第二章 黒い花と黒い母親
白い少女と黒い少女がいた。
「………」
「どうかしたの?」
黒い少女は俯く白い少女に寄り添った。
白い少女は夕日を見つめる。
「あの女を殺して」
白い少女は消えそうな声で言った。
「それは私が決めることよ」
「そう。でもあなたはきっと殺すわ」
「そうね」
黒い天使が飛び立った。
波の音。
あの日から変わらないこの海。
少年と少女がいたときと変わらないまま。
一人の男が白銀の幼い少年の写真を持って波打ちぎわに立っている。
「……ぼっちゃま、綺麗でございますね」
独り言のように呟いて笑った。
精一杯笑った。
見慣れない風景。
あの海とは遠く離れたこの町。
一人の女がソファーに座って外を眺めていた。
坂城ナウ。
あの坂城メアの母親。
メアを殺した本人。
あの後、ナウは会社に復帰し社長まで駆け上った。
「これもあのwhite girl(白い少女)のおかげね~」
ナウは満足そうに笑った。
その時、ドアの叩く音がした。
「What?」
ナウが振り向く前にドアが開かれた。
「Hello.Nice to me to you(こんにちは。はじめまして)」
そこには真っ黒な少女が立っていた。
ナウは面倒臭そうに顔をしかめた。
「何?あなた」
「すごいですね。私が日本人だと気づくとは」
黒い少女は無表情のまま言った。
「何しに来たのかしら?white girl(白い少女)と関係がありそうね。Black girl(黒い少女)?」
「そうよ、イフのこと覚えているのですね?」
「もちろんよ、メアが死んでからもう八年経つのね~。あんな役立たずな息子でも役に立ったわ」
ナウはさり気なくウィンクした。
黒い少女はそれをなんでもないかのように見つめた。
「あなたは悲しい人ね」
「?」
「あなたは過去二つの命を奪ったわ」
黒い少女はまっすぐにナウを見た。
「メアの命と、その姉のサリナの命」
「そうね~」
ナウは笑いながら目の前においてあるカップティに手を伸ばした。
「十年前にサリナを殺し、八年前にメアを殺した。あなたは自分のしたことをどう思っているのですか?」
「そうね、大成功だったわ~。最初は少し迷ったけど、今になっては殺してよかったわ」
「違います。そのことではありません。メアとサリナのことをどう思っているかを聞いているんです」
黒い少女は静かに言い張った。
ナウは紅茶を口に含みながらう~んと唸る。
「そうねぇ……別になんとも思ってないわ。むしろ”邪魔”だったかしらね。だから殺してよかったわ。邪魔者はいなくなったし、会社の社長になれたし~、一石二鳥ね」
「……そう」
ナウは笑って黒い少女を見た。
「ところで、あなたは何をしに来たのかしら?」
「私は天使のイズ。あなたを―――――
殺しにきました」
黒い天使が笑って。
「散れ」
――――真っ黒な花が咲いた。
とてつもなく残酷な真っ黒な花が。
坂城ナウ、飛び降り自殺。
動機、不明。
飛び散った真っ黒な血が花開いた。
「あなたは死ぬべき」
黒い天使は笑った。
心のない真っ黒な女の死を。
嘲笑うかのように。
白い少女が笑っていた。
「花が咲いたようね」
「黒い花よ」
「白い花は咲かないのかしら」
白い少女は面白そうに笑っていった。
「さぁね」
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