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夢を見てみよう


私が頷いたのを見てからシュラフは部屋の隅から一枚の紙を持ってきて机の上に広げる。

方眼紙にたくさんの線が引かれ、ところどころに外の看板に書いてあったものと似た記号がいくつも書き込まれている。

どうやらこの近辺の地図のようだ。

書き込まれている記号はおそらく地名だろう。

やはり個の記号は意味がわからないが、いくつかの塊としてみれば文字のように読むことができる。

地図の隅、地図の見方が正しければ北西の辺りに「テハイサ」や「ヨコト」と読める記号がある。

一通り眺めてみるが、私の知っている日本の地図には到底見えない。

それとこの地図の縮尺がどれほどか分からないけれど、点在する町や村の大きさや距離的にあまり大きな国ではなさそうだ。

多分北海道よりも小さいかもしれない。

あくまで見た印象ではあるけど、どこかの大陸の小国かもしれない。


「僕たちがいるのはこの国の端っこの村の更に奥の森の中になるんだけど……」


そう言ったシュラフが「テハイサ」と書いてある横の辺りをつつく。

地図にギリギリ入っていることと、シュラフの“国”という単語から察するにこの森は国境の近くなのだろうか。

そう考える私を置いてシュラフの指がつっと地図を撫でていく。


「ヨコトの町まで行けばまあ大抵のところまでは馬車が出てるって聞いたことがあるから、

サヨおねえさんが帰って行くなら目指すのはこの町になる……だろうけど」


そこで言葉を止めたのが気になって顔を上げれば、チラッとシュラフがこちらを見た。

そして地図を見つめながら口を開く。


「もう一度聞くことになるんだけど、サヨおねえさんはどこの人なの?」


馬車代という言葉から後ろはもごもごとしてハッキリ言ってくれなかった。

そういえばここまで何も疑問に思わなかったが私は何の荷物も持っていない。

今更になってポケットを確認してみるものの、何もなかった。

つまり私は無一文である。

シュラフもそれに気づいているのだろう。

確かに遠くに帰るなら相応のお金が必要になる。


改めてじっと地図を見る。

「ウオヨジンテ」「イカウヨキ」「イカサ」「ヨシバイ」「ウソッベ」……。

全ての地名を読んでみたがどこも聞いたことのない名前だ。

中央付近にひとつだけ大きく書かれた記号がある。

「カナンマ」と読めるそこがもしかするとシュラフの父親が行ったという王都かもしれない。

現在地からものすごく離れているわけではないが、動物を置いて出かけるには遠い。

父親の方から帰ってこない限り、残された子どもが訪ねて行ける場所ではないだろう。

胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになるが、それを振り払って私は地図から目を離す。


「ねぇ、シュラフ」

「ん?なぁに?」

「え、っと……くう、こうの、ある場所、って、どの、ま、ち?」

「クウコウ……?」


シュラフがこてんと首を傾げる。

空港で通じなかったのだろうかと思って言い方を変えてみる」


「あの、ひ、こう、きが……とん、で、いく、ところ」

「ヒ……コウキ?飛んで……?」

「…………?」


お互いに首を傾げあう。

なぜか、嫌な予感がして私は胸元を押さえた。

おかしい。

私と彼との間に大きく横たわる違和感が徐々に不安へと変わっていく。


そうだ、考えてみればどうして私と彼は会話が成立しているのだろう。

ここが日本ではないのは明らかで、彼もシュラフという名前からして日本人ではない。

看板や地図にも日本語は書かれていない。

とするならシュラフが話しているのはこの辺りの現地語で間違いない。

ならば、日本語で話す私と言葉で意思疎通が出来てしまうのはおかしい。

そうやって私が考え込んでいるのを見てシュラフがうーんと声を漏らす。


「もしかしてただの迷子じゃないってことかな?

えっと、クウコウとかヒコウキって僕は聞いたことがないし、

珍しいものは王都にあるって聞くけど……王都の人でもないんでしょ?近くに住んでた?」

「…………ううん」


シュラフの問いに首を横に振る。

気になることは多いけど、今はそれを考えている時ではない。

眉根を下げてしまった彼をさらに困らせるかもしれないけれど、私はゆっくりと話し始める。


「あの、ね……わた、しは、この、近く、から、きたわ、けでは、ない、の」

「遠いところってこと?ウオヨジンテの方とか?」

「ううん、もっと……とお、いとこ……この、国の、外、のね……」

「……? 何を言ってるの?」

「えっと、わかり、づらい、かな?」

「そうじゃなくて……サヨおねえさん、ふざけてるわけじゃないんだよね?」






「この国に外なんてないよ」



きっぱりと、ふざけた調子もなく彼はそう断言した。

今度は私が困惑する。

慌てて私は地図を見る。上下には海があると書かれているのを見て下を指差した。


「で、も……この、海?をわた、れば……外、でしょ?」

「だから、外なんてないってば。海を南下していったら北の海に行くだけだよ」


シュラフが私の指が置かれた場所から指を下に動かしていく。

地図の端まで行けば、ぴょんと跳ねるように指を真上に持っていって地図の最上部に指を置いた。


「どこもそうだよ。地図で見れば端だけど、北東の先なら対角線にある南西に出る。

あ〜……僕の家の奥は事情が違うけど……。

丸型の地図が家にはないから見づらいだけでこの国は王都を中心にぐるっと一周できるようになってるんだよ。

だから国の外って言ったら……空の向こうならそう言ってもいいかも?」

「…………」


最後の一言こそ冗談混じりだっただろうけど、シュラフが嘘をついているようには思えない。

でも信じ難い話だった。

ここはそもそも私の知っている世界地図の中ですらない。

そんなことあり得るのだろうか。

いや、そんな話じゃない。実際問題私はここにいるのだから。

今考えるべきことは、シュラフが求めているのは『私がどこからきて、どこへ帰って行くか』その答えだ。

実際に帰られるかは置いておいて聞かれたことを答えなくてはいけない。

視線を地図からシュラフへ向ければ、彼もじっと私を見ていた。

そして器用に片眉だけあげる。


「……もしかしておねえさん、記憶喪失ってやつ?」

「ち、ちがう、よ!えっと、ね……わた、し、は……」


首を横に振って慌てて言葉を重ねようとする。


私は日本という国から来た。


私が帰るならそこ…………の…………。



「サヨおねえさん?」


シュラフの声が遠い。

気づいた。

気づいてしまった。

目の前が暗くなっていく。

独りぼっちの空間で、脳に私の声が響く。



私に帰る場所なんてない。

あそこから逃げることを選んだのは私。

お父さんとお母さんに貰った命を途中で捨てることを選んだのは私自身。


お前に。




帰るべき場所なんてない。








「……っ……さん!……えさん!!サヨおねえさん!!!!」


びくりと身体が跳ねる。

私の名前が呼ばれていたと理解するのと同時に感覚が急速に戻ってくる。

いつの間にか私は床に座り込んでいた。

肩を強く掴まれている。

正面にいるシュラフが心配そうにこちらを覗き込んでいる。

そして私の顔を見て何かに驚いたように目を見開いた。

肩を掴んでいた手が離れてそっと私の頬に伸びてくる。

彼の指先が触れて、何かを掬い取るように撫でた。


「どうして泣いてるの?」


え、と思って彼の指先を見れば濡れていた。

そこでようやく私は自分の目から涙が落ちて頬を伝っていることに気が付いた。

慌てて自分の手で乱雑に涙を拭う。

だけど、目からこぼれ落ちる涙は止まらない。

私の意志に反してポロポロと流れ落ち続ける。


「ごめんね。僕が嫌なことを聞いちゃったから」

「ちがっ!ちが、うの!わた、しが、勝手に……私が、気づいてしまったから……」

「気づく……?何に?」

「…………私、もう帰っていい場所がないの」


肩を支えてくれるシュラフの手を静かに払う。

じんわりと伝わってきた温もりが空気に消えて行く。

そうだ。私はこんな優しい場所に居てはいけない。

ここまで何度も涙を堪えたじゃないか。


私は、私が与えてもらえなかった温もりが辛くて泣きたかった。


ずっと欲しかった。誰でもいいから、ほんの一欠片でも構わないから。

だけど叶わなかった。そして期待する気持ちをこれ以上抱えていることが苦しくなった。

そして、あの人の言葉で苦しみに耐えていた最後の理性もバラバラになった。



「ごめんね……私、本当は貴方に優しくしてもらっていい人間じゃないの。

私は、もう死んだはずなの。自分で、自殺を選んだの。

だから終わっているべきなの。何も貰っちゃいけないの。

そうじゃなきゃ……自分勝手に生きることを辞めたような人間が、苦しさから逃げた私が、

誰かに優しくしてもらえるなんてそんな都合の良い夢、見る資格なんて、私にはない」


涙が止まらない。

心臓の鼓動も止まってくれない。

どちらも今すぐ止まって欲しい。

これ以上期待をしたくない。

これ以上苦しくなりたくない。

これ以上……もうこれ以上、辛い気持ちになんてなりたくない。





それなのに。


温かい手が、腕が、体が、私を包もうとしてくる。


止めて!


触らないで!


もう優しくしないで!


叫ぼうとした声は口から出せなかった。

あんなにベラベラ喋っていたのが嘘のように声が出ない。

ううん。何かに堰き止められているように声が出せなかった。

何かが私の体の自由を奪ってしまったように指の一本も動かすことができない。

戸惑っている間に私とそう大きさの変わらない彼の腕が私を抱き寄せる。


温かい。優しい。辛い。怖い。

いろんな感情が私の中でぐちゃぐちゃに混ざっていく。

そんな私の耳に、彼の言葉が入り込んできた。



「おねえさんは……ううん。サヨは、頑張り屋さんだったんだね」


子ども特有の高い声色。

だけど話し方はまるで大人の人のように静かで落ち着いていた。


「そしてすごく真面目なんだ。だから自分のしたことを自分で許せないんだね」


一滴、また一滴と乾いたところに染み込ませるように、慎重に言葉が紡がれる。


「悲しいのも、苦しいのも、自分のせいだって、自分の責任だって思っているんだね」


「……君がそう思うなら、君がそういう選択をしたなら、確かに責任は背負うべきだ。

君は選んだ。そして今の君は自分の選んだ道の先にいる君だ。

それは覆しようのない真実で、紛れもない現実だ。

君は、逃げることを選んだ自分を否定してはいけない」



「…………だけど」


「だけどそれは君自身の問題であって僕を否定する理由にはならないよ、サヨ」


背中に回された腕に強く力を込められる。

隙間がないほど密着した体から温もりと小さな振動が伝わってくる。

懐かしいリズムで繰り返し震えるソレは、彼の心臓の鼓動だ。

私の体の内側の物よりゆっくり脈打つ音が身体越しに響いてくる。


「僕は君のことを知らない。

どうしてそんな風に自分を責めるようになってしまったのか、どうして死を選んだのか。何もわからない。

だけどね、ほんの少ししか一緒にいない僕でも分かることはあるよ。

……サヨはとっても優しいってこと。

寂しいって言った僕を、見ず知らずの僕を甘やかしちゃうくらい優しいおねえさんだってことは、分かるんだよ」


そっとシュラフの体が離れる。

正面から私を見つめるその目は、優しくて、穏やかで、暗い。

光を反射しない暗く黒い色にまるで吸い込まれていっているようだ。

目を離すことができない。

未知の感覚、だけど不思議と恐怖はない。

それは静かで穏やかな夜の暗さの中にいるような気持ち。

月も星も見えないのに、自然と眠りに誘ってくれる安心感がどうしてか彼の瞳を見ていると溢れてくる。


こつん。


ずっと瞳を見ている間に近づいたシュラフの額と私の額がぶつかる。

じんわりと移ってくる熱が、静かに私の中の何かを溶かしていく。


「辛かったね。

苦しかったね。

悲しかったね。

たくさん頑張ってきたんだね。

だけど少しだけ間違いを直させて。

都合の良い夢を見るのに資格なんていらないよ。

優しいだけの夢を見るのは悪いことなんかじゃないよ。

だって、人は眠る時の夢を選ぶことなんて出来ないんだから。

夢の形はいつだってあやふやで、楽しいことも、辛いことも全部ごちゃ混ぜだよ。

そして目が覚めたら必ず忘れる、それが夢なんだ。

だからもし、サヨが優しい夢を見ているのだと思うなら……無理に否定する必要はないよ。

君だけの夢だよ。誰の目を気にする必要はない、君が好きなように受け取れば良い夢だよ。

君の言う責任も資格も関係ない、それこそ目を背けるなんてことをしないで。

……サヨが優しいと思ってくれた気持ちを、僕をそう思ってくれた気持ちを、大事にして欲しいな」


ね?と言いながらシュラフは顔を離す。

そしてにこりと笑った。目覚めた私の手をひいてくれた時と同じように。


いつの間にか動かせなくなっていた体が軽くなっている事に気づく。

あれだけ止めようとして止まらなかった涙も嘘だったかのように出ていない。


「よかった。やっぱり泣いてない方がサヨは美人だよ」

「……そんな言葉、私に使っても仕方ないと思う」

「そう?美点はすぐ褒めた方がいいってお父さんが言ってたんだけど……。

あ、でも普通に話せるようになってるね!

サヨも驚いてた感じだったし、やっと調子が戻ったのかなぁ?

これでもっといっぱいお話しができるね!」


ニコニコと笑う顔をじっと見つめる。

本当に、裏表なく笑っている。そう見える。

私と話せるのが嬉しいって感じてるのだなと、そう考えてしまう。


「ああ、そうだ!僕ね、一つ提案があるんだけど」

「提案?」

「うん。さっきサヨは帰れないって言ったから、だからこれはもしよかったらの話なんだけど、

ねぇサヨ。しばらくの間この家に居てくれないかな?」

「……え?」


驚きで開いた口が塞がらない。

そんな様子を不安に思ったのかシュラフはお願い!と両手を合わせてまるで懇願するように見上げてくる。


「正直な話みんなの世話をするのがすっっっっっっごく大変なんだ!

できる限りみんなには不自由のない毎日を送ってもらいたい、

だけど僕一人じゃあ何かって時にどうしても留守にしなきゃいけない時もあって……。

でもそうすると不安がる子もいるし、ストレスになると暴れちゃう子もいたりするんだ。

だからサヨにお手伝いしてもらえるとすっごく助かるの!」

「私、今まで動物のお世話なんてした事ないのにお手伝いなんて……」

「最初から丸投げなんてしないから安心して!それにあの気難しいパフォスが一目惚れしちゃうサヨだもん!

絶対みんなサヨの事を好きになるし、仲良くできると思うんだ!

これは生まれてからずっといろんな子の世話を焼いてきた僕の勘が言ってるの!間違いないよ!」

「……ふっ」

「?」

「ふふ……勘でそんな大事な事に自信が持てるなんて、シュラフは変な子だね」

「………………あっ!今僕バカにされた!?」

「ううん。違うの。変わっているなって思ったの」

「意味変わってないよね!?うう〜サヨが僕をいじめる!」


必死だったり、楽しそうだったり、悲しそうだったり。

くるくると変幻自在にシュラフの表情が変わって行くのを見て心が温かくなる。

笑うのなんていつ以来だろう。

楽しいと思えるなんてどのくらい久しぶりだろう。

一度溢れてしまった気持ちが抑えられない。

だけどさっきのような苦しさはない。

むしろどんどん胸が高鳴っていく。心が弾んでいく。

止まらない私を見ていつの間にかシュラフも可笑そうに笑い出した。

変な私達。だけどそれがとても心地良い。


「…………自慢じゃないけど、私ってすごく不器用なの」

「? うん」

「それに物覚えは悪いし、教えてもらった事も一回で上手に出来たことがないの」

「うん」

「きっと貴方の足を引っ張る毎日になる。それでも、いいの?」

「……うん」

「ご飯も作ったことがないから、作るのが大変になるよ?」

「うん!そのくらいへーきだよ!」

「お掃除もたぶん下手っぴだけど、大丈夫?」

「もちろん!ゆっくり慣れてくれれば大丈夫だよ!」

「……一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで寝てあげられなくても、いいの?」

「うんう、ん!????んん゛んっ、そ、れは!お願い、してない、かなぁ!?」

「冗談」


ごめんねと言うとちょっとだけシュラフは拗ねたような顔になった。

からかってしまうなんてはしたないけど、彼のいろんな顔が見たくてつい言葉が出てしまった。

どうやら自分でも思っている以上に浮ついてしまっているらしい。

こほん、とひとつ咳払いをしてから姿勢を正してシュラフを見る。


「……たくさん迷惑をかけてしまうかもしれない。

私はきっと私を許すことができないから。いろんな迷惑を。

それでも貴方が望んでくれるなら……不束者ですがよろしくお願いします」


すっと体に染み込んだ所作でお辞儀をする。

心の中できっちり3秒数えて顔を上げれば、そこには真っ直ぐ私を見る彼がいる。


「ありがとう。これからよろしく、サヨ。

…………ところで、フツツカモノってどういう意味?」







それから私はこの家の二階にある一室を借りることになった。

元々空き部屋で物置き場になっていた部屋を1時間ほどかけてシュラフが片付けてくれた。

それから外の小屋を簡単に案内してもらい、とりあえず明日のことは明日考えようということで晩御飯のため家に戻る。

お風呂はあったがシャワーはなく、蛇口は使えてもお湯を出せるように調整することができなかった。


『……なんだか少し前の時代にタイムスリップしたみたい』


借りた寝衣を着て、借りたタオルで髪を乾かしながら、借りた部屋へと入る。

室内には木製のベッドと質素な机と古い姿見が置いてあった。

シュラフの話だと姿見はずっと昔から使わずにあったものらしい。

一度は移動させてくれようとしていたが、大きい物だったし使わせてもらいたいと言って残してもらった。


本音を言えば、自分の姿を見ることは好きではない。

だけど身だしなみを整えるには鏡はどうしても必要である。

ふぅとため息を一つ吐いて私は姿見の前に立つ。


「…………え?」


鏡の中の私が目を見開いた。

そこに写っていたのは紛れもなく私、睦宮小夜だ。

寝衣が借り物ということ以外は見慣れた姿。

細くも太くもない手足。

日本人らしい黒い髪は腰の少し上の辺りまで伸びていて、記憶の中でそろそろ短くしてもいいかもと考えていた時と一致する。

顔だって、間違いなく私の顔だ。

口の形も、鼻の形も。目の形も。

だけど、瞳の色だけは違った。

私の目の色は日本人らしい少し茶色がかった黒目だった。

それこそシュラフと同じような色だったはずだ。


なのに、鏡に映った私の瞳の色は、赤い。

正確に言えば紫色に近い。


一度鏡から顔を離して自分の目の周りを触る。

コンタクトのような異物感は全くない。

瞼の上から触っても裸眼であることは間違いない。


「どういう事なの……?」


もう一度鏡を見る。

赤い瞳の私が信じられないようなものを見るように私を見ていた。


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