表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

迷い人の訪れ

村への道


リリアの後をついて森を抜けたけんたろうは、思わず足を止めた。


眼前には、木造の建物が立ち並ぶ小さな村が広がっていた。青い瓦屋根が光を反射し、煙突からは薄い煙が立ち上る。

どこか懐かしい雰囲気が漂うその景色に、けんたろうは一瞬だけ故郷を思い出した。


「ここがロンド村です。小さいですが、平和な場所ですよ。ただ、近くに森があり危険地帯なので油断は禁物ですが……」


リリアはそう言いながら、村の門を通り抜けた。門の近くには見張りのような若い男が立っており、リリアを見るなり軽く手を振った。


「おい、リリア! また勝手に森に行ってたのか? 危ないっていつも言ってるだろ!」


「大丈夫よ、ジェイド。ちゃんと戻ってきたじゃない。それに……ほら、今日はちょっと変わったお客さんがいるの」


リリアはけんたろうを振り返り、彼をジェイドと呼ばれた男に紹介した。


「この人、森で迷子になってたのよ。村長のところに案内するつもり」


「迷子? こんな場所で? おいおい、怪しいやつじゃないだろうな?」


ジェイドはけんたろうを頭からつま先まで鋭い目で観察した。

けんたろうは慌てて両手を挙げ、リリアにしたのと同じように無害であることを必死にアピールした。


「いやいや、本当にただの迷子だよ! 訳が分からないうちに森に迷い込んでてさ……リリアに助けられたんだ」


ジェイドはまだ納得しきれない様子だったが、リリアが軽く肩をすくめて言った。


「もし問題があるなら村長が判断するでしょう。私が責任を持って連れて行くから、ジェイドは黙ってて」


「……分かったよ。ただし、変なことをしたら容赦しないからな」

険しい目を向けるジェイドを背に、けんたろうはリリアについて歩き出した。



---


村長の家


村の中心部にある一際大きな家。それが村長の住居だった。リリアは扉を軽く叩き、「リリアです。少しお話したいことがあって」と声をかける。中からは落ち着いた年配の男性の声が返ってきた。


「入りなさい」


リリアに促されるまま中に入ると、白髪混じりのひげをたくわえた男性が椅子に座っていた。彼の名はアルフレッド。村長として長年ロンド村を治めてきた人物だ。


「また、森に入ってきたのか。あれだけ言っても入るのをやめないなんて。はぁ……。ところで、リリア。この男は誰だね?」


アルフレッドの視線がけんたろうに向けられると、けんたろうは慌てて頭を下げた。


「あ、初めまして。けんたろうと言います。森で迷子になっていたところをリリアさんに助けてもらいました」


「迷子、か。森の奥で迷子になるというのは奇妙な話だが……リリア、この男について何か気づいたことは?」


リリアは少し考え込み、ゆっくりと口を開いた。


「服装がこの国のものではありません。それに、魔法も知らないようで……彼自身、どうして森にいたのか分からないと言っています」


「ほう、それはますます奇妙だな。けんたろうくんだったか、君の話が本当なら、君がここにいる理由を詳しく説明してもらおう」


アルフレッドの厳しい眼差しに、けんたろうは答えに窮した。

異世界から来たとは言えないが、嘘をつくのも賢明ではない。そこで、できるだけ曖昧に答えることにした。


「正直に言うと、自分でもよく分かりません。気がついたら森の中にいて……ここがどこなのかも分からなくて。リリアさんがいなければ、今ごろどうなっていたか」


その言葉に、アルフレッドはしばらく黙っていたが、やがて深くため息をついた。


「分かった。君が本当にただの迷子であるなら、村でしばらく様子を見るといい。だが、この村に危険をもたらすようなことがあれば、その時は容赦しない」


「ありがとうございます!」


けんたろうは深々と頭を下げた。その後、村長の家を出た二人は、リリアの家へと向かった。



---


リリアの家


リリアの家は、村の端にある小さな木造の家だった。中には薬草や瓶詰めの薬が所狭しと並んでおり、彼女が薬師として働いていることを物語っていた。


「ここが私の家です。ずっと泊めてあげるわけではないけれど、今日はとりあえずここで休んでいて」


リリアは簡単な食事と水を用意し、けんたろうに差し出した。


「ありがとう、本当に助かるよ」


けんたろうは礼を言いながら食事をとった。リリアはそんな彼をじっと観察しつつ、ぽつりとつぶやいた。


「けんたろうさん、あなた……本当に普通の人間なんですか?」


突然の問いに、けんたろうは思わず箸を止めた。


「え? どういう意味?」


「なんだか、あなたからは普通の人と違う雰囲気を感じるの。森で助けたときも、妙に冷静だったし……何か隠していることがあるんじゃないかって」


リリアの鋭い眼差しに、けんたろうは胸の内が見透かされるような感覚を覚えた。

だが、それでも簡単に全てを話すわけにはいかない。


「いや、本当に何も知らないんだ。ただの迷子だよ」


そう答える彼の声には、わずかな迷いが混じっていた。リリアはそれ以上追及せず、小さくため息をついた。


「……まあ、今はそれでいいです。でも、何か分かったらちゃんと言ってくださいね」


「わかった。約束するよ」


けんたろうはそう言いながら、自分の胸に込み上げる不安を押し殺した。リリアの家の窓から見える夜空には、見たことのない星座が瞬いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ