2話 突然すぎる初陣
『いてて・・・』
目覚めたと同時に、走る額横の激痛。晴人に鈍器で殴られた後の傷が痛む。同時に振るわれた記憶を整理するべく脳内の情報をまとめてる最中に、声をかけられた。
『お前、本当に進学校の人間?』
目の前の腰掛け椅子に居座る西山晴人は、背もたれに背中を託した状態で、小馬鹿にした目つきを見せる。
『まんまと嵌められるとはな、人間も所詮こんなもんか』
俺は、晴人が何を言ってるか訳わかんない。
『お前が何言ってるか分かんねえ。日本語で話せ!!!』
『察しろって!!・・・まあいい、俺が誰か見せてやる』
『いつから厨二病・・・・・・・・・・じゃなかった』
俺は完全に舐めていた。西山晴人の紺色かがったセンター分けヘア、童顔だと思わせる幼い瞳の上に二重、通った鼻をした顔は姿を変え、別の人間と容姿を頭から爪先まで変える。
今度は、俺(蓮)の容姿へと、そのままリアルな外見を再現していた。
いかついデザインの入ったパーカーの上からブレザーを羽織るその格好。ツンツン頭のツーブロックヘア。そして、目力の強い二重が威圧感を与えている様は、俺にそっくりだ。
そんな目の前の状況に驚かざるを得ない。
『俺って・・・こんな顔してたのか、柄わる!』
『ツッコむとこ、そこかよ!!!』
突きつけるポイントを外した俺の感想に、思わず椅子から滑り落ちる目の前の相手。
ああ、、、こいつ、能力者か。
『なんで、能力者だってことに驚かねえんだよ』
『いや、なんか慣れてる。俺の中では見るの初めてなんだけどな』
『はあ!?』
そんな感じでカメレオンみたいな能力者と会話していると、能力者の背後から迫り来る人のシルエットが浮かび上がってくる。それも飛びかかってくるポーズ。その勢いはおさまらず、(カメレオンの)能力者の背中へと飛び蹴る。完全に油断した能力者は押された勢いで、椅子から前のめりとなり、硬く冷たい地面に身を打ち付ける。急いで、ねじ伏せられた体勢から起き上がるも、両手を振り払われ、鋭い蹴りと横腹に、手に握る刀で心臓を一突きを受ける。
瞬時に命を絶たれた能力者は、そのまま地面から起き上がることはなく、息絶える。
飛びかかってきた一人の人物。スタイル的には女性、握られた刀には能力者の血がべったり、顔は(伝統的な)狐のお面で表情が隠されている。だがこの一言で、俺は目の前のショックから我に返った。
『大丈夫?動ける?』
『あ・・・ああ』
『じゃあ、来て』
話し口調を見る限り、敵ではなさそうだ。彼女は俺の二の腕を引き上げる小さな手一つで、椅子から引き起こす。
気づけば、拘束されていた部屋から、廊下へ、階段へと進んでいく。ここまでは順調だった。
あの巨大な赤鬼を目にするまでは。
地震に近い振動音が鼓膜を襲うと同時に、あらゆる壁を突き破り、建物の原型を破壊していく。そこには筋肉質な肉体に、2メートルある身長、そして赤い皮膚の鬼瓦の顔を宿していた。
『赤鬼!!!』
『こいつは、能力者だ!!!』
『鬼は鬼だろ!!!』
『鬼の能力を持つ能力者ってこと!!!』
能力を持ってたら、何でもありなのかよ!!!とツッコミたいものも、暴れてくれる赤鬼のせいで階段が崩れ去っていく。頑丈な足場は崩れ去る階段で垂直に落下していく俺と狐の女性。だが、そのまま落下していくと同時に、1階へと辿り着くことができた。
狐のお面は、必死に俺を逃がそうと、落下する過程でも腕を離さず引っ張っていく。
『走って!!!』
だが、赤鬼の能力者は階段から出入り口へとつながる扉を粉々に破壊していく。その破壊した衝撃で飛び散る瓦礫や破片が俺たちのとこへ降りかかってくる。後ろまで警戒する余裕のなかった狐のお面を庇わないと!!!そう、自分が盾となり、狐のお面に降りかかる瓦礫を背中で受け止める。
彼女を守れたといえど、瓦礫の押す力に対抗できず、彼女と共に地面へと打ち付ける。
『何を!?』
『お前こそ・・・逃げろ!!』
『私は!!!』
今後どうするかの作戦も立てれず、降りかかってくる鬼の拳を何とか狐の女性と共に躱す。これ以上、防御戦に劣勢を感じた狐の女性は刀を強く握りしめると同時に、鬼へと一直線に向かう。
そんな・・・早く逃げろ!!
そう思うことしかできない3メートルの鬼の威力に圧倒されてしまった。だが彼女は負けまいと、降りかかる拳や平手を躱し、斬り裂きを繰り返す。たとえ、一撃喰らえば、死ぬかもしれないの拳が降りかかろうとも。
やっと、鬼の二の腕に足場をついた狐は、素早い駆け足で、相手の顔面へと芯のある蹴りをお見舞いする。さらに、右手に握る刀で鬼の目へ食い込ませる。
だが、目に走る激痛で込み上げてくる怒りの波が反撃を仕掛ける。苦しさと痛みを超えた拳で狐の女性は、隣に位置する倉庫へと吹き飛んでいく。
俺はその最中、(瓦礫を受けたことで)歪んだ視界を治すので一苦労だった。
クソ!!!動け!!!動け動け動け!!!!篠崎 蓮!!!そう自分を奮い起こす。
四つん這いから起き上がり、加速していく走り、そして鬼の身長を超えるジャンプで頭へと飛び込む。右目には狐の人が使っていた刀が刺さったまま。俺には、その刀に頼るように刃を握る柄を手に取る。だが、本気になった鬼の瞬発力が覚醒。大きな手で掴まれた胴体は、地面へと叩きつけられる。砕ける地面にまた意識が消えかかるも、次に受ける拳は回転していく身で躱した。こいつ、強すぎだろ!!!
そう鬼の脅威を思い知ると同時に、布切れが2枚、放物線上に降りかかってくる。
『それ付けて!!!』
狐の人も援護に入ると、鬼の標的は再び俺から彼女へ。その隙に地面に転がる日焼け用のアームカバーを手に入れる。え・・・日用品・・?とは思いつつも、手の平の中心には青い原石のような物が埋め込まれていた。
俺は早く狐の援護に入るべく、素早く身につけると同時に戦闘に参加。狐の人が腹部へと飛び蹴りを的中させると、地についていた胴体は5メートル先まで後退する鬼。
『ねえ!!!そこの君!!!私の合図で拳を突き出して!!!』
『え・・・』
『私のマネするだけでいいから!!!』
鬼はしぶとく俺たちのところへ。狐の人と横に並ぶ俺は、彼女の手の動きと合図する声に全集中を注いだ。
早く逃げたほうがいいじゃないんか?と思うくらい全力突進してくる鬼。
『・・今!!!!!』
鬼とは全く触れてないし、当たっていないもいない拳を突き出す。彼女と同じ動きを再現したものも、死んだと思っ た。もはや掠ってさえいないんだから。
その時に突き出した拳から放たれたとは思えない衝撃波が空気中を振動していく。赤鬼はその衝撃波を受けると同時に、宙へ浮いた胴体と建物の壁へと背中を打ち付ける。
(鬼が)仰向けに倒れた今がチャンス。
『最後のトドメを!!!』
『分かった』
狐の人を追うように、負けないように加速していく走り。彼女の切り替え、無駄のない動き、それら全てについて行く。そして鬼の足元、腹を超え、頭部へと二人同時に飛び立つ。後は放物線上先に落ちていく先にある鬼の頭部へと、二人同時に拳を振り下ろす。
* * *
したはずだった・・・あれ・・・夢・・・・
気づけば、白い天井と壁全面に埋め尽くされていた部屋で起き上がる。状態を起こすも、全身を駆け巡る痛みに声が出てしまう。すると、軽く視界に映った女性一人と男の子一人。
ゆっくり視線を動かすと、俺の顔を凝視する母・篠崎 流花、幼い弟が安堵の表情を漏らす。
『危ないことはしないでよっていったでしょうが!!このバカ息子!』
そう言い、母は俺を腕の中で強く抱きしめる。
遠のいていた意識が戻ってくるのと同時に辺りをよく見ると、白が誇張された病室にいるようだ。そして母さんの背後には、いつの間にか現れた美波と晴人が涙ぐむ表情で見ていた。
『おい!恥ずかしいから抱きつくなって!バカ!ってか苦しい!』
これは、体育祭が開かれる2週間前、5月に起きた出来事だった。