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第一章 兄との約束


白い少女が黒い少女の隣でまた泣いていた。



「イフ、そろそろ時間だわ。ちょうど十年。」



「あの子はどうするの、イズ。」



白い少女は尋ねた。



「まだ分からないわ。どっちにしろ、いつか死ぬんだけどね。とりあえず、あの子のお兄さんからの心、伝えてこないと。」




「うん。」       


白い少女は小さくうなずいた。



黒い少女は真っ黒な羽を広げて飛びかった。









黒い天使。





残酷なほど美しく花開く黒い天使。



また今日もどこかで笑っている。







また夏がきた―――。


あの大嫌いな夏だ。





斎堂神楽。


現在26歳。



長かった髪はばっさり切って、顔も昔の憎しみの籠もった顔ではなく、時隆のように和やかな顔つきになっていた。



あれから十年がたっていた。


あの日、時隆が死んだ日から十年。





「あっという間だったよ。」



神楽は仏壇の上の時隆の写真を見て呟いた。


今も昔と変わらない時隆の笑顔。




ずっと笑ってる。





妹から愛情の代わりに憎しみを貰い。


それでも、時隆は笑って死んでいった。





「もう、あれから十年。私はどんどん年を積み重ねていって、あんたは写真の中で昔のまま。」



今、神楽は医師の仕事に勤めている。


毎日、忙しい日々が続くが神楽は時隆のことを忘れたことは一度もない。


仕事の時は机に時隆の写真を置いておき、いつもその笑顔に励まされている。




今日もまた。





「……!」



神楽は振り返った。


誰かに呼ばれたような気がした。




「―――誰……?」





気配が感じられる。


神楽はすっと立ち上がり玄関へ歩いていった。


玄関の扉を開けると朝の眩しい光が差し込んだ。






――――。






また呼ばれた。




神楽は無意識に家を飛び出していた。


どこへ向かっているのか分からなかった。


ただ、何かが自分を導いているように感じられた。





そして、ある場所で足が止まった。





「ここは………。」





険しい森の前にそびえ立つ鳥居。


まるで、未知なる世界への入り口のよう。





昔、来たことがある。





『早くしろよ!』



『待ってー。』





………そうだ、あの日の夏―――。




神楽は鳥居に足を踏み入れていた。


草や枝を掻き分け奥へ進んでいく。




何かが呼んでる。




小さな光が見えてきた。



出口だ。




バサァァ



視界が急に広くなった。



光が眩しい。


そして、神楽の上にちらちらと何かが振ってきた。




「……花びら……。」



視線を上に向ける。





「わああぁぁ………!」




見上げると、満開の桜の木がそびえ立っていた。



桃色の花びらが神楽の昔の記憶を運んできた。






『おい!神楽!早くこいよ!』



『待ってよ、お兄ちゃん!』



あの日も暑かった―――






「ほら、早く!」


時隆は神楽を背に険しい道をどんどん進んでいく。



「はぁ……早いよぉ…!」


神楽は息を切らしながら無我夢中で時隆を追っていた。


追い付くと時隆は空を指差した。


「見てみろ!あれ!」



「……わあぁ!すごい!綺麗……。」



「だろ?」



時隆は自慢げに鼻をすすった。



「この桜はな、開花が遅いから今の時期が一番綺麗なんだぜ。夏でも見れるってすげーだろ!」



「うん!ありがとうね!お兄ちゃん!」



神楽は無邪気な笑顔で走り回った。


それを嬉しそうに時隆は笑っていた。



『お兄ちゃん!また、連れてきてね!』



『あぁ、約束だ!』









約束だ。









桜は絶えなく薄桃色の花びらを散らしている。



「兄さん……約束、守ってくれたんだ………。」


神楽は涙を流しながら、桜を眺めていた。




「ありがとう……兄さん……。」



神楽は笑顔で桜に向かって言った。


それを後ろで見ている少女がいた。





「伝えたわよ。あなたの心。あの子は生きるべきね。私に命を奪う資格はないわ。」




そして少女はやさしく笑った。





黒い少女は笑った。






「イズ、あの子、生かしてくれたのね。」



白い少女は笑顔で泣いていた。



「えぇ。生きるべきだわ。お兄さんのためにも。」




黒い少女はやさしく微笑んだ。




.

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