光の力
盗賊が去った後の村には、静けさが戻るどころか、負傷した村人たちのうめき声が響いていた。
その中、民家の影から一人の女性が現れた。彼女の腕には血を流す幼い少年が抱えられていた。
「助けてください!この子が……!」
けんたろうはその言葉に反応し、駆け寄った。
「大丈夫だ、落ち着いて。」
彼は少年の体を丁寧に観察する。
腕には深い切り傷があり、出血が止まっていない。
その傷を目の当たりにした瞬間、けんたろうは看護師としての知識を思い出す。
かつて学んだ人体の構造、止血の仕組み、傷の処置法――それらの情報が自然と頭に浮かぶ。
そして彼は本能的に、今自分がすべきことを理解した。
しかし、応急処置の道具もない状況で、少年を救うには通常の手段だけでは間に合わない。
そう感じた瞬間、胸の奥から不思議な感覚が広がった。
それは、先ほど盗賊との戦いで感じた闇の力とは全く異なる、温かく優しい光の気配だった。
「これも……俺の力なのか?」
疑問を抱えながらも、彼は少年の傷にそっと両手をかざした。
その瞬間、看護師として学んだ知識と、身体の奥から湧き上がる光の力が、繋がるような感覚がした。
手の平から柔らかな金色の光が溢れ出し、傷口を包み込むように輝いた。
光は出血を止め、傷を塞ぎ、皮膚を何事もなかったかのように再生させていく。
少年は穏やかな表情で目を開き、かすれた声で言った。
「お兄ちゃん……ありがとう……」
その言葉に、けんたろうは胸の奥から何かが解き放たれる感覚を覚えた。それは、彼自身がまだ理解できないものだった。
「けんたろうさん!」
驚いた表情のリリアが近づいてきた。
「今のはなに?金色の光が……。まさか光魔法?光魔法なんて使える人、見たことないわ」
リリアはそうつぶやき、また、考え込むような動作へと変わる。
しかし、ふと思い出したかのように
「でも、あなたは闇の力を使っていたのを見たわ。どうして……?」
と、リリアはまた、考え込んでいる。
けんたろうは困惑しながら肩をすくめた。
「俺にも分からない。ただ、目の前の人を助けたいって思ったら、体が自然と動いて……。それに、昔から人を救うための知識を学んできたんだ。それが、何かの形で力に繋がったのかもしれない。」
リリアは彼の手をじっと見つめ、微笑んだ。
「あなたの力には、善と悪、光と闇、両方の側面があるのかもしれない。でも、その力をどう使うかは、あなた自身の意志にかかっているのよ。」
その言葉にけんたろうは深く頷いた。