30話 デイズ-名も無き魂の復讐者たち-
人類が京東城に作戦を実行する数時間前。
レイジたちの用意した避難所・宮島小学校にて。
俺・北村勝仁は、如月紫苑、桐島慎也、篠崎蓮3人を連れて、あの魂の復讐者たちがいる教室へと向かう廊下の道中。今で言う魂の復讐者たちというのは、影の怪物が引き起こした事件を間近に目にしてきた人たち。その中には、影の怪物に良心・ポジティブな感情を奪われた経験もある。
そして奴ら(怪物)に心を奪われた人々の魂を取り戻す方法。それは、元怪物狩りの組織に所属していた如月紫苑の母によって開発された能力だった。それは、母から数年後に生まれた妹へ引き継がれた。妹の三浦香穂なら、相手に触れることでその人々の中から消えた心を埋めることができる。
如月紫苑は、それらを承知の上であの仲間たちのところへと歩いていく。気づけば、もう教室の前へ辿り着き、ノックする紫苑。
『はい!!』
一人の女性の声が中から聞こえると同時に、紫苑はドアに手をかけた。ゆっくり開いていく先には、影の怪物に希望を与えた女性・岡本優花、同級生の岸本理恵、橘 萌絵、吉田隆文が揃っていた。さらに、紫苑の妹・三浦香穂と実の父・三浦大知までもがこの避難所にたどり着いていた。
紫苑は、みんなが無事であることに安堵の息をこぼす。
『香穂!!おいで!!』
『兄さん!!!』
座り込んでいた妹は、小さな一歩でも早く触れようと走り出す。”バフ!!”と言わせて。兄さんのお腹に顔を埋める妹。なんて可愛らしいんだ・・・そして、いつもの強面な紫苑も柔らかいうっとり顔。
『勝仁、お前大丈夫か?』
『え・・・何が?』
『顔がキモいことになってるぞ』
篠崎蓮のさりげなく放たれた一言に、俺はだいぶ傷ついた。だた和やかな兄弟愛に癒されていただけなのに・・・なんとか咳払いで自分の理性を取り戻す。紫苑は俺たちの会話に聞く耳を持たないまま、一人の男が歩み寄る。
『紫苑、無事でよかった』
妹の次に駆けつけたのは、父の三浦大知。そして仲間たちだった。
『怪我はないか?』
『外はどうなってるんだ!?』
『今はそっちじゃなくて、紫苑の心配でしょ?』
あまり彼らのことを知らない蓮と俺は、ただ呆然と仲睦まじい光景を見せつけられた。俺たちが思ったことは一つ。
『意外と紫苑さんって愛されキャラだったんだな・・・』
蓮から耳打ちされた言葉に納得の頷きを返した。
『それで、この人たちは?』
岡本優花というボーイッシュ風の黒髪ショートを宿す爽やかな女性は、俺たちに声をかけてきた。彼女の一言で、紫苑は意識を作戦へと向ける。
* * *
ここにいるみんなに作戦のことを話した。さっきの和やかな空気とは違い、暗く淀む空気へと変わっていた。そりゃ、危険な目に遭わせることになるのだから。それでも・・・
『悪いが・・・みんなの力を借りたい』
紫苑の深々と下げる頭をまじまじと見つける岡本優花たち。
『もちろん助ける!!何もしないよりはマシよ!!!』
そう率先して応えたのは、岸本理恵。強気のあるオーラと明るい振る舞いが印象的だった。彼女に続き・・・橘萌絵、吉田隆文、岡本優花は賛同することになった・・・
* * *
そして時は京東城の結界破壊後へと戻る。
俺・北村勝仁の横には影の怪物、そして奴に心を奪われた岡本優花が黄色の瞳を宿す。一方、10メートル前には、不敵な笑みを浮かべる瓜生新生。
『お前らもある意味能力者だな・・・どれ?どれぐらい強いのか試してやる』
やるか・・・まず突っかかる俺は、怪物狩りの組織で鍛えてきた瞬間移動の加速度で瓜生へと一撃の攻撃を振りかぶる。同時に影の怪物は、俺にも負けない加速で迫り込む鋭い拳を顔面へ打ち込む。
さすがエネルギー専門の全能者だな。紫苑のいう通り、エネルギーを得意とする瓜生は、自分の周りに強力な結界を生み出す。だからそれ以上刀や拳が瓜生へと直接触れることができない。
『うん・・・まずまずってっとこだな』
『っっっく!!!』
いつの間に!!!
俺は、エネルギーの塊が目の前を眩く照らすとき、押しつぶされる勢いの重力が上からのしかかる。一方、影の怪物は、ひたすら結界を破壊するべく、筋肉質で黒く濁る拳を瓜生へと打ち込む。だが、全能者には一つも触れられていない。
『うーん。なんか暇だし・・・この状況を打開する方法でも考えるか・・・』
こいつマジで舐めてるだろ!?なんと、瓜生は地べたへと寝転び始めた。鼻の奥をほじる余裕の動作で。だが彼の周りに張られた結界は破れていないし、ひびさえ入っていない。
『あ!!!そうか、城外の結界なら全能者である俺が作ればいいか!!!』
わざわざ聞こえるように、言いやがって・・・こいつの独り言が本当なら、一刻も早く止めないと!!!
果敢に奴へと飛びかかる一歩を踏み出す。
* * *
どこかの竹林にて。私・咲白朱莉は、羅輝とかいう超人男と激闘を繰り広げていたはず。
だが、彼が鬱蒼とした森の奥へと飛び立つ後ろ姿を最後に、京東城前に広がる大きな草原で横たわっていた。どうやら・・・誰かのせいで夢の世界へ引き摺り込まれていたようだ。
『朱莉!!!立てる?』
やや焦った口調が残る楓の声を機に、揺らいだ体勢をゆっくり立て直す。視線を向ける余裕ができた私は、京東城の一目瞭然な光景を目の当たりにする。
『結界が降りてる・・・』
『そう!!!私たちだけでも!!!急いで行くよ!!!』
楓に引き起こされるように、私は目の前の能力者の大群と向き合った。そのとき、私と楓に引き上げる力と共に浮力が加わる。いったい何が!?まさか!?
『牧宮さん!!』
飛行可能なスーツを身に纏う彼女は私たちを両手に、城へと高度をあげていく。だが簡単に行かない。無数の攻撃の線が牧宮へと狙いを定める。
『アンタたち、手空いてるんだから、なんとかしてよ!!!』
キレ気味で怒鳴りつける牧宮に、私たちは山下叔父さんから譲り受けた能力者専用の銃を手にする。ちゃんと狙いを定めて・・・と思うところが・・・あの超人男が私の元へ割り込む。羅輝だ。
なるほど・・・夢の世界で強い私を仕留めるはずが、結界が降りたことで、今は人類の侵入を防ぐことに重きを置いたってわけか・・・それでまた私を止めに!!!何発も銃弾を打ち込むも、牧宮さんが高度を変えたせいで、狙いが逸れた。だが同時に羅輝の攻撃も躱せた。
『また戻ってくるよ!!!』
『分かってる!!!』
牧宮さんは、脚にまとわりついたブーストを最大限にすることで、もっと早く城内の敷地へと突っ込んでいく。
再び、羅輝に狙いを定める照準。頼む・・・そう願うように敵の額と照準の先を合わせる。今だ!!!
銃弾をぶち込んだものも、目から放たれるレーザー光線で砕け散った。もう一度だ!!!
次は近距離で狙いを定める。牧宮さんの足元にへばりつく様で距離を縮める羅輝。いや・・・
私は、牧宮が掴んでる服を引きちぎり、彼女の飛行から離脱。
『ちょっと!!!』
『朱莉!!!』
ナイフで切り込んだ服の首元から私は飛行する羅輝の顔面へと突っ込む。急いでレーザーから回避しないと!!!今、羅輝の顔面に全体重を乗せる勢いで彼にしがみついている。なんとか、相手の腰回りの服袖に掴んだ後、顔からいや・・・目から放たれるレーザー光線へを避ける。体勢は飛行中の男の背中にのしかかるように身を預けている私。相手は私を振り回すことで必死。360度を何度も高速回転していくも、絶対振り落とされないよう怪力でしがみつく。
『しつこい男はモテねえぞ!!!』
私はこいつを終わらせるため、腰につけていた特別な短剣を取り出し、奴の心臓部へと振り下ろす。この短剣は、強力な能力者に通用する気絶アイテム。全力(造語:ぜんちから)を振り上げるこの両手に込める。
いけえええええええ!!!!!
見事に心臓へと食い込んだ刃に、全身の力が抜けるように麻痺していく羅輝。そのまま、飛行する力を無くした彼は、城壁へと頭を打ち付けると同時に破壊。瓦礫の飛び散る勢いを避けるため、彼から距離を取る私はやっと城内の敷地へと足を踏み込んだ。蓮・・・待ってて!!
* * *
城内の敷地にて。
クッソ!!!全くびくともしない!!!精一杯の刀や影の怪物を使っても、瓜生の結界を解くことができない。そのときに、俺・北村の側から身に覚えのない人影が視界に突っ込む。なんだ!!!
すぐ移す視線の先には、影の怪物の餌食となった能力者たちが、瓜生のとこへと攻撃を仕掛ける。
『お前のせいで、俺たちは死ぬんだ!!!』
『家族のもとへ帰りたい!!!』
二重に重なって聞こえる能力者の声に、俺は手の力が緩んだ・・・まるで、彼らの本心を見ているかのようで・・・どこか心痛む。だが俺たちの威力より強力なのか、ぶつけていく怪物の拳に、結界が強く揺らいでいるように見える。次の瞬間、瓜生と結界は姿を消し、全ての突きつけた体重が、前のめりで一気に大勢を崩す能力者たち。
一体どこに・・・
瞬時に仲間の岡本優花へと目を向けた。そこには、岡本優花から心を奪った影の怪物の異変に気づく。よく見れば、何かが貫通しているように見える。いや・・・瓜生が・・・エネルギーを込めた拳で影の怪物の心臓を抉り取っている。
本体が機能しなければ、ただ、岡本優花は病んだやつになってしまう。俺は急いで、彼女の元へと手を伸ばした。瓜生もすぐに俺の考えに感づく。まずい!!!なんとかこの手を彼女へと伸ばしたとき、瓜生は満面の笑みを飛ばし、左拳を岡本優花へと打ち込もうとする。拳が彼女に直撃するまでに残されたこの数秒間。
なんとか瓜生と岡本に空いた空間に背中を入れるように、彼女を庇う。次の刻が進む時、脊髄を撃ちしがれるほどの刺激と衝撃波を受ける。俺の意識は左右に震わされると、どこかの壁へと身を叩きつけられる。
それでも・・・微かに残る意識で瞼を開ける。腕には彼女を抱えるように横たわる角度から・・・見えた景色。そこには腹の中に蹲るように背中を丸め込む瓜生。だが腹の奥から高エネルギーの球体が鋭く高速で回転して行く度に巨大化する。その待機時間に能力者たちは360度から一斉に襲いかかる。
やばい・・・
そう思う時にはすでに遅し。高エネルギーの膜が、瓜生から360度に広がっていくと同時に近距離にいた彼らは、粉々と打ち砕かれて行く。その勢いは敵の排除だけで収まらず。全ての建物や壁を瓦礫の山へと改変させるほどの威力が追い討ちを仕掛ける。もう最後の手綱として、そばに佇む物陰の壁に身を伏せる。だが、次の瞬間、俺の意識は断絶された。
* * *
『なんだ・・・結界が破壊されて結構焦ったけど、俺の能力があればいけるじゃん』
思わず嬉しくて、独り言しゃべちゃった俺・瓜生新生。じゃあ、邪魔者が入ってくる前に、とっとと結界を張るか・・・と思えば、壁を打ち砕き、俺の身長を優に超える影が覆い被さる。
『邪魔しないでくれよ』
"面白くなってきやがった"と見せる笑み。そこには、影の怪物2体と乗っ取られた二人の人物。目から送られる情報によると、高校生の橘萌絵と吉田隆文という人物らしい。まずは、距離をあっという間に詰める橘と吉田。毎回、結界を張っても面白くない。わざとバリアを解除する俺は、突きつける拳と振りかぶるナイフを軽く避ける。このナイフは、負の感情に溢れた怒り、悲しみが武器として変貌したってことか。
確かに鋭い攻撃と高校生とは思えなくらい華麗な動きで私の急所を狙ってくる。
だが、彼らの素早さにとって私にはスローモーションに見える。瞬時に撃ち放った拳と振り払うナイフ。エネルギーの拳を橘に打ち込む。だが感触が想像と違う・・・と思えば、これはこれは・・・
影の怪物が盾となって、人間を守ったか・・・面白い。だが代わりに受けた拳のエネルギーによって空洞の穴を腹部に描くと同時に、鋭い刀の形状に成り果てる眩いエネルギーは、ずっとニコニコしている影の怪物の首をスライスするように斬り込む。
意識が一人に集中しすぎたかのか、頭を押さえつけるように掴んだ俺の頭を頑丈な地面へと叩きつける。だが顔面は薄い膜で形どったバリアで衝撃は抑えられている。そして残像となる消える俺に、辺りをあたふた探し回るもう一体の影の怪物。
『遅い!!!』
両手の中で渦巻く球体のエネルギーに、高速回転の助走を加えることで、真っ直ぐに影の怪物の顔面に撃ち放った。そのまま成す術なく、影の怪物は顔面に空洞を描くように散っていった。これで二人を操る影の怪物を始末。
あとは橘と吉田隆文を仕留めれば、とりあえず一件落着ってとこか。
朝飯前で手に球体を描き出すと同時に、差し迫る吉田隆文との近距離戦に入る。瞬時な加速でナイフの突きを披露してくる吉田も、伸ばした腕をへし折るべく骨を砕く。
『うわああああああああ!!!』
腹に強烈な蹴りを繰り出し、地面と同化した彼に向けての最後のトドメをエネルギーの球体に込める。
『じゃあな』
手の平から、離れてゆく球体は、吉田にまっすぐに解き放たれる。俺の生み出した球体は、体を空洞化させるほどの殺傷能力を込めた。それを受けるのは・・・吉田だと思ったが・・・途中で彼を突き飛ばした橘が身代わりとなる。眩い光が次第に消えて行く先に見える向こう側の景色。
そこには、腹がドーナツ型を型どるように吹き飛んだ橘が大量出血を引き起こしている。
『なあ・・・橘・・・橘・・・』
好きだったんだな・・・恋人であろう吉田隆文は、うつ伏せに倒れる彼女を仰向けに抱え込む。その腕の中で。
彼が何度も名前を呼んでも、目をつぶる彼女から声は返ってこない。軽く揺さぶるも、眠ったような表情から起き上がることはない。次第に込み上げてくる怒りのボルテージは、俺に向けられる鋭い眼差しへと変わる。
『ううわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』
不意に立ち上がる吉田は、手に握るナイフで振りかぶるも、完全に読める動きに首筋を切った。
血飛沫が彼の大きな動脈が通る首の側面から溢れ返る。苦しそうにもがく声。俺はそれを、ただただ冷たい二人の死を見届ける。
何事もなかったかのように一息をつくと、ゆっくり後ろへと振り返る。なんせ、人の気配を感じたからな。
そこには、影の怪物とセットな岸本理恵に、咲白朱莉、安村楓が並んで立っていた・・・
どうやら、橘萌絵と吉田隆文と親しい関係だった岸本理恵には、まんまるとさせた目で二人の遺体を見ている。
『心配しなくても、ちゃんと殺したよ』
しばらく、二人へと近づくため歩み寄るも鋭い怒りは、燃え盛る炎のように負のオーラが広大する。
なんだ・・・いつもはニヤニヤしているような影の怪物が、岸本理恵と連動するように怒りの叫びを上げたあと、怪物らしく獣のように牙を剥く野生と化した。
これほどの進化を遂げるとは・・・すばらしい!!!
さらに、筋肉質の怪物から花開く背中からは無数の手のようなものが生えてくる。怪物自身も、噛み砕く牙の歯型へと早変わり。岸本理恵も、枯れる声などお構いなし。全てのガラスを吐き散らすほどの怒りの叫び。強い殺意を宿す赤色の瞳は、俺へと喰らい、襲いかかる。
そうだよ!!!そういうの待ってたんだよ!!!!あははははははは!!!!
俺は嬉しくなった・・・
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