28話 夢と現実Part1
能登半島地震により被災された皆様、皆様の大切な人たちのご無事をお祈りすると共に一日も早い復旧をお祈りいたします。
晴人に首の動脈を掻っ切られたせいで・・・意識がぼんやりとする。動かしていないのに、頭が左右に揺さぶられている感じだ・・・それも体調が悪い・・・死・肉体の全能者なら・・・こんなの朝飯前で治せるはずだろ!!!
そう必死に意識を取り戻す。でも流れ出る出血の倍ぐらい力が失われていく。気づけば、暗がりの黒一色に染められた部屋の中で俺のところにスポットライトの光が灯される。次第に近づく足音。
『おかえりーって、死にそうだな』
すげえ、こいつの顔見るの気持ち悪い。なのに、顔を覗き込むように、屈む瓜生新生。誰も口にはしていないが、こいつがこの修正戦争を起こした主犯だと俺は確信している。今まで受けた犠牲を考えれば、こいつを見る目もただの目じゃ済まない。そう眼力を込めた眼差しをぶつける。だが、こいつの口ぶりは、いつものおちゃらけた口調から冷静さ一筋の言葉だった。
『なあ、もう抗うな。全て終わらせよう。蓮・・・』
俺は鼻で笑うしかなかった。素直に”はい”なんて言うわけないからな。
『終わらせたいなら、お前らが降参すればいい』
その時の言葉を受けた瓜生新生の瞳にジョークなんてない。輝きを失うように見つけるその眼差し。気づけば、頬を突き破り、口内に入り込む鋭利な刃で皮膚をえぐられていた。だが実際のナイフじゃない。光り輝くエネルギー源で生み出した武器が、俺の口内までの強烈な刺激を与える。こいつ(瓜生)が、エネルギーの全能者であると再認識すると同時に、痛みを噛み締める。それは叫びとして一部の痛みを耐え抜く。
『降参?俺の親父を殺しといて、なんで降参しねえといけないの?』
『親父?・・・』
抉られた頬の皮膚せいで、まともに話せないも舌を駆使した。
『やっぱ、自覚がないんだな・・・そういう奴がのうのうと生きてるだけで俺は憎しみを覚えた!!!』
冷静な一文は、"憎しみ"を境に声量と怒りの入る声色に変化した。
『いや・・・憎しみなんて言葉じゃ収まらない』
憤激の嵐は、震える口調だけでなく、ナイフ握る手にも込められる。その時だ。
『おい!!』
今まで静かに俺の周りを歩いていたあの男・西山晴人が口を挟む。
『目的を忘れるな』
『あー、はいはい』
晴人の叱責の念を込められた瓜生は、深く目を閉じることで理性を持ち直す。深い呼吸と共に。
『やあやあ、さっきはごめんね。顎外れちゃったよなー』
瓜生は、あっさり頬の皮膚を抉り外した顎、をエネルギーの源で最も簡単に修復。黄金色の輝きを見せると、俺の顎は会話に難なく動かせるようになっていた。
『じゃあ、本題に移ろうか・・・残念なことに神々を呼び起こす装置が見つからない。俺たちの共有した記憶だとここにあるはずなんだけど・・・』
『探すのに協力しろと?』
『そういうこと!!!なにせ、あれがないと人類を全滅できないからな』
『俺が・・・簡単に応じるとでも?』
『お前の意志は関係ない。全能者の感性だけが欲しかった』
『は・・・』
* * *
何をされた!? 真っ暗な部屋にいた空間から、俺は・・・あの高校の屋上にいる。
空に、いつもの透き通るような青さはない。一面、緑色に染められたコンクリートの床に佇む俺の頬に、冷たい風が吹く。それらの条件が屋上であっても、俺を地獄にいるような感覚を募らせていた。
『おーい!!!誰かー!!!!』
そう声を上げるも、返答はない。ってことは、これは晴人が導いた夢の世界。なら、すぐでも脱出できるはず・・・だがどんな能力を全般に使えるとはいえ、マインド専門を強化された晴人には歯が立たない。
そんなことを脳内で考えていると、軋む音と共に下の階に続く扉が開く。扉の先には誰もいない。
扉の隙間から見える先は真っ暗な影にしか見えない。だが、導かれるように、一歩一歩踏みしめる。
* * *
何事もなく、屋上から下の階につながる階段を降りていく。人の気配を感じず、ただ淡々と自分のクラス教室へ向かう。2年1組。廊下から見える表札に、やっと視界に映る窓ガラス越しの教室。
俺の中で刻む心臓の鼓動は一瞬異常をきたす。何せ、人の気配を感じなかったはずが、一人の女子高校生が立っている。黒板の方に向ける体に、ただ立ち止まる後ろ姿。警戒心の高まる脳内サインと共に、後ろのドアから中の教室へと足を踏み入れる。引きドアの音を鳴らしても、微動だにしない女子高校生。
だが、距離を縮める度に、見覚えのある雰囲気に一歩一歩の幅が広がっていく。
『美波か・・・』
『・・・久しぶりだね』
やっと返ってきた女子高校生・成瀬美波からの一言。夢であるとはいえ、死んでしまったはずの彼女が、この世にいる空気感を持たせる。
『なんでここに・・・』
『なんでって・・・蓮君に一つ言いたくてね』
『なんだよ?』
やっと振り返る美波。だが、彼女の顔を見て、思わず声が漏れる。何せ、血に染まった顔に白く剥いた目に死人だと認識させる。よく見れば、暖かさを感じない蒼白すぎる肌。彼女の姿に唖然とする時間もなく、美波は話を続ける。
『お前はみんなを守る事ができない・・・私を守れなかったように』
初めて低く変わる口調と声色。でも一番衝撃を与えたのは、美波の言葉だ。根拠もないくせに、何を言ってる!?そんな怒りが声色に乗る。
『なんでお前がそんなこと言えんだよ!!!』
『だって、人の精神や心を覗くことで、ある程度次に起こることを予測できるから。要は性格や行動パターンで大体の未来がわかるってこと』
『・・・は?』
『まず、死にそうな人から名前を挙げて行こっか・・・最初は青木かな・・・』
青木隆三!?彼は、堅いのでかい熱血系のクラスメートだ。だが、やっぱり言ってる事が信じられない。その時に、爆撃音が激しく響き渡る。
『とりあえず行ってきたら?』
美波の指差す先には窓ガラス。その向こうに見える街並みの景色から1箇所黒煙が登りつつある。無我夢中になっていた俺は、黒煙の登る場所へと向かった。これって・・・夢としか思えない。だって映画のシーンのよう次々と移り変わる展開。死んだはずの美波の登場。夢だよな・・・
そうなぜか体にのしかかる重みが全身に襲いかかると、意識が途切れた。
* * *
さっきとは違い、激しく鳴り響く攻撃音と並行して聞こえる仲間たちの声。
『おい!!!蓮!!!』
ただごとじゃない声で俺を呼び起こす。それも青木の声だ。俺が急いで開けた視界には、あの京東城の横に広がる大きな草原で戦う仲間たちと能力者の激闘。どうやら、能力者の攻撃を受けて意識を失っていたらしい。急いで起き上がるもすでに遅し。
『うっ!!!』
何かを貫く響きは、俺の肌に赤い血飛沫として降りかかる。急いで、視線は青木へ。そこには、鋭い刃が青木の胸を貫通していた。なんとか鍛え上げられた太い二の腕で背後にいる能力者を振るう。
手足を刃に変えれる能力者は細身の体型であったから、簡単に地面にねじ伏せられる。
『青木!!!』
『俺は・・・大丈夫だ・・・早く行け・・・』
『お前をこんなところに置いておけるわけねえだろ!!!』
なんとか図体の大きい体を持ち上げるように、俺自身に筋肉増倍させた能力を使う。そうすれば、青木を運びやすい。死・肉体の全能者である俺は、青木並みの体型と早変わり。戦場の中心から急いで、彼を避難させる。俺のポータルを使えば、彼をすぐ助けられる。だが、事はそういかない。
『うわああああああ!!!!』
喚くように叫ぶ声が聞こえる次の瞬間、伸びてくる触手のようなものに巻き付けられる。よく見れば、触手じゃない・・・伸び縮みを可能にする手足で俺たちを巻きつけの刑にした。
『全能者を見つけたぞ!!!!』
手足が伸び縮みする能力者の一声で、周囲にいる能力者たちは俺たちへと目を光らせる。
『くそ!!!』
一直線に迫り来る能力者は周囲の数を合わせて7体。必死に足掻くも、青木を横に下手な能力の使用は彼を巻き込むことになる。そこに、割り込む前川結城と安村 楓。勢いのある拳と風のごとく素早い剣さばきに4体は束の間のテイクダウン。
『ほら!!行け!!!』
結城の一言に躊躇のない選択を下す。俺は自分の歯に1000度以上の高熱へと3秒で込めていく。普通は溶けてしまうほどの熱でも、全能者にとっては通常運転。高熱以上と化した俺の歯は、巻き付いた手足を噛み切るように精一杯食らいついた。
『うわあああああ!!!!』
さすがの手足縮む能力者も悲鳴を上げるほどの痛み。あっという間に噛み切った手足の拘束から解放。やっと、ポータルを開く。うっくっ!!!今度はなんだ!?!?!?体が動かない・・・・まさかこいつが・・・
目の前の少年のような幼い男。ややおかっぱ頭に冷たい目。気づけば、前川も楓もこいつのせいで、動きが静止している。だがすぐに対応した。視界に映る情報を送る右目曰く、言霊を武器とする能力者。発した言葉通り、周りの人を操れる。俺は彼の能力をコピーし、口開いた。
『ぶっ飛べ!!!!!』
自分でも驚いた。俺の言葉通り、目の前に映る言霊の能力者は何百メートル先へと吹っ飛んだ。これでも時間は短縮しているつもりが、青木の呼吸が弱々しいのが、隣から聞こえる。
『青木!!!もうちょっとだ!!!』
『もういい・・・』
『え・・・』
彼はよろめきながらも、すんなりと俺を突き飛ばした。
『なあ蓮。弟に伝えてくれないか?お前に柔道を教えるはずだったのに・・・すまんなと・・・そしてお前ならできると・・・』
『青木・・・』
彼は死を覚悟した。もちろん引き止めるも、能力者の軍勢へと突っ込んでいく青木。気づかない間に、距離を取られた。
『ほらな・・・お前にみんなを守ることはできない』
どこから聞こえてくる言葉なのかわからないが、脳内に入り込んだ言葉は俺の一歩を小さな一歩にとどめていく。クソ・・・なんで・・・青木!!!!
大群の波に押されてしまう俺は宙へと舞い立ち、青木のところへとポータルを開く。
『手の切断を!!!』
どこからか放たれた一言に、俺の両手は果物のように切断された。最も簡単に外れた手首は、地上へと落下。やっぱりちゃんと仕留めるべきだった・・・言霊の能力者。始末が曖昧なせいで、ポータルを開くための両手は失われた。
次の瞬間、衝撃波が俺の肌を震わす勢いの大爆発が引き起こされた。それも青木のいた位置から・・・すぐわかった。青木は少しでも能力者の数を減らすための犠牲になったことを・・・
これ・・・夢だよな・・・
* * *
京東城にて。
『青木・・・青木・・・』
私・安村楓は、燃え盛る炎から彼の死をまじまじと受け入れることしかできなかった・・・