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24話 敗北と・・・

1時間前。

『おい、蓮は?レイジは?』

『うるせーよ!!!!』

あまり見せないであろう不安の表情が滲み出ている篠崎仁明。そんな彼の言葉に耳を貸す余裕なんてない前川結城。

『もう誰が生きてるかなんて!!!知ろうとしたくもない!!!』

さらに怒号を上げる楓。彼女の中でも何かが壊れたのだろう。それぐらい現場は悲惨だった。

だけど私(朱莉)も仁明さん同様、蓮やレイジさんがいないのは気がかり。その時だった。

『もしかしてリリさんが連れてった先かもです。』

後ろから近づく西野明奈から思わぬ情報が飛び交う。

『え・・・まさか知ってたの?』

『いや、嫌な予感はしてたんですけど・・・ただ彼らを同行させるだけかと』


*   *  *



宗教団体にしか見えない。

4人囲むように手を繋ぎ、額を互いに引き寄せる。その時に互いの額どうしで光り合う雷の線。俺(蓮)には、何が起きているのか全く分からなかった。だが、俺の前で白く光り輝く雷の線が強く濃く刻まれていた。ここからは遠くも、その光はしっかりと目に焼きつけた。


もしかして、全能者たちが化身を呼び寄せているのか?

見張りは誰もいない。両手両脚拘束された青い原石を引き割る勢いで、身体に力を込めていく。

全能者なんだろ?なんならこれくらい引き剥がして見せろよ!!!蓮!!!そう自分を奮い起こす。


そう自分の中で、自分の能力を駆り立てる・・・はずだった。


『おっと!!油断したね』


思わぬ一言と同時に、隠れた見張りの能力者が二人現れた。

一人は丸いワームホールから現れた空間移動能力者。もう一人は、鉄の塊を生み出し操る能力者。もう一人の彼は、手足以外の拘束で俺を完全封印させる。胴体が全身、鉄の部品や塊で身動きさえ取れない。"どこからこんな鉄の塊を"とは思ったが。自分の手の平から生成していることに気づく。完全に抗うことができなくなった俺は、口まで塞がれる。


『例の居場所が確認できた。じゃあ、レイジさん。しばらく息子を預かるな』

レイジは黙っていられない素振りで、抗おうとするも、晴人の呪文で大人しい奴隷と成り代わる。

『お前に拒否権ないから』

瓜生新生は相変わらずノリの軽い男だ。


『じゃあ、蓮は俺たちのとこへ行こうなあ〜』

空間移動能力者が別の場所へと繋がる入り口を開く。俺は、向こうに見える世界へと強制的に連れていかれる。抗っても、完全固定されて動けない。


『私の相棒に!!!手ェ出すなあ!!!!』

その力強い声と飛び蹴りが鉄を支配する能力者の顔面崩壊を繰り広げる。さらに、別の膝蹴りが、空間移動能力者の顔面へと意識を吹き飛ばす。


同時に着地した二人の足音。そこには、朱莉と篠崎仁明の姿があった。まさかの反撃に全能者の意識は二人に向けられる。



『お前らは先に行ってろ。俺が相手になる』

晴人は自分から前へと進んで、瓜生、セイナ、レイジは背後に描かれた楕円形のポータルへと姿を消す。


一方・・・


『蓮!!すぐ解放するから、待ってて!!』


鋭く長い刀を手にした朱莉は、金属を操る能力者へと攻めの剣さばきを繰り広げる。親父(仁明)は、西山晴人へと拳をぶつけるも、一歩下がった器用さで軽く躱す。大事な人に任せての戦闘。俺は一刻も早く拘束を解こうとする。

早くみんなを助けろよ!!!蓮!!!

全身を奮い起こさせる筋力や血力を沸き起こすと同時に、拘束していた鉄の塊は次第に緩んでいく。接続部分のネジが飛び散る拍子に、拘束の力が弱体化していく。朱莉が鉄の能力者を追い詰めてるおかげだ。


最後の最後まで、最大限の最大限まで、力を解き放った俺の身体からはようやく解放を得られる。

さあ・・・全能者の力を。その力を試したい俺は、加速した胴体と共に鉄の能力者へ拳をぶつける。瞬時に手の平から、鉄鋼製の盾を描き出すも、俺の鋭い拳は盾を貫通。そのまま(鉄の能力者の)頬まで振動させた。それに続き、朱莉は鋭い剣さばきで腹部へと刺しこむ。深く突き刺さる刃に動きが静止する鉄の能力者。


『大人しく寝てろ!!』


鋭く素早い手の平で、首の血管筋を弾くと、力の抜けた屍となり大きく地面へと気絶していく。やっと、晴人とご対面だ。だが、事態は思うほど先の展開を描いていた。


絶景な景色とタワー内部の境界線となるガラスが、親父の背中を打ち付ける衝撃で簡単に破壊されてしまう。境界線が失われた途端、親父はそのまま300メートルの高さを描く外側へと投げ出される。なんとか吹き飛んだ拍子で、へりに捕まるも、自分の体重を支え切るには限界がある。


『親父!!!』

急いで声よりも早く脚を動かした。一方、横に並ぶ朱莉は、西山晴人の元へと飛び込む。彼女はその行動で"親父を助けろ"と示唆している。そう思えた俺は、彼女が稼いでくれた時間を親父へと向けた。今まで育ててきた大事な家族を。


親父の手に込められた力が抜けると同時に、ヘリから離れる腕を飛び込みで掴みかかる。


今、親父の体は外へ宙ぶらりの状態。真下には300メートル高さから見えるアスファルトの道路とビルが並んでいた。助けだすには、垂直に引っ張り上げるしかできない。


『手を離せ!!!蓮!!!』

『嫌だ!!!』

『お前まで巻き添えになるんだぞ!!!』

『なら上がってこいよ!!!』


1mmでもいい。少しずつ上げていけ!!!必死に親父を引き上げる。だが親父は手に力を入れようともしない。それに涙が溢れた。何でって・・・彼の覚悟が見えてしまったから。


『お前は・・・自慢の息子だ!!!これからも正しい道を生きて、人のためになることをしろ』

『父さん!!!頼むから上がってきてくれよ!!!!!』

震えた声と込み上げてくる滴で、俺の瞳は埋め尽くされた。

『"父さん"か・・・いい響きだな』


その言葉を最後に、最後の手綱となる親父の手は滑り落ちていく。完全に俺の手から離れていった親父は、そのまま300メートル先のアスファルト道路へと消えていった。


俺はまだ諦められない。俺もそのまま落下して、彼を助けようと前のめりに外へと出すも、力のかかった別の手に引き戻される。あっという間に、仰向けにねじ伏せられる身。そこには、瞳の色を変えた朱莉が刃を振り下ろす。


さっきとは別人に成り代わったこのトリック。ということは、マインド専門の全能者・西山晴人の仕業か・・・全身の矛先は、ポータル待ちをしている西山晴人に向けられた。

殺す・・・殺す殺す殺す殺す。


朱莉の相手をしている余裕を失った俺は、2、3手の振るう技で地面にねじ伏せる。そしてポータルが西山晴人の背後に描かれた瞬間、全身の力が彼へと奮い起こされる。


『逃げるなあああああああああ!!!』


あっという間に晴人の胴体へと飛びかかっていた俺の身はポータルの先へと連れて行かれる。

暗がりの景色に囲まれた空間で、宙を回転していく俺と晴人。さらに別のポータルが開き、今度はさっきより明るい場所へと連れ出される。だが場所とタイミングが悪かったか。互いの身は強固なガラス張りを打ち破り、斜面となった地面を転がっていく。必死に朱莉から奪った刀で地面にしがみつくも、なかなか滑り止まらず、またビルの向こう側へと互いに追い出される。


どうやら、傾いた高層ビル内のオフィスを転がり回っていったようだ。だが勢いのまま、傾いた斜面を転がり終えた俺たちはまた地上へと落下していく。


今度こそアスファルトの地面とぶつかれば、晴人は身動きできなくなる”死”と直面する。だが、アスファルト道路から描かれた新たなポータルで、地面との衝突を回避。


別のポータルで追い出されたのは、芝生が広がる公園。ちらほら視界に映る森の木々が目に浮かぶも、俺の相手は西山晴人だけ。俺の感情が舞い起こされるように、強い風吹き、次第に降りそそってくる雨音、終いには雷が木々に直撃した影響で、火が映り始めてる光景。まるで、俺の心の中を体現してるようだった。



『殺す!!!』


いや!!!・・・・


『絶対止める!!』


俺(蓮)はその言葉と共に、手に握る刀を晴人へと向ける。彼の器用な躱しと伸びてきた固定技で最も簡単に刀が俺の手からすり抜けていく。右腕は固定されたせいで、今度は左腕で晴人の腹部へと拳を打ち込む。その衝撃で外れた固定技は、両手で格闘術をきわめた技と鋭い拳で次の一手を仕掛ける。だが、キレある晴人の回避でまたもや失敗。連続的に繰り返す拳は、ガードの体勢で守られ続ける。


『お前にみんなは、守れない』


強烈な拳を両腕のクロスしたガードで防がれる。自分でもわかってる。感情的な拳は荒く、無駄に力が入る。狙いの定めが正確ではない限り、晴人には当たらない。むしろ冷静さを失った俺は、晴人の鋭く狙いの定めた拳を喰らう。腹にめり込むと内蔵まで撃ちしがれる。今は感情的であろうと、とにかく拳を作り出す。だが触れた晴人の頬には、生を感じない。


しまった!!!


背後から迫り来る生の感触が、内臓を抉り出す刃物で教え込む。目の前の晴人は陽動か・・・本物はすでに背後へ。痛みが全身の神経を伝えた時、息の触れる彼の声が襲いかかる。


『蓮には、二つの痛みを教えたい。まず身体的に受ける痛み・・・』

『っく・・・・』

『そして、大事な人を失う精神的苦痛』

『なら俺は晴人に伝えたいことがある。・・・・”ごめんなさい”と。そして、"もう一度楽しく過ごした3人の頃へ戻ろう"と』


背後に迫る殺意には、若干の動揺が漏れるも、すぐ冷静さを取り戻すに至る。


『もう戻れない。成瀬なしには・・・何せお前が殺したんだからな』

さらに食い込む刃の先端は、体の内部へと押し込まれる。

『でも必ず・・・違う形の幸せを見つけ出す!!!晴人!!!一緒に帰ろう』


引き抜いた刃は、内部から外部へと引き戻されるもまた刀が襲いかかるのは勘づいた。瞬時に振り返る俺の体勢に、手の平で受けた刃は、貫通を喰らう。


『笑わせてくれるなよ。俺は成すべき事を成すまで。ここで止めるわけにはいかない』

『なら・・・』


蹴り上げた俺の足で、横腹を狙い打ち。身を回転させることで、更なる足蹴りで晴人の頬を狙うもこれもダミーだった。風と塵となって消え去った晴人。いや違う。ポータルの能力者の援護により、丸い風穴から姿を消そうとする彼の姿。



『晴人おおおおおおお!!!』

全速力で一歩を踏み出すも、背後を抉られた傷口が悲鳴をあげる。完全に一歩を踏み出せなくなった俺はそのまま、草木ある芝生へと手足が止まる。

『捕まえた!!!』

背後から別の声が俺の耳元に差し迫る。掴まれた髪の毛は後ろへ反り返ると、相手の顔が一瞬拝めた。

『お前・・・』

自由自在に空間を行き来できる空間移動能力者は、歯を見せ笑う。無様な体勢から解放された俺は肘打ちで腹部を、後頭部での頭突きを相手の顔面へ。だが、彼の指先が軽く上がる瞬間、草木溢れた足場はクレーターとなって別の時空へと描かれる。浮遊した身は急速な垂直落下へと遂げるも、全能者だ。空中飛行を覚えさせれば、あっという間に地面の下へと繋がれたポータルから逃げ出せる。


『俺を囮に、親父レイジを利用しようってのか?』

『っく!!!』


ポータルを自在に描けても、動きが読めていなければ意味がない。今度は火と氷を使った攻撃を仕掛けよう。そう最初の陽動となった(俺の生み出した)火の玉の攻撃は、目の前のポータルから俺へと繋がるポータルで弾き返すが、空間移動能力者の横腹を狙う身は、氷の結晶を氷柱として刺しこむ。これも異なるポータルにより回避。更なる加速度で連続攻撃を引き寄せる。背後を取られた空間移動能力者は、もはや対応できない。


後ろへと振り返るも、俺の拳に込めた鋼の強打に、能力者はその先へ繋がるポータルへと投げ出される。地面へとねじ伏せたと同時に、好機を得た俺は彼の拘束に成功した。


*  *  *


決して後味はよくない。


俺の感情任せの行動は、朱莉たちへの救いを怠った。そして、俺たちを助けに来ていた朱莉から聞いた裏切りによる犠牲。予期せぬ能力者の反撃で、失った兵たち。大事な人たち。そこには、再会もあった。成瀬美波の件で、行方不明となっていた山下おじさんだ。本当は現場の悲しみに寄り添うべき責任はある。だが、今は拘束したこいつ(空間移動能力者)を尋問する必要がある。そう自分の感情を押し殺した。


*  *  *


原型を失ったホテルから離れ、新たな基地となった大きな教会にて。裏切り者の張リリとはいえ、彼女の死に意気消沈していく部下たちの顔が並んでいた。悲しみと絶望に明け暮れているのは、彼らだけじゃない。楓も朱莉もそうだ。


『兄貴。これからどうする?』

そう様子を伺ってくるのは、いつの間に見て逞しくなった前川結城だった。

『・・・・俺のせいだ。俺のせいでみんなを苦しめている』

『蓮!!!』


いつも”兄貴”と呼ぶ結城は、両肩に熱い手の温もりがのしかかる。


『言ってくれたよな?俺が家族から見放された時に、かけてくれた言葉。確かに暴走族の道から引退はできてないけど、俺はできることをやろうと思えた。あなたの言葉が、俺を救ってくれたんです。』



確か、こんな言葉をかけたっけ・・・


*  *  *


時系列は過去の記憶へと戻す。


『お前はなんで暴走族になったんだ?』

『急に何を!? 兄貴に興味を持たれるような人生なんて歩んでないですよ』

『それはお前が決めることじゃねえよ。一人の友人として・・・前川が歩んできた過去を知っとく必要がある』


さらに彼の心を開くよう、現実的な事実も突き出す。


『正直いうと、お前が暴走族に入るような人間じゃないって思ってる。だって、狂騒群から病弱だから、役に立たねえって言われたんだろう』


一番肝心なところを突くことで、彼の心を開こうとした。だが、彼が暴走族へと歩んだ道はあまりにもその場の空気を変えてしまう辛い事情があった。


『俺は・・・今とは真逆の生活を送っていました。具体的には、勉強漬けの毎日で、県でトップの高校に通う生活を送っていました。でも、自分の人生に疑問を持ってしまった日から、成績は下がるようになりました。そんな俺を両親は面倒見てくれていましたが、妹の将来に金を使うことが先決だと思い、見放されました・・・』

「それで、君は家出をしたと・・・』


話を次第に進めていくと鼻をすすり、こぼれた涙を拭い始める。


『びっくりしました。こんな俺でも家出すれば、両親は探しに来てくれると信じていたのに・・・俺の捜索願いが出されることはなかった』


彼の中に溢れる感情は限界を迎え、嗚咽をしてしまうほど自分を追い込んでしまっていた。そのことを聞いた俺の心の中は、反省の波で覆いかぶさろうとしていた。今できることは、彼の背中をさすることだけ。それ以外、慰める方法を知らなかった。


『俺は・・・僕は、なんのために勉強しているのかわからなくなったんです。独断と好きなことがあるわけでもなければ、興味があるものもなかったんです』


嗚咽で呼吸が荒くなっているのか、いや違う。結城はポケットにしまっていた吸入薬を取り出し、荒れた呼吸を整えていく。前から聞いていたが、喘息はまだ酷いみたいだな。


その話を始めて聞いた俺の意識は、前川が抱える悩みについて理解を示すことだと痛感した。そんな彼と俺は一つの約束をした。


「そうやって道に迷ってしまうことは誰にでもある。決して恥ずかしいことじゃない。だからと言って悪に染まるような道を選ぶな。その区別がお前自身を助けることになると信じて・・・俺と約束してくれ』

そう差し出した人差し指。それを見た結城はドン引きした表情を見せる。

『男同士の指切りげんまんは少しキモいっすね・・・』

『うるせーよ』


*  *  *



時系列は今へと戻る。


前川結城が助けられたと言っていたのは、このことだった。俺は自分の抱く感情と周りから思われてることの違いを埋めるべく、知り合いの元へと歩いて行った。今は暗がりの廊下に、座り込む二人の影が見える。


『お前は・・・確か楓?・・・江田美穂まで!?』

『蓮だっけ。久しぶり』


顔を上げた彼女らの顔には、赤い傷跡。そして弱り切った心。そんなのが目に見えた。俺は彼女らにも寄り添うように、壁に背中を預けた姿勢で隣へと座り込む。


『こんな目に遭わせてごめん・・・』

『なんで篠崎が謝るの?』

『いや、俺が能力者のせいで、みんなが巻き込まれた』


深く溜息を溢す江田美穂。


『そういうのが一番嫌い。能力者だとか、人間とか・・・本当はみんな分かり合えるのに。言葉で通じ合えるのに・・・』


彼女は、唇を噛み締める仕草で悔しい気持ちを見せる。


『俺の(安藤由美香に関する)助言が効いたみたいだな』

『それに関しては本当に感謝してるし、安藤由美香さんには償いたくても、もう償えない。これ以上、誰かが後悔するような生き方だけはさせたくない』

『・・・・そうだな』

『篠崎』


名をよんで、次の言葉を溜め込む江田美穂。思わず、視線まで彼女の横顔へと移る。


『あなたにはいろんな後悔があるようだけど、これだけは後悔しないでほしい。私にかけてくれた言葉を。私に過ちだと気づかせてくれたことを』


まさか、彼女からそんな言葉が出るとは思わなかった。思わず、瞳が微かに潤む。彼女に続き、楓も・・・


『美波ちゃんのこともそう思ってほしい。結果的には救えなかったけど、蓮君が彼女や晴人にしてきたことは、きっと一生モノの宝だよ』


フラッシュバックしていく屋上の光景。3人で集まったあの青春。あの笑顔たち。それを思い出すだけで涙が溢れてしまう。そして美波にはこう言われてる気がした。


"あなたにはみんなを救う力を持ってる”


自分が勝手に思ってしまった幻想かもしれない。でも、今はいい。今はできることを。レイジも晴人も救う。


*  *  *


手足は拘束するための青い原石。空間移動するための目は、アイマスクで情報遮断する。そんな空間移動能力者をある一室へと引き込んだ。


『手こずらせてくれたな』

『また俺たちの仲間が、ここを襲撃するぜ。お前を確保するためにな』

『教えろ。瓜生新生の目的はなんだ?』

『さあな』


シラを切るその態度。なら、小刀を握りしめた俺は、能力者の太ももへと深く刺しこむ。食い込んだ刃に、男の悲鳴が湧き上がる。


『もう、てめえと話してる時間もないんだよ。早く言え!』

『っく・・・なら口を割るつもりはない。お前たちが与えてきた憎悪をこの地に返しにきた!!!そう簡単に、瓜生が化身の行進を引き起こすなんて言えねえよ』


『あ』『え?』

二人同時に思った。あっさり情報を漏らしていたことを。こいつ、もしかして・・・


『それはどこで?』

『あ・・・・もう・・・これ以上は言えねえんだよ!!言ったら殺される!!!』

『あ!!!もしかして、あそこか?四分夜しぶやか?』


彼が簡単に情報を漏らすことに賭けた俺は、言葉巧みに誘導していく。さらに食い込んだ刃をねじ込ませることで、口割ることの可能性を引き出した。


『じゃあ、心宿しんじゅくか?いや、空羽原あきはばらか?』

『あの大きな京東きょうとう城だよ!!!!』

『あ』『あ』


こいつ(空間移動能力者)、お馬鹿さんだな。


『なあ、お前。学校に通ってた頃の最高点数は?』

『え・・・・言うかよ!!!』

『赤点か・・・』

『な、なんで!?』

『言わねえってお前の口は言ってるのに、あっさり情報を漏らしちゃうとこ見て、多分記憶力ねえんだなと思って』

『ならお前は、最高点数はなんぼなんだよ!?』

『俺か?98点だ』


その言葉を最後に、刀を握る柄を瞬時に能力者の顔面へと打ち込む。鋭く素早い攻撃は矢の如く入り、能力者は気を失う。



*  *  *


『みんな!!集まってくれ!!!』

俺の一声で、教会の中で視線を落としていた張リリの部下たちや朱莉たちが顔をあげる。張リリを殺したと思ってる部下の何人かは、銃口を向ける。


『うるせーよ!!!お前が指図すんな!!!』

『リリさんを殺した罪人が!!!』


飛び交う怒号が、教会内を響かせていく。俺は決意を込めた一言で、現場を沈める。


『なら分かった!!!そんなに俺のことを嫌いなら、ここから去ってやる!!!でもな!!!!能力を持つ俺を利用せずに、勝算があるのか?』


この言葉を機に、黙り込んでいく張リリの部下たち。


『俺はな、この戦いで絶対負けたくないんだよ!!!なんでか?大事な人をこれ以上失いたくないからだ!!!俺のためじゃない。お前たちの大事な人を・・・守れなかったって言う後悔を背負って欲しくないから言ってるんだ!!!』


あれ?なんで・・・泣いてる?瞳から潤んでしまう涙が、頬へと熱い線を描いていく。


『彼ら能力者はきっと、その後悔を復讐心で埋めてしまった。だから戦争へと変わり果てた。今度は・・・能力者も救おう!!!正義ってやつの力で!!!』


最後の最後に込めた言葉で静まり返った周りの人々たち。覚悟を感じ取ったのだろうか。視線は真っ直ぐ俺へと向けられていた。


『そうだな!!やってやろうぜ!!!』


奥の扉付近から現れたのは、深い負傷を負っていた如月紫苑さん。包帯だらけの身に、焼けてしまった顔半分。だがまっすぐな瞳は、俺の決意を受け入れてくれる力強い眼差しだった。


『私もやります!!!』


ずっと暗い闇に埋もれていた朱莉の表情も、真っ直ぐな眼差しで仕上がっていた。一声一声上がっていく声から立ち向かおうとする活気の声へと響き渡っていく。


『みんな、ありがとう・・・』




Season2完結まで残り2話。

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