21話 第二関門の攻略方法と蠢く本能
『蓮!!!』
『よそ見すんなや!!!』
尋常な距離まで吹き飛ばされる蓮の身を心配した俺(結城)は、まんまとタコの吸盤を顔面に食らってしまう。二足で支えていた胴体は崩れ、尻餅を大きく打ち付ける羽目に。
両手を突き出すと、人間の手を型取っていた形は、タコの手足へと成り代わる。トドメを受けると思っていた攻撃は、鋭い銃弾で打ち砕かれるタコの吸盤。そして、俺を起こそうとする力強い腕が、真上へと引っ張り上げる。
『早く立て!!!』
張リリの力強い男性口調で、俺は必死に身を起き上がらせる。目の前の相手をすべきなのはわかってる。しかし、蓮が半殺しにされてる箇所から、地ならしが俺の立ち位置まで揺らしていく。
『リリ!!!蓮が!!!』
『今は目の前の相手に集中しろ!!!』
援護射撃で対策はするも、この軍勢は俺たちで抑えきれない。だが、市民や大事な人を守るには、俺たちの犠牲が必要だ。そう考えることしかできないくらい暴走する能力者たちにねじ伏せられていた。身体は悲鳴を上げながら、相手の頬へ、腕へ、脚へ、殴りかかっていく。でも、気持ちが追いつかねえよ。
『結城!!!』
張リリに名を呼ばれると同時に、追いつかない気持ちから目覚めた俺の目の前。そこには、降りかかる波が足場を奪い、水の流れに呑み込まれていく。大量の水が鼻や口元を追い込むことで、呼吸器官が安定しなくなる身。
* * *
結城が!!!!クソ!!!
目の前の能力者を相手にする余裕がない俺(紫苑)。一刻も水の球体に呑み込まれた奴(結城)を救い出さないと!!!その焦りが、一撃で仕留める突き技、心臓を射止める刃と変わる。
刺された箇所は心臓。感触的には貫通し、これほどもない血が溢れ出している。だが、引き笑みと共に、刃を握る腕へと掴みかかる能力者。俺が必死に刃を抜こうとしても、その腕を意地でも離さない怪力を皮膚へ教え込む。
『お前も道連れだ』
刺した箇所から広がっていく高熱と体内から光り輝くマグマのオレンジライト。こいつ、自分もろとも自爆する気か!?体内からマグマの色合いが濃く映ると同時に、俺の腕も刃も引き離さない怪力に抑え込まれる。
『紫苑さん!!!』
俺の抵抗に気づいた桐島は、俺の腕に掴みかかる能力者の手首を斬り落とす。能力者の自爆までもう0.5秒も取り残されていない。怪物狩りで鍛え上げられた桐島の瞬間移動で距離を取るも、自爆の衝撃波と威力に巻き込まれる。
一瞬で真っ白な世界に包み込まれたと同時に、皮膚へ染み渡る高熱、鋭い耳なりが鼓膜を通り脳へと食らわせていく。
霞む視界。半殺し並みに意識が薄れるし、身体も動かない。その状況を狙っていたのか?うつ伏せに押さえ込まれた俺に、能力者は追い討ちでエネルギーを向けてくる。クソ!!もう終わりか・・・と思えば強く死を覚悟した。だが、球体のエネルギーは俺の上へと描いていく誰かの攻撃によって、俺の延命が許された。
* * *
『なんだ?』
誰しもがそう思った。大量の水に呑み込まれたはずの俺(結城)は、宙を舞う一人の男により解放された。鋭い拳と無駄のない動き。そして連続的に繰り出される攻撃は、あっという間に攻撃を仕掛ける能力者の数を減らしていた。
さらに、俺のそばを掠めていく4人の影が過ぎ去る。
『結城、離れてて!!!』
聞き覚えのある声。もしかして・・・
『朱莉!!!』
名を呼んだときには、能力者の大群へと突っ込んでいく。4人の援軍。
* * *
『リリさん!!!もう撤退しましょ!!!これ以上は無理です!!!』
『っく!!!・・・怯むな!!!』
部下の弱音にケジメをつけるも、心の弱さに付け込まれた部下は、全身を炎に覆い尽くされる。
『クソ!!!』
形構わずいられなくなった私は、銃弾を目の前の男へと撃ち放つ。だが、物を操る能力者と不運にも遭遇してしまったようだ。放った銃弾は本来の目的を果たさず、男の突き出す手の平のの前で静止するだけ。
そのまま、宙で静止したいくつもの銃弾は、男の払う動作と共に、援護していた部下たちの額を貫く。おかげで、ビルからの援護射撃は壊滅していた。私は・・・また身近な人たちを失った。こうやって一手振るだけで、命を奪うお前らのやり方が・・・ずっと気に食わなかったんだよ!!!!
いつの間にか、感情任せになっていた私は、銃弾を失った銃を投げ捨てると同時に、拳を顔面へと打ち込んだ。だが物だけでなく、人の攻撃まで止めることができる能力者に隙を取られる。あともう少しで届く拳も完全に動かなくなった。全身そうだ。動け!!!動けよ!!!リリ!!!でも能力には勝てないと思った私の前には、鋭い拳と蹴りであっという間にねじ伏せる一人の男。上半身裸で、服は焼け焦げた跡が部分的に確認できる。
相手の物・体を操る能力者は、私に呪いをかけたと同様の手の平を男へと向ける。だがその男には通用しない。彼は容赦無く、右手に握っていた刀で仕留めた。一撃の攻撃で。
私の見る限り、目に届く距離にいる能力者は全員、あの男・蓮によって殺された。
だが、更なる軍勢が何メートル先から溢れる波と声で知らせる。その勢いにも負けない貫禄と鋭い視線から蓮の覚悟が目に見えた。
その強い気持ちはやがて、彼の両手に描かれるエネルギー・白く発光する球体を描き出す。空気中から作り出したその球体は、標的を定めるように目に見える気を溜め込んでいく。一方、通りを埋めるほどの(能力者の)軍勢が、私たちを呑み込もうとする。ほぼ壊滅した仲間達を見れば分かること。次の攻撃を喰らえば全滅だ。私は、あの男と能力者たちの決戦を見届けることしかできない。
距離まであと30メートルまで迫り切った能力者たち。その時、能力者を包み込むように球体は花開く。花開く球体は、大群を殻の中へと閉じ込める白いエネルギー源に成り代わる。
は・・・・こいつが・・・・
彼は前面に開き切った手の平を一瞬にして拳で力を込める。そのエネルギーは震えると、宙に浮く球体は収縮し始める。次第に押さえ込む俺の両手の震えと同時並行にだ。やっとのことで、収縮したエネルギーは大きな爆発音と眩い光で周囲に衝撃波を発動させる。それは私の皮膚までも刺激した・・・
この光景・・・6年前にも見たことがある。私の家族も・・・あの球体で殺されたんだ・・・あいつが・・・私の家族を殺したんだ。
* * *
部下たち・紫苑の手当てをするべく、廃墟と化した高級ホテルへと移動した。もちろんこの戦場に安全な場所なんてない。だから青い原石・パワーストーンを利用して、小さな結界を張るしかなかった。
俺が・・・もっと早く能力を使えていたら・・・紫苑さんや桐島がこんなことになることはなかったし、リリの部下たちも犠牲になることはなかった。
紫苑さんと桐島は、爆風に巻き込またことで火傷がひどく刻まれていた。桐島は背中を、紫苑さんは顔半分に火傷を負ってしまった。また身を打ちつけた衝撃で打撲と一部の骨が砕けてしまったようだ。
しばらくは戦うことが無理な状態だろう。
『蓮・・・』
また身近な人を失いかけることに、恐れおののく感情は、一人の女性で呼び起こされる。朱莉だ。ここにたどり着くまでに、何人もの能力者と戦ってきたのだろう。頬に縋りつく炭が身に染み付いていた。
『朱莉か・・・ここまでして、俺たちのところへ来なくてもよかった』
『あなたには、私が必要でしょ』
『ハハハ・・・・何言ってるかわかんない』
『なんでわかんないのよ!!』
腹をドスッと軽く打ち込まれ、軽く声が漏れてしまう。
『冗談だって・・・暴力女はモテないぞ』
『なら、あなたもそうでしょ!!!』
『ぐう・・・・・・ごめんなさい』
『リアルな"ぐう"は初めて聞いたかも・・・・というか、ぐうの音出てるじゃん!!』
なんだろう。彼女・朱莉を見るとどこか安心する。笑顔のおかげだろうか。あの出会った頃に戻ったような・・・そんなに月日が経ったようにも思わないが、あの懐かしさが蘇ってくる。
* * *
小さな結界の中にいるホテルにて、身を潜める仲間たち。私は、ホテルにある一室の洗面所にて、自分の感情をコントロールしていた。やや発作に近い胸の騒ぎが襲いかかってくる。さらに、あの時の記憶がフラッシュバックする度に、込み上げてくる怒りが身体の外へと溢れ出す。
感情任せに向けた拳に、屈服した鏡が全面にひび割れていた。
あの時の出来事が全ての始まりだった。6年前の反撃が。
私は16歳の女子高校生だった。あの時も能力者たちの暴走で、ひどく街が荒れていた。燃え盛る街、ビルが決壊して並ぶ街、淀んだ空気が流れる街。そんな光景ばかりだった。私は学校にいたけど、両親が心配だった。父は入院中だし、母は仕事しながらも、夜頃には(父の)見舞いに来る生活。私はそんな両親にたどり着こうと、戦場を駆け抜けた。駆け抜けていく道中、車両や道の原型が失われるだけで、目的地までが遠く感じた。それでも、諦めなかった。
そして、病院に駆けつけた先には、両親がある能力者に命乞いする姿だった。地べたに這いつくばる両親。母は悲痛な声で泣き、父は愛する人を守るために説得を心がけた。
でも、能力者は私の家族を殺した。あの白く発光した球体のエネルギーによって。
* * *
『確かに、君の家族を殺した相手が、蓮だって可能性はあるしね』
私の込み上げてくる残酷な記憶を全て見通していたかのように、その男は鏡越しに現れた。背後から男が近づいていたことに気づけず、油断した隙を挽回する拳をぶつける。
『おい!!俺は敵じゃない。元々、このホテルに身を隠してた人間だよ』
拳を素手で受け止める瞬発さと余裕の笑みで返してくる爽やかな男性。若さ的には10代。そんな彼は、心を見透かす言葉と衝撃の事実を次々と突きつける。
『あの蓮っていう男、”死、肉体の全能者”だからね。死や肉体も操れるってことは、不老不死にもなれるってこと』
『全能者?』
『能力全般に使える全能に近い存在のことだよ、ただ強い分野がそれぞれあるからね、それで"死、肉体の全能者”』
『君はなんでそのことを・・・』
私の視界というより意識は一瞬、何かに吸い取られたように感じる。だが、(蓮の事を知る)彼の話に無我夢中になっていた。
『奴を見つけるためにここまで探しに来た。』
『もしかして・・・』
『そう。君と同じく"死、肉体の全能者"に復讐心がある』
その後も、彼との会話が続いた。
私も彼もあの全能者に恨みを持っている。そして、彼は蓮を殺す復讐に付き合ってくれるとも、言ってくれた。私は、初めて会った人の話を"これほど信じていいものなのか"と思うほど、取引にのめり込んでいた。いや、きっと彼も同じように、能力者に大切な人を奪われたんだと思うと・・・仲間たちが"あの全能者と言われる蓮"、そして"父であろうレイジの死"を望んでると思うと・・・彼が提案した作戦を実行しなければと思った。
『あなたの名前は?』
『西山晴人』
最初に申し上げたいことがあります。投稿頻度がかなり落ちてしまい、申し訳ございません。そして、ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!読者の方には感謝の気持ちで一杯です!!!ここまで読んでくださった読者の皆様に”読んでよかった!!”と思えるような作品に仕上げていきます。よろしくお願いします!!
Season2は次回から後半戦に入ります。
加速していく彼らの戦い、隠された真実、そして全ては未来のための選択。それらの要素が詰まった後半戦となります。ぜひ、今後もご期待ください!!