34話 避難所(学校と森での戦い)/更なる都市・大阪へ
現在の状況
東京・京東城
篠崎蓮-瓜生新生と対立
咲白朱莉-死亡?
レイジ-京東城に群がる能力者を制圧中
東京・宮島小学校
山下おじさん-避難場所・宮島小学校へ送られる
江田美穂-避難場所・宮島小学校へ送られる
如月紫苑-避難場所・宮島小学校へ送られる
桐島慎也-避難場所・宮島小学校へ送られる
牧宮宇井-避難場所・宮島小学校へ送られる
大阪
前川結城-第二標的場所・大阪へ送られる
西野明奈-第二標的場所・大阪へ送られる
死亡者リスト・・・
青木隆三
安村楓
橘萌絵
吉田隆文
岡本優花
岸本理恵
北村勝二
* * *
避難所の宮島小学校にて。これは攻撃を受ける数分前の出来事である。
僕・ミヤビは、この状況に嫌気がさしてきた。いじめっ子にさえ太刀打ちできないのに・・・何ほざいてんだって思える。だけど・・・みんな戦ってるのに、なんで無力なんだ・・・
気づけば、ゴミ箱を蹴り上げていた。カランカランと大きな音を立てながら。耳から脳裏まで響くうるささに、周りの大人からはきつく怒鳴られたことは言うまでもない。
今は反省のために、バケツいっぱいの水を両手に持ち、立たされていた。全く、今時のガキをいじめて楽しいか?てか、ハラスメントで訴えられるぞ!!! でも、今はそんなことどうでもいいという表情をしている。
そんな大人たちの顔を浮かべながら、ひたすら愚痴の念が脳内で連呼されていく。
『なんでバケツ持ってるの?』
ずっと愚痴に集中しすぎてたせいで、目の前までくるのに気づかなかった。相手は少女。俺と同じ年くらい。その少女は、車椅子で静かに歩み寄っていた。
『筋トレだよ』
『そう・・・なんだ』
『こっちに用があるのか?』
『うん? いや、何してるのかなって・・・』
『お前ら、呑気にしてて悔しくないのか?』
『悔しいって・・・』
『今、街ではみんなが戦ってるのに、俺たちはここで避難暮らしの愚痴をずっと言ってるんだぞ!?』
『・・・』
少女は下を俯き、黙り込む。静かな表情で。だが、その数秒後に、口を開く。どこか優しく、落ち着きある口調で。
『私たちにできることは、戦ってるみんなの大事な人であることなんじゃない?』
『え?』
『大事な人がいるから、戦える。私たちはその役目しか担えないんだよ』
俺は、どこかで彼女の言葉に納得してしまっている。
なら、大事な人として・・・と思っていた。敵襲が来るまでは。
* * *
ハァ、ハァ、ハァ・・・
と聞こえる息遣いは乱れ気味。それでもあいつらから逃げるためにはこうするしかなかった。
僕・篠崎翔は、母である篠崎流花とある少女を連れて、体育館から逃げ出している。悪運立ち込める炎と曇りが見えてから40分はたつと思う。逃げ惑う人々も、気づけば後ろから消えている。彼らも殺されたと思うと・・・いや、今は考えるな!!
ひたすら暗がりに満ち始める森の中を走るしかない。相手は能力者。俺たちは戦えない人間。
すぐそこまで迫ってきてると思い込むだけで、全身が震える。
一方、少女・三浦香穂は、ひたすら『父さん』と『兄さん』と声に出す。何度も何度も取り憑かれたように。その言葉たちを繰り返して。俺の母がなんとか励ましの言葉を投げかけるも、香穂の瞳は死んでいる。魂も何もかも抜けたように。
俺は我慢の限界だった。相手が女子だろうと、両手には、腕に力強く掴みかかる。
『いいか!!!三浦!!!家族と逸れたのはお前だけじゃない!!みんなの家族も、俺の家族もずっと会えてないんだぞ!!!』
効果はあるように、香穂の瞳に生が巡り始める。さらに立ち止まった足が動くようにと、言葉をぶつける。
『今は自分が生き残ることを考えろ!!! じゃねえと、お前が死んじゃ、父にはなおさら会えないだろ!!!』
『翔!!!』
母は、困惑するどこぞの娘に情けを掛けるも、妥協はできなかった。
『俺だって・・・兄さんにも・・・親父にも会えていない。それでも・・・できることを・・・生きなきゃいけないんだ!!!』
後半のフレーズにつれて、込み上げてくる思いが涙へと溢れる。自分でも驚いている。でも、俺の真っ直ぐな気持ちに、三浦は生の瞳へと変わりつつある。
『早くいくぞ!!!』
強く握る手で引っ張りっていく。母は、なぜか少し笑みをこぼす。"何こんな時に笑ってるんだよ"と軽く睨む。
『ねえ、翔だっけ?名前』
突如三浦からかかる声に、走りながらも反応する。徐々に生を取り戻す彼女の傾向を邪魔したくないからな。
"そう"と答えた。
『私のこと好きだったりする?』
『ブフ!!!』
三浦の一言に続き、吹いてしまう笑いをこぼす母。
もしかしてさっきから笑ってたの、この気持ちに感づかれたか?
急に冷静さを失うと同時に、皮膚が真っ赤に暑く熱っていくのがわかった。
『なんでそう思うんだよ?』
『だって、私が話したこと以外にも知ってるみたいだから』
『・・・俺はただ、暇だったから情報収集してただけだ』
『そうだったとしても、趣味悪いよ』
『うるせー!!てかお前立ち直り早いな!!!』
『翔のおかげだよ!!!父さんも兄さんも生きてる!!!でしょ?』
そう張り上げてしまう三浦の口元を、母親が瞬時に押さえつける。その上、母親の立ち止まる脚力に、彼女の手を引いていく俺の手は、その場に静止する。
『母さん!!!何を・・・』
俺も思わず、張り上げてしまうも、母は鬱蒼とした森の中から聞こえる何かに、口止めされる。みんな微動だに動かず、森の奥から聞こえるカサカサ音に警戒を高める。
周囲から消えない蠢く音に、三浦を押さえつける母の手が強まるばかり。なんとか必死に抑えるも、枝の割れる音が響く。誰だ!?
音が聞こえる方向へと視線を向けると、それは母がふらついた足元に踏まれた枝だと気づく。
状況を理解すると同時に、込み上げてくる苛立ちと恐怖。
次第に増していく音が俺たちの方に迫ってくる。それも速い!!!
『走れ!!!』
もう声を上げるしかなかった俺たちは全速力で、森の中をかけ始める。だが、狼のように四足で迫る黒い影。動物か!?とは思ったものも、安心はできない。次の瞬間、俺の読みを当てるように、四足歩行の影は、先回りした仲間を引き連れる。気づけば、草木が生い茂る向こうから狼の群れが、現れた。
もちろん、それ以上前には進めない。今できることは、口を動かすことだけ。
『どうせ、お前らも能力者なんだろ!!!』
『狼の能力を持っただけで、能力者扱いかよ』
目の前にいる黒い影がようやく口を開く。全身黒いスーツに纏い、高身長のスタイル。鋭い眼差しが、微かに目視で見える。
『まあいい。お目当ての娘を見つけられたんだから・・・殺せ』
男の目の合図で、俺、母、香穂を囲うように距離を詰める狼能力者たち。狙いがばれたか・・・
三浦は影の怪物により奪われた良心やポジティブな感情を復活させることができる。つまり多くの人を救うことができる鍵となる。その能力が、能力者の弱点にもなることはもう言うまでもない。
もう成す術をなくした俺は母と三浦を腕の中で抱えるように守るしかなかった。
『そこをどけえええええええええ!!!!』
荒れ狂う女性の声が、頭上をこえ、狼の群れへと突っ込んでいく。瞬時に見開いた瞳の先には、武装した女性が全身に装着したアーマースーツで攻撃を仕掛けていく後ろ姿。彼女に続き、さらなる武装集団が俺の背後から現れ始める。
* * *
俺・如月紫苑は、レイジさんから受けた任務を果たすためにも、宮島小学校の体育館で避難していた父親と娘を探すように辺りへと視線が移っていく。目の前の溢れかえる能力者を斬り裂きながら。
俺の背後には、何人かの武装集団と桐島慎也を引き連れていた。もちろん彼らも。
『・・・これは・・・酷い』
避難したことで救えた命だが、居場所がバレれば、全てが水の泡。
俺はすぐさま、事態の収拾のために、江田美穂と山下叔父さんに任務を託した。
『お前たちは校舎の中を徹底的に調べろ。俺たちは森の中に逃げたかもしれない避難民を探す』
頷きで、任務を受け入れる江田美穂と山下おじさんは、その場で別行動。
俺にはやらなきゃいけないことがある。
* * *
俺と桐島慎也は、森の中へと消えていく。手元には、学校の中で見つけた懐中電灯で鬱蒼とした森の中を灯した。正確には、俺たちが大きい戦争を想定して、用意したものだ。
それにしても、なんで避難所の場所がバレた。理由はおそらく二つ。
1事故的な要因
2裏切り
だがどちらも可能性がありすぎる。
先程の京東城にいた全能者。特にマインドのやつは心の中で覗き込めるんだから。それが事故的な要因。
もう一つは裏切りか。あまり考えたくないが、張リリの裏切りもあったから、情報が漏れたのかもしれない。だが、ホテル襲撃があったのであれば、もっと前もって、計画を立てられたはず。つまり、京東城に辿り着くまでに、人質を用意していれば、奴らのお目当ての装置も、見つける時間ができたはず。ということは、張リリの死後に新たな裏切り者・・・もしくは・・・
『こんなとこまで来ても意味ないですって!!!もう戻りましょ!!!』
同行中の桐島慎也が声をかけてきたようにも思えたが、俺は原因を探るので必死だった。だがそれが仇となった。
『危ない!!!』
どこからか聞こえた声に、俺はすぐに体勢を変えた。警戒心を向ける俺は、桐島へと体も視線も向けていく。
その時に、構える刀を盾にしたおかげで対策はできたものも、刀の先から見える桐島の姿に唖然とした。いや、桐島じゃない。桐島慎也の姿から、別の人間へと姿を変える外見。死んだはずの彼女・沙羅だ。スタイルもルックスも声も本人同じ。こいつ、人の姿に擬態して・・・
『お前が裏切り者か?』
『そう言うことよ、紫苑』
沙羅の姿で会話をされるのは、怒りをとうに超えている。でも、今は状況を理解する必要があった。
『本物の桐島慎也はとうの昔に死んでるわよ。あのホテルで』
確か・・・俺は気絶していたせいで記憶がないが、桐島慎也と俺・如月紫苑は、治療中だった。だがホテルの襲撃で、本物と偽物が入れ替わったと考えば、辻褄は合う。とはいえ、こいつに避難所の位置を教えたはずは・・・・いや、影の怪物を利用した作戦を実行するときに、こいつと一緒に避難所に来てしまった・・・
『でも送り込んだ能力者は・・・』
『コントロールの全能者・本宮セイナ。彼女のおかげで、避難所攻撃はほぼ完遂。残りの雑魚どもを仕留めたら、もう人類なんて終わり』
クソ・・・油断した。そう睨み合う眼差し。その時に、火の玉が、沙羅の姿をした能力者へと衝突。その数秒後に迫り来る飛行音へと警戒を高める。だがすぐ見えるシルエットで味方だと察知した。
『こいつはいいから、あなたは加勢を!!!』
『は?』
『あなたは京東城へ行くべき!!!私たち、こいつらに避難所へ誘導させられているの!!!』
素早く手慣れた手つきで、四肢に固定されたアーマースーツを取り外す。彼女と森の奥まで消えていった能力者へと視線が行き来するこの状況。
気づけば、ふくらはぎ、二の腕と接触する金属の硬さ。キツく閉められる固定具が二足と両手に装着完了。同時に鬱蒼とした森の奥から迫り来る敵の影。
『早く行って!!!』
俺の胸を強く突き飛ばすと同時に、高く打ち上がるブーストで、宙へ浮かんでいく。右親指を押し込む勢いでボタンを押せば・・・強く押すと。更なるブーストで森から打ち上がる。
* * *
くそ!!背後を取られた!!!
瞬時に振り返ると、飛びかかる拳が顔面前までの距離へ。私・牧宮宇井は、遅れを取ると死を覚悟した。でも結末は変えられる。そう訴えるように加わる拳が能力者の頬を抉る。結果、直進に来る拳の軌道は狙いを外す。でも私が繰り出した拳じゃない!?
『姉ちゃんに手ェ出すなや!!!』
『ミヤビ!?』
まだ幼い弟を叱るも、どこからか手に入れたアームカバーで、相手を仕留めた。大きく前のめりで飛びかかった体勢で、土ぼこりを被るように、地面へと手足が突っ込む。もちろん、私はすぐ止めた。
『何してるの!!!早く逃げなさいよ!!!!』
『もう周囲を囲まれてるんだって!!!だから学校まで行って(アームカバー)取りに戻ったんだよ!!!』
『はあ・・・』
カサカサ!!!
草木を何かが通過する音。もはや、囲われてると感じる多くの殺気。何か来る・・・耳澄ますと、次第に漏れる息遣い。それも複数。その中から聞こえる子供の声。シルエットが見える距離まで迫る何か。私は背中に背負うライフルを取り出し、弾を込め、装填。
次の瞬間、シルエットから現れたのは、避難民の子供達と待機班、江田美穂と山下叔父さん。
『逃げろおおおおお!!!!』大量の援軍が来るぞおおおお!!!』
だが私はすぐさま、横切る江田美穂の腕を掴む。
『何してるの!?戦える私たちが逃げて、誰が守るのよ!!!!』
『だって・・・』
涙目になる江田美穂に隣には、汗が額からこぼれる山下叔父さん。
『とにかく、今は撤退だ!!!』
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。一人でも!私は、そこで敵を迎え撃つ。
『何してるの!!!』
『ここで戦うの!!!逃げたきゃ、逃げればいい!!!』
そうライフルを森から蠢く敵へと照準を定める。
黙り込む後ろの人間たち。
『姉さん。俺たちも戦うから、絶対生きて帰ろう!!!』
隣に最初に並ぶのは、まさかのミヤビ。
その次に並ぶのは、ため息をこぼす江田美穂。そして山下叔父さん。
『みんななら勝てる!!!』
そう草木や木陰から現れた能力者へと銃弾を放った。
* * *
大阪にて。
空中から援護する私・西野明奈は、掲げられる攻撃を凄まじい加速力を持つ戦闘機でドッグファイトを繰り広げる。高らかな空へと上昇していく戦闘機は、皮膚を刺激するほど揺さぶり、ずっと尻の後をつけてくる複数の能力者。どうやら、翼の生えた能力者2人がずっとブーストを超え、戦闘機の翼へとしがみついてくる。
更なる加速力で、三人を引き離していく。一人目がやや距離を離されている。ここでフレアだ!!!
本来は、赤外線センサーで狙われた機体を欺瞞するデコイとしての用法で使うが・・・ここで発動することで、距離の空いた一人目の能力者はフレアの餌食として巻き込まれる。事実、予想通り、一人目の能力者はミサイルの雨に巻き込まれた。次は二人目。360度回転で翼にいる能力者を振り払うも、しつこくへばりつく。
次のターンへと移る能力者。能力者は、大きく頑丈であるはずの翼を能力者の怪力で破壊。一瞬で機体は傾くと同時に、理想の方向からかなりの軌道で外れていく。もうダメだ!!!
これ以上抗えない私は、作動させると、搭乗者は座席ごとロケットモータなどによって機外へと射ち出され、パラシュートで降下する射出座席のレバーを強く引く。
次の瞬間、強烈な大風で上下に揺さぶられる。
だけど、標高300メートルで打ち上げたパラシュートでとにかく無事に着地。
これで一件落着に思えた。目の前の全能者を目にするまでは・・・
『本宮セイナ・・・』
操縦専門の私の前に、全知全能に近い力を持つ女性。目があった限り、逃げ出すことはできないと覚悟を決める。