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35話 瓜生新生vs篠崎蓮

https://www.youtube.com/watch?v=Qz4TPByp1xM


挿絵(By みてみん)


さすがによく練られた作戦としか言いようがない。京東城の大草原にて、取り残された俺・レイジ。


まず、各地で避難所を攻撃することで、ポータルを開かせることが可能。いくら、息子である蓮の力を借りても、消耗はしてしまう。

そして草原のど真ん中に送り込まれた大勢の一般市民と能力化した人類を混在した群。

能力化した人間だけでなく、無実の人間を送り込むことで一発で仕留めることを不可能とした。


最後にできる子は、能力化した人間の身を殺すこと。申し訳ないが、爆風で全員死ぬよりはマシだ・・・

加速していく脚力で、筋肉倍増させた太もも。風よりも、音よりも早く、駆け抜ける人と人の間。一撃の拳と素早い加速力の勢いで打ちのめす。虫たちのように簡単に一手間で終わらしてしまうこの恐怖。


だが、スピードと共に受ける血飛沫が頬に伝う。

俺の両手はすでに真っ赤な血で染められている。すでに俺の右手には、人の頭を持っている。でも、周りにいる命や子供を守るために突き進んだ。それをひたすら繰り返す。殺し、駆け抜ける。殺し、駆け抜ける。殺し、駆け抜ける。その繰り返し。


10万人の中に解き放たれた9万人の能力化人間。

毎秒100体の改造された人間を粉々に、殺していく。


全てを終えていた頃には、真っ赤な血に染められた死の匂いが、脳裏に焼きつく。同時に、乱れる呼吸のリズム。乱れるの一言で片はつけられない。過呼吸と次第に震え上がる手。

いくら肉体の全能者でも、回復に時間がいる。ゆっくり落ち着かせるしか方法はない。


『ねえ、レイジ。あの日に殺したこと、後悔してる?』


は・・・

俺は大きく揺らいだ。今まで見せなかったはずの彼女。目の前には、白いワンピースに黒い長髪の女性。幻覚?夢?例え、それらであっても、彼女が生きているならばと、動きが止まってしまった。


『真緒・・・』


それが俺の最後になるとは知らずに。


『捉えた!!!』


背後から迫り来る晴人の刃をそのまま喰らうこととなった・・・


*  *  *


京東城へ続く外側エリアで睨み合う俺・篠崎蓮vs瓜生新生。

なんとなくだが、俺はわかった。なぜ瓜生新生が俺に怒りをぶつけるのか・・・6年前の修正戦争から半年後。

ある男がもう一度リベンジを果たそうとしやがった。だが人々を守るより、俺は復讐心であの男を殺したんだ。


『お前は、父を殺された復讐のために?』

『だから何度もそう言ってるだろ!!!』


1発目の攻撃から描く球体の渦巻きが、直進してくる。瞬時に避けるも、相手は予測済み。標準から逸れたターゲットに向けて、衝撃波の波紋が全身に覆い被さる。鼓膜まで揺さぶられると同時に振るう拳。すぐに距離を取るも、連続的攻撃で、一定の距離を保ち続けるも拳と振るう腕により、鋭い風が頬を叩きつけてくる。

それにしても素早くなる相手の攻撃。こいつ、体力系の能力者でないのに、息もつかせない攻撃に、打ち返すターンもやってこない。だが、感情的になっている気持ちが一部の判断を狂わせている。


そう・・・俺は・・・一人の大切な者を奪った。奪われたからって・・・これはこの物語を完成させるための大事なピース。


*  *  *



これは中学2年の頃に遡る。それは、6年前に起きた人類と能力者の戦争から約2年後。言い換えれば、篠崎仁明から養子として拾われたあの続き。

暖かな太陽が照らす都内。かつての焼け焦げた跡や原型を失う建物の外観はほぼ修復されていく街並み。それは、俺たちが通っていた中学校の校舎からでも見える。


14歳である篠崎蓮と当時の友人・神木野かみきの 裕介ゆうすけと仲が良かった。


『(指差すように)あ!あそこのデパート、修復し終えたんだ』

当時の友人・神木野かみきの 裕介ゆうすけは、無邪気に教室から見えるビルへと指差す。

確かに、あいつは子供みたいにどこか純粋だった。

『やっぱ、人ってすごいよな。2年前までは更地だったのに、またあの頃の景色を取り戻している』

なんて言ったりして・・・でも彼の人柄はそれだけじゃない。

『どうした?』

『ううん・・・なんでもない』

『なんでもないような顔には見えないけど?』

『・・・』

真っ直ぐ突きつける裕介の視線に、俺は本心をこぼす。

『前にも言ったと思うけど、2年前に起きた戦争のことは、全く記憶がないみたいなんだ。一応両親はなにが起きたか話してくれたけど・・・その話は本当なのか・・・』

『・・・』

『実は、大事な人が亡くなったことを黙ってるんじゃないかって、胸騒ぎばかりが起こる』

『蓮の気持ちはわかる。でも、知らないほうがいいこともある。それに、蓮の両親が嘘をついてる証拠なんてないだろ?』

『・・・まあね』

『じゃあ、それでいいじゃん!もし嘘をつかれてたとしても、それは蓮を守るためかもしれない。だから今こうして普通に学校に通えてる』

あいつは、こうやってすぐに人の悩みを解決してしまう。人の良いところをよく見ている。そう彼と出会えたことに感謝していた。その時に、ドアの開閉音と同時に振り向く女子生徒・七宮柚木ななみやゆきが現れる。

『おはよう!!監督!!』

柚木の張り上げた声量にクラスからの視線を集める俺。俺は、顔を真っ赤にしながら、柚木に強く言いつける。

『監督はやめろって言っただろ!!』

下を俯き、自分の席に座る俺に駆け寄る柚木。

『だって監督じゃん!』

『・・・』

『それで例の映画撮影はいつ?明日?』

『あとちょっとで脚本ができるから待ってて』

『じゃあ明日?』

俺の中から溢れる軽いため息。

『なあ・・・脚本ができてもね。ロケハンとか他の人のキャスティング、あとみんなが揃う日も決めないといけないの』

手順を強調した言葉に、やや頬を膨らます柚木。だが、早い気持ちの切り替えを披露で、次の話へ。

『じゃあ手伝うよ。何したらいい?』

『え・・・』

『そうだなー・・・じゃあ俳優探しをお願いしようかな。だってほら、柚木って友達多いじゃん』

『分かった!』

裕介や柚木の呑み込みの早さに、監督である俺が追いつけていない。だが、映画制作はチームだ。そう仲間を頼ることにした。時差遅れで状況を呑み込む俺を伺うように、次の話を進める裕介。

『俺はロケハンをしてくる。機材類とかはもう予約してるから時間はあるよ』

『みんな・・・ありがとう』


だが、それが仇となった。


*  *  *


数時間後。

俺は、柚木に病院へと呼び出された。あの声色、ただごとじゃない。もはや冷静の消失は、彼女の声で伝染してしまった。ひたすら駆け抜ける自転車で、大風を切るスピード。もはや何個、信号無視をしたか覚えていない。


早くて20分着。事態は想像よりも、深刻な匂いが漂っていた。

『裕介!!!』

急いで駆けつけてきた時には、ピ!ピ!ピ!と何度も一定のリズムで心電を測る機械に繋がれた彼を目にした。

顔半分は、包帯まみれ。俺は思わず、目を背けてしまった。自分の許した決断で、彼がこうなったことに変わりはないのに・・・とはいえ、原因は探るべきだと口開く。

『一体、何が?』

『アンタ・・・アンタたちのせいよ!!全部!!!だから・・・能力者に・・・』

返ってきた言葉に、冷静さなどない。怒りと絶望の混在した口調で、俺に全ての責任をぶつける。その勢いで、裕介を傍で見守っていた彼の母から、平手打ちを頬に受けた。責任と痛みがイコール化した苦痛を受けた後、視線は、だんまりとした柚木へとむいた。彼女も同じく頬が赤い。俺は自分の決断が、みんなを苦しめてしまったことを・・・

『アンタたちなんか死んでしまえ!!!早く消えろ!!!』

そう親とは思えない権威から殺意へと人相を変える祐介の母の表情が深く刻まれた。無理やり押し出され、病室の外へ追い出されても。今は扉を閉め出され、祐介の姿は見えない。それでも、しばらく止まることしかできなかった。


*  *  *


約1ヶ月が経つ頃。

俺はいつものように、教室へと向かっていた。もちろん祐介が事件に巻き込まれてから、彼とは会っていない。柚木とは話すことはあっても、映画制作の話を持ちかけることは無くなった。そんな生活が続く頃、担任の先生からあることを知らされた。

『最近、通えていない祐介くんのことだが、引っ越しすることが決まったそうだ』

『え!!!!』

もちろん、クラス中がざわめついた。だが、その原因はよく親しげな俺と柚木へと向けられる。その証拠に、次の休み時間で散々の詰問を受けていた。

『なんで、祐介が引っ越すことになったんだよ!?』

『喧嘩でもしたか?』

俺の座る席に、手をつけてまで迫り来るクラスメートたち。まるで、取調べだった。そこに、隣に座るいけすかない男が声をかけてくる。

『どうせ、映画制作する!!とか言って彼を巻き込んだろ?』

『は・・・』

『例えば事故?いや違うな。能力者と遭遇したか。この頃、なぜかこの京東に能力者の目撃証言が多くなってるから、それに巻き込まれたんだろうか』

『どうして、能力者がいるんだよ!!もう、政府が全員処刑したって公表してただろ!!!』

そう口を挟むクラスメート。だが、その男は、ゆっくり視線を向けてくる。

『本当に能力者全員が死亡したと?』

俺は、彼の言葉に、懐古する場面が浮き上がる。祐介の母が残した言葉。”能力者に・・・”。


*  *  *


教室だと息詰まるようになった俺は、屋上へと逃げ出した。

授業?もはや、まともに受けれるほど狂ってなんかない。ただでさえ、学校に通うよう両親に言われたものも、内容なんてからっきし入ってこない。

『ねえ!!!蓮!!!』

声だけでわかる彼女の存在。俺はそのまま、綺麗な青空へと目をやるだけで、振り向きもしない。何を言われるかはなんとなく分かったからだ。

『祐介のこと、いいの?せめて最後の時くらい・・・』

『いいんだ。俺が悪いから』

淡々と並べた言葉を口から放出していく様に、引力を込める握力は、胸ぐらに加わる。

『別に映画制作しろなんて言ってないでしょ!!最後くらい、後悔のないように会いに行こうって言ってるだけじゃない!!!』

『どうせ親が付き纏ってるんだ。それに、また俺のせいで・・・』

失望したのか・・・胸ぐらを掴むその手は離れていった。先手に込めた力は必死に訴えるための力だった。だが・・・

その力は抜けて消えた。

『あなたに期待した私が馬鹿だった・・・』

いつもの明るさと笑顔は見えない底へ。俺は、そんな初めて見せる彼女の態度に驚く余裕もなく、そのまま見届けた。


*  *  *


また月日が流れた。確か・・・夏だったかな。

蝉がわんさか、あちこちで鳴き出していた。そんな雑音に慣れ始めた頃、彼女は再び現れた。

『よ!!蓮!!!』

彼女の行動力は異常に早い。席替えされたことで、窓際の前方の席へと移っていた。彼女の席は、廊下側。それにもかかわらず、声をかけた時には、もう目の前にいる。

『なんだ?』

『蓮に話があるの。ちょっといい??』

なんの話か見当もつかない俺は、ひとまず彼女の要望に応えることにした。騒々しいクラス教室から廊下へ移動し、人の少ない教室へと歩んでいく。

『なあ、こんなことしてどうする?』

俺の返事なんか気にせず、そのままほとんど使われていないであろう教室へと足を踏み入れる。表札には、数学準備室と書かれていた。印象は埃に塗れた部屋だな。だが二人先に待っている誰かが、換気するための窓を開く。

『君たちは?』

『紹介するね!!こちら私の友達、成瀬美波!!彼女は、読書が好きで、将来は小説家になりたいんだって!!!」

品のある立ち振る舞いで軽くお辞儀をする女子生徒。でも挨拶し返す余裕なんてなかった。ただでさえ状況が理解できていないのに・・・

『いやいや、どういうことだ?』

『で、こちらは西山晴人。彼は暇そうだから、ちょっと誘ってみた。声かけたら、なんでもするって言ってたし!』

西山晴人は一瞬目があった後、すぐ目を逸らす。


『いやいや、状況が読めない!! 彼らを紹介して、何したいんだ!?』


俺はきつく、柚木に言葉をぶつけた。だが、柚木の表情は全く変わらない。


『今度こそ、映画を作ろう!!みんなで!!!』

『え?・・・』


*  *  *


『はい!!行くよ!!よーいって言って!!」

『よーい・・・』

『声が小さい!!』

『・・・よーい!!アクション!!!』

『いやいや、監督さん!!それで映画作れるの!!??』


浜辺の青い海が、太陽に光に反射する風景の中、なぜか柚木に叱責を受けていた。


*  *  *


10分休憩、浜辺近くのカフェに借りに行っていた男子トイレ。

俺は静かに、お手洗いを済ましていると、隣に静かな男・西山晴人が横に並ぶ。

ため息も、呼吸音も聞こえないほど寡黙な男。そう思えば突如口を開く。


『頼りない監督がいると、いい映画なんて撮れませんよ』

『そんなことわかってる』

『なら、ちゃんとしたら?』

『そんな簡単に、映画制作なんてできない』

『雄介くんのこと、七宮さんから聞きました』


俺は思わず、晴人の横顔を視界に捉える。


『でも、前に進まないと何も変わらない。それができる男にするんだって言ってましたよ?』

『俺を?』

『はい』


尿を終えた晴人は、そのまま手洗いへと流れるように動いていく。


*  *  *


『篠崎さん!!! 西山さん!!!』

『どうしました?』

『七宮さんが急にいなくなってしまって、ずっと探してるし、連絡してるんですけど・・・』


俺はすぐさま、祐介の時のこと思い出した。包帯まみれのあの顔。まさか、七宮柚木も巻き込まれた。

そう思えば思うほど、成瀬美波や西山晴人を押し除け、無我夢中で、柚木を探しに行った。

美波や晴人を置いて、暗がりの夜に成り代わる頃、森の中をひたすら足掻いた。湿った土に足を滑らせ、頬で石の鋭利な角に顔をぶつける。


それでも・・・彼女を探した。


『柚木!!!』


声を上げたその時、鋭い刃が俺の心臓を貫き、全身の血液を吸い取るように力を奪っていく。


『人間どもが』


抉られた心臓と共に、意識がかすみ、大きく膝をつく。

死ぬときには、クソ野郎の顔を覚えとくように、相手の顔を捉えようとした。だが、すでに頭を打ち付けるほど、倒れ込んでいた。


『お前? さっき俺がトドメを刺したはずだろ?』


は・・・

さっきのは、夢だろ? 俺は何事もないように、また起き上がっていた。

この時は俺もおかしいと思っていた。 なんで? 死んだはずだろ?


『お前が、全能者の四阿あずま りょうか?』


相手の顔は、古傷を右目から鼻まで描いていた。鋭く狼のような瞳。 紺色に染まる真っ直ぐな髪型。

声の野太さは、生きた年月を物語る。


すでに只者じゃないと感じ、声を上げた。


『お前が能力者か? 七宮柚木はどこに行った?』

『俺はずっとお前を探していた。 まさか、たまたま趣味で始めた狩りの行く末で出会うとは』

『狩りだと?』

『え、こいつのことだろ?』


その男は、何事もないように生々しいものを掲げた。

滴る血。すぐそれが、七宮柚木の生首だと・・・気づいた。


全身に込み上げる怒りという怪力と驚異的なスピードで、その男へと迫った。


*  *  *


その男が、瓜生新生の父親。

つまり、俺が瓜生新生の父親を殺したことに対し、復讐をしようとここまで這い上がってきた。


だが何度、復讐のループをくぐって来た? その度に、何人の命を失った?

神木野裕介、七宮柚木、成瀬美波・・・そして闇へと堕ちた西山晴人。

俺の思い出は、復讐で青春なんて文字を黒く染めた。



『それが、お前の価値観か?』

瓜生新生は鋭い睨みと繰り広げる多くの技で、俺の過去に対する結論を問いかける。

『違う。俺はもう復讐しない。悲しむ人を増やすだけだから』

『お前が死んでも、誰も悲しまねえよ!!! 大人しく死ねや!!!』

振りかぶるエネルギーの拳も、軽く躱す。

『すまない・・・瓜生』

『謝るな!!!もう終わったんじゃないか!!!』

もはや、感情的な攻撃の連鎖は、小さな灯火となって消えていく。嗚咽と共に。

『もう戦争はやめよう。もうみんなで幸せに暮らせる生活を・・・取り戻そう』

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


狂うように涙をこぼし、頭を抱える瓜生新生の瞳は、西山晴人にマインドコントロールされた跡が色として残っていた。



『もう戦争やめよう・・・ね。君が死んでくれたら、全部終わるんだけどな』


その声だけで、瓜生ではないことは分かった。


『晴人・・・』


恐る恐る振り返る先には、あの時のように、晴人は生々しいものを掲げた。

滴る血。すぐそれが、実の父親・レイジの生首だと・・・気づいた。こいつがすでに俺の心と記憶を見ている。同じことを繰り返すつもりだ。


だが、あの時とは違う。怒りは静かな空間へと・・・沈める。


『お前とも、ケリをつける。晴人』

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