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旅立ちと賊

けんたろうは、村を後にして歩き始めた。

村人たちに迷惑をかけるわけにはいかないと、馬車や荷車の提供を断り、自分の足でリザベルクまで向かう決意を固めていた。


街道は比較的整備されているが、成人男性でも1ヵ月ほどかかる長い道のりだ。

それでも彼の胸は期待と冒険への興奮で高鳴っていた。


「これが俺の第一歩だ......絶対に精霊の力を手に入れてみせる。」


彼の手には村で作られた簡素な剣が握られていた。護身用にリリアが持たせてくれたものだ。


荷物は最小限にまとめられており、水筒と干し肉、そして村に伝わる古い地図があるだけだっ た。


けんたろうは子どもの頃からキャンプや野宿を楽しんでいたため、サバイバルには自信があった。


初日は順調だった。

村から少し離れると見渡す限りの森が広がり、風の音と鳥のさえずりが心地よい伴奏となった。


けんたろうは道中、野生の動物が現れるたびに注意深く観察し、時には安全な距離から狩りをすることもあった。

小さなウサギや鳥を捕らえ、その場で火を起こして簡単な料理を作る。


「こんな調子ならリザベルクまで案外楽に行けるかもな。」


焚き火を囲みながら夜空を見上げ、彼は自分の甘い考えに気付かないまま旅の続きを楽しんでいた。


それから数日が経ち、街道沿いの森がさらに深くなると状況が一変した。


その日、けんたろうが昼食のために立ち止まり、火を起こそうとしていたときだった。背後から複数の足音が迫り、 すぐに男たちの笑い声が聞こえてきた。


「よう兄ちゃん、こんな森の中で何してんだ? 道に迷ったか?」


声をかけてきたのは粗末な革の鎧を身にまとった男で、手には錆びた剣を持っていた。

その背後には同じような装備をした男たちが15人以上もいる。彼らは明らかに賊だった。


けんたろうは一瞬で状況を把握し、剣を握り直した。実際剣は使えないものの形上刃を向けている。


「何の用だ?」


「そりゃあ決まってるだろう。持ってるもの全部置いていけってことさ。ついでに命ももらうかどうかはお前次第だ。」


男たちは嘲笑を浮かべながらけんたろうを囲むように広がった。彼の背筋に冷たい汗が流れる。

相手は人数で圧倒的に有利だったが、彼は諦めなかった。




けんたろうは深呼吸をし、周囲を見渡した。

森の中で足場が悪いとはいえ、 彼は鍛え上げた身体能力に自信があっ た。

訓練の成果を試すには絶好の機会だった。


「わかった、全部置いていくよ。」


彼はわざとおどけた声を出しながら、 背後の木にゆっくりと近づいた。その動きを見て油断した賊たちが笑い声をあげた瞬間、けんたろうは地面の土を蹴り上げて目の前の男に砂を浴びせた。


「……くそっ!」


叫び声とともに前列の男が怯んだ隙をつき、けんたろうは剣を投げ、鋭い一撃を繰り出した。


拳が相手の鎧を弾き、男が地面に転がる。驚いた他の賊たちが一斉に武器を構えるが、けんたろうは素早く動き続けた。


圧倒的な数の前で


けんたろうの力は生半可なものではなかった。村での長年の鍛錬と実戦経験が彼を支え、賊の数人を打ち倒した。

しかし、相手は15人以上いる。数の差は徐々にけんたろうの動きを制限し、 彼の体力を奪っていった。


「おい、こいつただの旅人じゃねぇぞ!」


賊の一人が叫ぶと、仲間たちがさらに警戒を強める。

けんたろうは追い詰められ、周囲を囲む輪が次第に狭まっていく。


そのときだったーーけんたろうの体がふと熱を帯びるような感覚に包まれた。


あの黒い霧と熱の記憶が頭をよぎり、胸の奥底から力が湧き上がる。


「また......あの力か?」


彼の目の前に、一瞬だが黒い霧が現れた。が、それを見た賊たちは後ずさりし、 明らかに動揺している。


「なんだ、あれは......」


しかし、霧はすぐに消えてしまった。


けんたろうは歯を食いしばり、再び剣を構える。次の瞬間、賊たちの背後から何かが音もなく現れた。




森の奥から現れたのは、深い緑のロー ブを纏った人物だった。


その手には杖が握られており、静かにけんたろうと賊たちを見つめている。


「おやおや、賊たちが群れを成して何をしているのかと思えば...... お遊びはここまでだ。」


その人物が静かに杖を振ると、風が巻き起こり、賊たちの間に閃光が走った。


叫び声をあげて逃げ出す賊たちを見送ると、ローブの人物はけんたろうに微笑みかけた。


「君、大丈夫かい?」


けんたろうは息を整えながら、目の前の人物を見つめた。


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