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5話 犯罪の裏に眠る真実

晴人が死んでから5日目。葬儀も終えた。

家族の慰めなんて邪魔にしか感じられず、一人になりたかった俺は晴人と共に会話したあの屋上へと寝転んでいた。

雨が肌を叩きつけるように降ってくるが、こんなのシャワーの威力とそう変わりない。そう思った俺は冷たい雨粒をひたすら浴びながら、心の中にできた空洞を埋めることしかできなかった。


*  *  *


昼休み頃、激しい雨粒の中から近づいてくる足音が聞こえてくる。その足音は俺を前に止まる。


『ねえ、蓮君・・・』

その一声で誰か分かった。

『話しかけるな』

『ごめんなさい、私が早く駆けつけるべきだった』


『そうだ!!!お前はあの時、どこ行ってたんだ!?なんで!!!』

気づけば、感情が先行しすぎるせいで、女性であれど手加減しない握力で胸ぐらを掴んでいた。

『戦争を止めるんじゃなかったのか!!!!みんなを守るんじゃなかったのかよ!!!!』

言葉と共に、声量を込めていく怒りの声を朱莉にぶつけてしまう。


自分でも分かってる。完全な腹いせだ。彼女の頼みを応じていれば、まだ俺の力で助けれたかもしれない命だった。・・・でも、朱莉は俺の怒りを静かに受け止めていた。

『ごめんなさい、蓮。とりあえず校舎に入ろう。風邪引いちゃう』

俺の乱暴な当たりでも優しく添えてくれる手が背中に、冷え切った手に温もりある手が俺の目に涙を引き起こす。

『すまない・・・』



*  *  *


蓮の親友が亡くなるあの日の昼頃のこと。


私(朱莉)は、ある事件の調査を行っていた。それは朱森高校の女子生徒の何人かが、殺人未遂に直面していることだ。現在は2人目まで負傷者が出ている。正直、能力者の犯人には心当たりはあったが、確証が欲しかった。

彼女ではないことを・・・願いたかった。だから、ある部員たちに話を聞いていた。

その時に、あの悲鳴が聞こえた。

駆けつけて対峙した相手・それは氷の能力者であり、私の親友、安藤由美香あんどうゆみかだった。

蓮たちが親友を連れて逃げた後、狐のお面を彼女の前で外し、敵意のないことを刀を手放すサインで示す。これが最後のチャンスだと思ったから。


『ねえ!!!由美香!!!目を覚まして!!!』

『・・・・朱莉・・・・』

やや震えた声で、名を声に上げる由美香。

『ごめんね!!!私が親友であるばかりに、由美香が苦しんでることに気づけなかった・・・寄り添えなかった』

『な、、、なんのことだよ!!!』

『いじめのこと・・・』

そう。彼女は悲惨ないじめを受けていた。

安藤由美香は人見知りでシャイな性格の女子高校生。一方、演劇部でずば抜けた才能を見せ、先生に賞賛されたことがあるらしい。彼女とは親しい関係だったが、ある日を境に不登校になり、会えなくなっていた。噂では、あるいじめがきっかけだと。情けないことに私は、不登校になり始めてからそのことを知った。


そしていじめの発端は、演劇部にあった。話を聞いたところ・・・


『不登校になっている安藤由美香は演技が上手いので有名みたいだね。その彼女は劇の何役だったの?』

『そりゃ、この劇では主人公のアンナ役に抜擢されたよ。アンナ役になれるなんて、演劇界では光栄なことなんだ』

『それがいじめの原因?』


いじめの主犯は・・・

『3年の江田美穂先輩です・・・主人公の候補になってた人たちも脅されて、一緒にいじめに参加してました』

いじめの発端は・・・

『きっと主人公を降板されたことに腹を立てた江田先輩は、集団で追い詰めることで由美香先輩を追放したかったんだと思います。自分が主人公になるために』


ということだった・・・

私は、全ての全貌を知ったことを目の前に佇む由美香に話した。


『江田によって失った大事な役を・・・奪われたことが悔しかったあなたは・・・能力を使って・・・主人公候補の人たちに復讐を果たそうとしてるってことでしょ!!!』


真実を突き付けられる度に、頭を抱え、深くしゃがみ込む体勢は、怒りの爆発と共に解き放たれる。


『うるさい!!!!』


感情的に飛び散った氷柱たちは、私の肩や足、頬を掠めていく。でも怒らせたかったわけじゃない。私は、元の彼女に戻って欲しかった。


『ごめんね、嫌な話して・・・でもこれだけは言わせて!!今の由美香がやってることは間違ってる。復讐なんかしなくていい。する価値もない。だって、由美香には復讐をしなくても素敵な才能と夢を持ってるんだから』


由美香の乱れる長い前髪で表情は見えない。でも、泣き崩れる体勢と嗚咽を溢す声は本当だった。今までの苦しみを吐き出すように溢れた涙を拾うように、私は彼女を抱きしめた。


でも、時間は限られた。

渡り廊下の角を曲がった長い廊下から数人の走ってくる靴音が響く。数人の中には男性の低く覇気ある声が聞こえてくる。おそらく教師たちだ。そう察した由美香は突然、風と共に私の目の前から消え去ってしまった。


*  *  *


その話を朱莉から聞いた俺(蓮)は、彼女を理不尽に責めたことに恥を感じた。本当に自分勝手な奴だと・・・それじゃ、アイツらと同じじゃないかと・・・この出来事を機に、俺は自分にできることを探すようになった。その一つは後日、声を掛けた江田美穂に関係ある。


*  *  *


朱莉から安藤由美香の話を聞いた次の日。

江田美穂を俺がいつもいる屋上へと呼び出した。人を見下すような鋭い目つき、おしゃれなヘアスタイル、化粧からはお嬢様気質なのが窺える。

『私も忙しいので、手短に』

自分には心当たりもない様子で、うろちょろ歩く様から何にも罪悪感を持っていない。

『5日前に起きた事件、被害者はお前と同じ主人公候補の竹宮千鶴たけみやちずだってこと知ってた?』

『ああ・・・知ってるけど、それが何か?』

『加害者が、お前に虐められた安藤由美香だっていうのは?いや、加害者というのもおかしいけどな』

『はあ!?相手は能力者だって話だけど』

『だから、その能力者は安藤由美香だったんだよ!!!お前に人生を狂わされたせいでな!!!』

さっきの余裕はどこへ行ったのか、泳いでいく視線の江田美穂。

『俺が由美香の代わりに言ってやる。お前は卑劣ないじめで主人公の座を得た人間だ。そんなんで、主人公を演じることを喜べるか?誰かを犠牲にした上で成り立つ主人公の座は、嬉しいか? もし、そんなクソ野郎になりたくないなら、もう一度自分の行いを考え直せ!!』


俺は伝えたいことをいじめの主犯・江田美穂へと投げつけた。彼女にはどう聞こえただろうか?

俺はそれが過ちだと気づいて欲しかった。



*  *  *


いつの日だろう。彼女は私に本当のことを伝えてくれた。

赤く染まった夕日が照らす公園のブランコで、由美香といろんな話で盛り上がっていた時。


『ねえねえ!由美香の夢って何なの?』

『え!それは・・・』

『焦らさずにさ、教えてよ!』


”えー”と少し困った表情をする安藤由美香。

『私の夢は、演劇舞台で女優さんになることかな。小さい頃に観た女優さんがね、とてもインパクトある演技してて・・・私もそういう女優さんになりたいって』


好きなことを口にする由美香は、シャイな性格から明るく活発な性格に豹変。ある程度語り尽くした由美香は顔を赤らめて、また人見知りに戻ってしまう。でも、その言葉に偽りはない。そう強く由美香の優しい手を握りしめた。


『私、由美香の夢を応援したい!!絶対、その夢が叶うよう応援してるから!!』

熱烈な私の宣言に引いたのか、それとも照れ隠しなのか、少し苦笑いする。

『急に・・・どうしたの?そんなに私・・・感動的なこと・・・言った?』

『気持ちを言葉にしてくれて嬉しいんだよ!!由美香は照れ屋で、いつも言いたいことを我慢してるみたいだからさ』

『確かに・・・そうだね』


少し間があく会話。ただ沈黙になってるわけじゃない。

私(朱莉)は、人見知りである由美香が一生懸命、言葉にするのを見守っていた。やっとのことで出た言葉は・・・


『朱莉には最後まで応援してもらいたい。いつもそばにいてくれたあなたのおかげで、ここまでこれたんだよって・・・演劇で恩を返したい!』


それが嬉しかったし、頼もしかった。


*  *  *


だけど、私(由美香)は、朱莉との約束を守れなかった。アイツらに復讐することばかりで、何にもできなかった。

ごめんね・・・朱莉・・・

その言葉と共に、私は目の前の女に殺された。






・・・・・・








*  *  *



『覚悟はいいのね?』

朱莉にもう一度聞かれる覚悟。だがもう揺れ動かない。

『ああ、俺も戦う』



もう戻れない。でも、過去のせいにはしたくない。あれは、俺に力がなかったからだ。今度は、力を持った自分に成り代わる。みんなを救ってやる。そんな決意に侵食された時には、修正戦争へのカウントダウンが始まっていた。




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