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魔法と無謀

けんたろうは一瞬言葉を詰まらせた。


「どちら様でしょうか」と問われて、答えるべき言葉が見つからない。


「えーと、俺は……ただの通りすがりです」


適当な言葉を返したが、目の前の女の子は不審そうに眉をひそめた。


「通りすがり、ですか。こんな森の奥で?」


それもそうだ。周りを見渡せば、鬱蒼とした森の中。普通の人間なら、こんな場所を目的もなく歩くなんてことはないだろう。


「うん、まあそうだよな。でも、俺も訳が分からなくてさ。気がついたらこの森の中にいて……あ、決して怪しい者じゃないから!」


必死に両手を上げ、無害であることをアピールするけんたろう。


女の子はじっとけんたろうを観察する。


疑念が完全に晴れたわけではなさそうだが、ため息をつくと、小声でつぶやいた。


「まあ、いいでしょう。私もこんな場所で人に出会うとは思っていませんでしたけど。あなたのような格好の人も初めて見ますし……」


けんたろうは自分の服装を見下ろした。ポロシャツにおしゃれチックな綿パン。普通の現代日本人の格好だが、ここでは明らかに浮いているらしい。


「確かに、こっちの人たちと違うのかもな。でも、そんなことより……」


けんたろうは意を決して尋ねた。


「ここはどこ?それと、さっきのあれ、もしかして魔法?」


女の子は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を引き締める。


「……あなた、本当に何も知らないんですね。ここはリフィルスの森。エイレナ王国の北端にある、魔物の出没する危険地帯です。そして、さっきのは火属性の基礎魔法、《フレイムショット》。……あなた、魔法も知らないなんて、どこから来たんですか?」


リフィルスの森? エイレナ王国? 完全に聞いたことのない単語ばかりだ。けんたろうの中で「異世界転生」の可能性がますます濃厚になる。


「えーと、それが、どこから来たかって言われても……遠いところとしか……」


曖昧に答えながらも、自分が異世界人であることを明かすのはさすがに危険だと判断した、けんたろう。


女の子は不信感を抱きつつも、それ以上深くは聞かなかった。代わりに少しだけ柔らかい表情を見せると、自己紹介を始めた。


「私はリリア。エイレナ王国のロンド村出身です。今日は森で薬草を採っていたんですが……まさか魔物に襲われるなんて」


周りを気にしつつも律儀に言った。


けんたろうも名乗ってくれたからにはこちらも返す必要があることくらいはわかっている。


「リリア……。ありがとう、さっきの猪から助けてくれて。俺はけんたろう。まあ、ただの迷子みたいなもんだよ」



「けんたろう……珍しい名前ですね。どこかの異国の方かしら?」


適当に笑って誤魔化すけんたろうだったが、リリアの目は鋭い。怪しさを完全に消すことはできない。


「それで、けんたろうさん。あなた、武器も持っていないようですが、よく無事でしたね。この森に入るなんて自殺行為ですよ」



「武器なんて持ってないよ! ていうか、そもそもこんな場所に入る気もなかったし!」


けんたろうは反論するが、リリアは首をかしげるだけだった。


「まあ、とにかく。こんな場所にいても危険ですから、村まで一緒に来てください。あなた一人ほったらかしにするのもモヤモヤしますし……」


「え、いいのか?」


「その代わり、私の質問には正直に答えてくださいね。何か隠していることがあるのなら、村長に相談します」


半ば脅しのような条件付きであったが、けんたろうには他に選択肢はない。


「わかったよ。お世話になります」


こうしてけんたろうは、リリアと共に森を抜け、村を目指すことになった。


その道中


けんたろうはリリアから様々なことを聞いた。


リリアは幼少のころから魔法を学び、現在は村の見習い薬師として働いているらしい。今日も薬草を採るために周りの人には内緒で森に入ったのだが、思わぬ猪との遭遇に驚いたとのことだった。


「あなた、本当に魔法を見たのが初めてなんですか?」



「いや、まあ……見るのは初めてだけど、こういう話は知ってるっていうか……」



「変な人ですね。魔法を知らないで生きてきたなんて信じられません」



リリアの話を聞きながらも、けんたろうは心の中でひそかに焦っていた。


「これ、異世界転生確定だろ。どうするよ。帰る方法とかあるのか? それとも、ラノベみたいにこの世界でなんとか生き抜くしかないのか?」


そんな彼の思考は、森の出口が見えたことで中断された。


「あと少しで村に着きます。村長のところに案内しますね」



けんたろうは重い気持ちを抱えながらも、ひとまずリリアの後について歩みを進めた

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