29話 夢と現実Part2
京東城の前に広がる大きな草原にて。
激しく飛び交う攻撃に、行き交う仲間と能力者の対立。一つの爆撃で、放物線上に吹き飛んでいく仲間たち。俺・青木は、そんな戦場のど真ん中にいた。だが、霞んでいく視界とふらつくせいで、バランスを保つのに精一杯だ。さっき背後から狙われた能力者により出血量がひどいみたいだ。なんとか、楓が俺に肩を貸してくれるが、でかい胴体のせいで周りからの標的率が高い。おかげで、前川結城に迷惑をかける羽目になった。
このまま死ぬのか・・・みんなが必死に担いでくれてるのに、俺は・・・死ぬのか・・・
* * *
どうやら、もう長くはないらしい。走馬灯まで見えてきた。あれは・・・父が亡くなってからのことだ。
いつもは両親が喧嘩する光景が、俺の目に映っていたはずだが、人の心は正直になれないんだな。
母は父を失った時、泣き崩れるほどの悲しさを俺の前で見せた・・・なぜ、人って失ってから正直になるんだろうか・・・なら俺はどう生きる?
そう父の死を機に、自問自答するようになった。
* * *
『母さん、それ持つよ!!』
『母さん、手伝うよ』
『なあ母さん、これ今月分・・・少しでも足しになればと思って』
そんな声かけを心がける俺は父の代わりとなった。家族を守るために。もちろん、母さんは喜んでくれた。たくましく、頼られるようになるほどのデカい図体に成長したのも、努力があったからだ。
自分に嘘をつくつもりはない。家族にも、友人も、嘘をつかず真っ直ぐ生きる。
それが青木流の生き方だ。なら、忘れるな!!!!諦めるな!!!生きろ!!!!生きろ!!!!
* * *
軽く見えた走馬灯は、死の覚悟ではなく、俺の生き方を思い出させてくれた・・・そうだ!!!生きるために戦え抜け!!!
そう、楓に預けていた体は自立し、目の前の能力者の軍勢にダイレクトアタックを繰り広げる!!!
『青木!!!!』
楓に、名を呼ばれて引き止められるも、俺は前進した。戦わないと!!!生きるために!!!大事な家族を守るために!!!母さん、弟のケンジを守るために!!!
だが、感情任せに突っ込む攻撃に、能力者たちの標的率は高くなる。気づけば、一発で仕留める爆撃を俺へとぶつけた。
* * *
『青木・・・青木・・・』
私・楓は、追っていた青木のいた地点から燃え盛る炎に包まれているのを間近と目にした。
青木・・・なんで・・・
気づけば溢れる涙が熱く頬を伝う。私は、燃え盛る炎から彼の死をまじまじと受け入れることしかできなかった・・・
『うわああああああああああああああああ!!!!!』
静かに赤く燃え盛る炎の中から雄叫びをあげるごとく起き上がるシルエット。凄まじい筋肉質の影が包み込む炎から腕を伸ばす。能力者であれど、簡単に片腕だけ持ち上げられる身体。彼は目一杯の怪力で、能力者を地面に叩きつけ、追い討ちの拳を能力者の顔面に打ち込む。めり込む勢いで支える骨が砕ける音。そして、地獄から這い上がる青木。塵と成り果てた服の奥からは、高熱で焼かれた肌で姿を現す。
『俺はまだ死なんぞ!!!!』
『青木・・・』
私は、諦めるべきではなかった。そう。彼と良く接していた私なら分かるはず。人の心の強さは、運命を変える力があるって!!!そんな彼の意志の強さが、決められていた運命の歯車を修正しているように思えた。
* * *
そんな・・・馬鹿な・・・
脳内に入ってくる情報では、青木が死ぬはずだった。その現実を篠崎蓮があたかも体感したかのように、人物を入れ替えることで、現実で起きた多くの死は、蓮のせいだと・・・脳内改ざんするのが俺の目的だった。
なのに・・・あの男。
『瓜生!!!』
やや焦りを見せ始めた俺・晴人の声色に、おとぼけ顔を晒すあいつの顔が見えた。
『早く、例の場所が見つけられないのか!?』
だが、キレ気味で突きつけた俺の言葉に、瓜生は眉間にシワを強く刻む。
『だから、俺たちの儀式通りじゃ、装置はここにあるはずなのに、見つからねえんだよ!!!』
俺はマインド、瓜生はエネルギー、蓮は死・肉体、本宮セイナは、物・人を操るコントロール。この4人の全能者が額を合わせることで、この世界を破壊へ導く神々を呼び起こすことができるはずだった。
だが、何度確認しても場所はこの京東城。なのになぜ見つからないんだ?と怒りの渦が俺たち全能者の中で渦巻いていた。
『何か見落としてるんじゃねえか?本当は、京東城じゃなくて、周囲のビルのどこかとかに・・・』
俺と瓜生のやりとりを見ていたもう一人の全能者・本宮セイナは身体に込めんだ溜息を吐きだす。だが、我慢の限界を迎えた彼女はため息だけで感情を抑えられなかった。
『もう付き合ってらんない・・・こいつ殺していい?』
指差す先には、意識が夢に置かれた蓮。俺は、成瀬美波の姿がフラッシュバックしたせいですぐに断った。
『なんで?』
『こいつは、俺が殺す』
『はあ?』
『いや・・・とにかく、君はあの任務に集中してくれ・・・』
『だから、まだあの装置が見つかってないんだって!!!』
瓜生が割り込むも、俺は聞く気になれない。次の言葉でここにいるみんなを黙らせた。
『俺たちでこの作戦を成功させるから!!!』
もう気持ちの先行した説得で、論理的なことは何にも考えていない。だが鋭い眼差しを向けた俺に、本宮セイナはゆっくり引き下がる。
『わかった・・・』
セイナは、背後に黄金に光るポータルで別の場所につながる時空を開く。俺は彼女に”ありがとう”と残した後、
彼女と俺たちは別行動することになる。
一方、瓜生は泳ぐ視線に・・怒りは唇を強く噛み締める仕草で耐えている。その噛み締める唇からは歯の怪力で血が滲み出るほど。それでも、今は冷静になるべきだと、歩み寄る。
『俺も手伝うから、落ち着け』
優しく、手を瓜生の肩に添える俺は、まるで成瀬美波のように彼に寄り添った。あの人なら、そうすると・・・
ようやく落ち着きを取り戻すように、微かに荒れている呼吸のリズムを沈める瓜生。
『ああ・・・』
次の瞬間、誰かが駆け降りてくる足音が聞こえた。俺は瓜生と共に、階段から降りてくる何かに警戒を高めた。そこには、京東城の中に置いていた護衛の能力者。乱れ果てた呼吸と共に、迫り来る危機感を一瞬にして募らせる。
『どうした?』
『奴らが・・・京東城の中に侵入してきました。俺たちじゃ太刀打ちできません!!!』
『まさか・・・城内を囲っている結界が破壊されたのか?』
瓜生の質問に、護衛はなんと言うのか耳の穴をかっぽじて、次の言葉に耳を澄ませた。
『そうです!!!それも内部からの侵入者により、結界は次々と破壊されていきます!!!』
どうして!!!何度も自問自答した!!!あの時には、蓮一人だけが、城内部に侵入してきた。なんせ、あいつがポータルを使える全能者だからな。でも他にもポータルを使える侵入者が・・・いや、蓮と一緒に内部に!?
そんなことを追い詰めているうちに、瓜生が指揮を取った。
『晴人・・・お前は蓮を封印しろ。その間に俺が侵入者を潰す』
『でも・・・』
"このままじゃ、俺たちは全滅だ。もう撤退しよう"と言うつもりだった。だが・・・
『お前のせいで、こんなことになってるんだよ!!!次は俺の指示通りに動いてもらう!!!』
瓜生は、俺のミスを責めた。どうしても、この城を死守したいらしい。だが、どう考えても、不利だ。そう強く言葉にした。
『待てって!!!どう考えても、今は撤退するべきだ。これから奴らの大群がここに流れてくるんだぞ!!!』
『うるせえええええよ!!!そうやって諦めたから、前回の戦争で勝てなかったんだ!!!今度は、絶対諦めない!!!』
ここまで感情をむき出しにする瓜生新生に、俺は初めて怖気付いた。彼は、ポータルを開いてあっという間に、この空間から消え去った・・・
『でもいったい誰が・・・』
* * *
俺・瓜生新生は、ポータルの先に敷かれた光景に唖然とした。城へと続く道には、激しい戦闘による瓦礫の残骸と多くの負傷を背負う能力者たちの横たわる姿。一体誰が・・・
『お前らのせいで、私たちの家族はバラバラになった・・・』
なんだ・・・この声。まるで二重に重なる女性の声に、背後から迫る殺気を軽く躱す。距離を取るも、壁の物陰から現れるシルエットに視線が移る。日本刀を勢いよく振る一人の男。微かに見えた刀のマーク。これは!!!さらに距離を取るべく、後退する俺の視界。そこには、影の怪物狩りの組織。さらに、高身長、筋肉質の体型に象形文字のような暗号が刻まれた厚い皮膚。そして体からを放出し続けている火山灰のような粉末。怪物としか表現できない物体が、目の前に姿を出す。
なるほど・・・人の良心またはポジティブな感情を餌とする影の怪物を味方につけたのか。
『・・・名も無き魂の復讐者たちの復活ってことか・・・』
* * *
人類が京東城に作戦を実行する数時間前。
レイジたちの用意した避難所・宮島小学校にて。
静かなる森に囲まれた廃校に、ブルーシートの敷かれた体育館。風は夏にもかかわらず冷たさが人々の肌に伝わらせる。かつては影の怪物狩りの組織、今では能力者関係の事件に巻き込まれることになった俺・北村勝仁は、一人の少年に目を向けた。
体育座りで一人で蹲る少年に、腰を低くした視線の高さで寄り添うことに。
『もっと楽な姿勢になればいいのに・・・どうかしたか?』
『・・・・』
声をかけたのはいいものも、余計に丸くうずくまってしまい、顔は両腕で隠してしまう。ややきつく聞こえたのか、子供の喜びそうなことを話題にする。
『あ・・・それ、あのキャラクターじゃん。鬼殺しのカタナ好きなの?』
俺は、少年の持ち物であろうキーホルダーを指さした。キャラクターのアクリル製で作られたもの。俺も、アニメに登場する熱い男にどこか憧れていた。
『・・・』
『俺も実はそのアニメ好きなんだよな、新しいシーズンは見れてないけど・・・』
『そいつを慰めても、意味ないよ、兄さん』
せっかく、少年を元気づけようとした俺の優しさを踏み躙りやがった。それは、鋭い目つきで介入してきたもう一人の少年へと睨みつける。だが、全く動揺しない。むしろ、バリバリと音を立てた咀嚼音で、非常食を喰らう。
『ケンジは、兄さんに会うまでこの状態だよ』
『言い方って言うもんがあるだろ?』
『はいはい。悪かった』
『本当に感じ悪いクソガキだな』
『クソガキ!?なら、アンタはクソ暇人だな』
『何!?』
『そんな刀一つで、人を守れんのかよ?』
子供相手に感情的に握ってしまった刀の柄。だが、どこか受け入れてしまったクソガキの一言に、俺は完全に全身の力が抜けた。
『だから、俺の妹は死んだんだよ』
さらに上乗せされた言葉に、俺は無力さを感じ取った。
『アンタ、名前は?』
『ミヤビ』
拗ねていることが、尖った口先から見えるこのクソガキ。確かに俺は無力かもしれない。本当に救えた命はごく少数。
本当に役に立つには、俺が・・・もっと強くならないと。
自分の行動を振り返る回想が脳内に流れる間に、何かが光を灯すように姿を表した。
別の場所から描かれたポータル!?俺は瞬時に刀を向けた。周りの人々がそのポータルに気づくより前に。恐れ慄く人々は一斉にそのポータルから距離を取る。
なんせ、こんなの使えるのは、能力者しかいない!!!そう覚悟を握りしめる刃の柄に込めた。
眩い光から、現れるのは一人の男。如月紫苑だった。
『紫苑・・・』
『悪いな・・・勝仁、話がある』
* * *
俺・北村勝仁は、紫苑に呼び出された。彼は、同じく怪物狩りの組織の桐島慎也と謎の男・篠崎蓮という男を連れて。
要約程度だが、"今まで何が起きたのか?" そして、 これから京東城で神々を呼び起こす儀式を阻止する作戦のことを知った。だが・・・
『俺が全能者であることを知ってる奴らは、結界を張っても、ポータルで内部から侵入できることを予測している』
『なぜ、城外に結界があるとわかる?』
俺の問いかけに、篠崎蓮は、自分の瞳を指指す。
『実際に行って見てきた。俺の瞳はあらゆる情報を可視化して教えてくれる。だからわかった』
『本当に全能なんだな・・・』
『さて。どうだが・・・・・・本当に全能ならみんなを救えてる』
『・・・』
今度は紫苑が口出す。
『それでお前に頼みがある。内部から侵入してるのは蓮だけだと思わせて、君が結界を解いてほしい』
『俺だけで?』
紫苑は、首をゆっくり横に振る。俺はすました彼の反応を見てすぐわかった。
『なあ、勝仁。俺たちは人の心を奪う影の怪物を封印してる箱を保管してる。それを、使って仲間を増やす』
俺は思わず、紫苑の首元を掴んだ。
『おいおい!!!』
桐島が差し押さえる手が俺の手首を掴んでも、離さなかった。
『お前・・・自分が言ってることがわかってるのか?またあの惨劇を』
『分かってる・・・それでも今はあいつらを利用する。勝利以外の目的で使うつもりはない・・・』
紫苑のいう通り。あいつらは人の良いとされている心の部分を喰らうことで、超人的な肉体を宿すことができる。それは、心を喰われた被害者も同じく超人的な力を持つ。その力を使って、能力者を倒そうっていうのは現実味ある作戦。とはいえ、過去に起きた事件のことを思えば、YESとはすぐいえない。でも・・・これであの少年・ケンジを・・・みんなを救えるなら・・・
そう思えば思うほど、紫苑を絞める手の握力は緩んでいった・・・
『だが・・・誰に・・・あの怪物たちを宿らせるつもりだ?単体で泳がせるには、制御が効かず危険すぎる。あと、全てが終わった後、どうやってあの怪物たちを処理するつもりだ?』
俺の質問に、紫苑は視線がやや泳ぐ。もはや、選択肢なんてない。
『経験者に・・・例えば・・・岡本優花。そして・・・怪物をコントロールするのは、俺の妹・三浦香穂に託す』
皆さん、驚いたんじゃないでしょうか。
この話で、デイズ-名も無き魂の復讐者-と今作のクロスオーバーが果たせたのですから。そして”ミヤビ”という少年。MAD KNIGHTの主人公です。