精霊と旅立ち
けんたろうは、思い返していた。
あの戦いで一瞬だけ発現した精霊の力。
あの圧倒的な力は自分のものではなく、どこか得体の知れない存在から借りたものだったことを。
リリアの言葉に背中を押され、自分なりにその精霊と何度も繋がろうと試みていたが、うんともすんとも返事がない。
「おい、いるんだろ?何か言ってくれよ……」
けんたろうは空に向かって心の中で呼びかけるも、風が頬を撫でるだけで返答はない。何度呼びかけても結果は同じだった。
自分なりの試行錯誤の日はそれからも続き、けんたろうは諦めず、自分なりの方法で精霊に繋がる方法を模索した。
村の神社で祈りを捧げたり、焚き火を囲んで夜遅くまで集中して瞑想したり、村に伝わる古い魔法の書物をひっくり返したりもした。
しかし、どれも成果には繋がらない。
時折リリアが手伝ってくれた。
彼女は村で唯一の魔法使いとして、けんたろうの訓練相手を務めてくれたが、
「やはり、あなた自身の魔力の流れは感じられないね」
とため息をつくばかりだった。
けんたろうは自嘲気味に笑い、「俺にはただの筋トレくらいしか向いてないのかもな」と肩をすくめた。
月日は流れ……
そんな日々が続き、やがて2年の月日が流れた。
けんたろうはその間、村の防衛や農作業を手伝いながら、日々の鍛錬を続けていた。
しかし、精霊からの応答は一切なく、あの黒い霧と熱を伴う力は戻ってこない。
ある日のことだった。村にやってきた旅の商人が、けんたろうの興味を引く話を持ってきた。
「そういえば、このあたりじゃ珍しい話だけど、精霊使いの噂を耳にしたことはないかい?」
けんたろうはその言葉に飛びついた。
「精霊使い?それはどこにいるんだ?」
商人は少し驚きながらも、情報を提供してくれた。
「その人は街道沿いの大都市、リザベルクにいるらしい。人間なのに精霊を呼び出して共に戦ったと聞くよ。普通の人間は自分の魔力を使うのが普通だけど、あの人だけは違うらしいね。」
その話を聞いたけんたろうは胸が高鳴った。
長い間手がかりもなく、孤独な戦いを続けてきた彼にとって、ようやく訪れた光明だった。
「リザベルクか……遠いな。でも、行く価値はある。」
けんたろうはそうつぶやくと、旅立つ決意を固めた。
翌朝、彼は村の人々に別れを告げた。リリアは驚きと寂しさを隠せない様子で、「けんたろうさん、本当に行くんですね。でも、あなたなら大丈夫。きっと精霊に認められますよ」と励ましてくれた。
「ありがとう、リリア。俺は精霊の力を手に入れて、もっと強くなって帰ってくる。」
荷物をまとめたけんたろうは、村の出口で一度振り返り、懐かしい風景を目に焼き付けた。そして、精霊使いを探す長い旅路に足を踏み出した。




