そうに頷いた。
「その心がある限り、君はきっと正しい道を選べる。」
「だが、覚えておけ。力は使い方次第で善にも悪にもなる。君自身の意志が鍵だ。」
けんたろうが次に何かを言おうとした瞬間、夢の世界は霧のように消え去り、彼は現実の世界へと引き戻された。
目を覚ましたけんたろうは、自分の手をじっと見つめた。
「俺がこの世界に呼ばれた理由……そして、この力の意味……。」
窓の外には、夜明けの光がわずかに差し始めていた。その光はこれから進む希望のように。新たな一日が、始まろうとしていた