幕間_幸せを願う
実のところ、心のどこかでは焦っていた。
隠していた部分を明かすことで彼女が傷つくのではないのかと。
そして、やっぱりここに居たくないと思ってしまうのではないかと。
実際彼女はショックを受けていたし、たくさん悩ませてしまった。
だけど、それでも彼女は彼女なりの答えを出した。
それがとても嬉しかった。
離れていかなかったということよりは、彼女が自分で考えて決めてくれたことへの喜び。
睦宮小夜としての彼女の毎日は常に誰かに決められて動いていた。
自分の生を終える選択をするまで、彼女は自分から行動を起こすことに消極的だった。
ただ偽物の笑顔を浮かべて、自分が傷つかないように受け流すことで精一杯だった。
だから、そんな日々を送っていた彼女が自分で決めるということは大きな変化だ。
彼女は確実に新しい自分の人生を歩み始めている。
それを近くで見守れるのが、心の底から嬉しい。
コカトリスはまだ心を開ききれないようだけど、スライム達はすっかり彼女がいることに慣れたようだ。
パフォスが積極的だから遠慮をしているようだけど、他のケルピー達も彼女に対する興味が強く見える。
ゆっくりとこの牧場の新しい一員が受け入れられている。
それも喜ばしいことだ。
彼女の性格を考えれば今後自意識が強くなったとしても故意に他の生き物を傷つけるようにはならないだろう。
むしろ自分のできる限りで優しくあろうと努めるはずだ。
管理人である自分に寂しさを感じてほしくないから一緒にいたいと願う、とても傲慢な優しさを彼女は持っているのだから。
いつか、彼女も幸福な眠りにつく時が必ず来る。
その時に彼女は何を思うのだろうか。
その思いを自分の口で伝えてくれるだろうか。
そうであって欲しい。
まだまだ先の未来だと分かっていても今から願ってしまう。
彼女に幸福あれ。
“楽園”の住人に幸福あれ
そして、迎える最期まで幸福であれ。
この願いこそが終わりの無い自分にとって最大の幸せなのだから。