17話 第一関門
一方・・・・
俺は、四分夜の大きな交差点で待ち侘びていた。アイツらが少しでも俺を狙ってくる大群の波を。おっと・・・噂をすればだ。視線の先に、ゾンビ並みの大群で迫り来る能力者たちが。
『じゃあ、やるか!!』
一人の能力者が前のめり体勢で、エネルギーを込めた拳を顔面に向けてぶつける。だが、そんな攻撃、目の見えない速さで切り裂くだけだ。気づけば、手のひらと胴体には斬り傷でねじ伏せられている。
(地面にねじ伏せられた)屈服した能力者の20メートル先には、鬼瓦な表情で迫り来る能力者達の姿。なら手っ取り早く懲らしめるまで。
俺の両手に描かれるエネルギーは、白い球体を描き出す。空気中から作り出したその球体は、能力者を包み込むように花開く。大群を咲き開く殻の中へと閉じ込める白く眩いエネルギーの源。俺は開き切った手の平を一瞬にして拳を型どる。やがて、震えるように宙に浮く球体は収縮し始める。それは押さえ込む両手の震えと同時並行に空気中を暴れていく。やっとのことで、収縮したエネルギーは大きな爆発音と輝く光で周囲に衝撃波を発動させる。
だが、360度、飛びかかる人影と攻撃の数々が俺に襲いかかる。どっかからか現れた能力者達だ。
『は!!!消えた!!!』
狙ったはずの相手(俺)は、どこにもいない。俺のいた地点にはそのまま攻撃の波がアスファルトの道路を砕き、粉々に粉砕するも、標的を見失ったことに、慌てふためく能力者達。
『おい、よそ見すんなよ』
振り向いた先には動体視力でも追いつけない速さ。目に見えてもそこには残像しか映らない。結果、360度90体の能力者達は俺の速さと攻撃で、地面に伏せさせるほどの激痛と急所を貫き、テイクダウンしていく。
『おい、もう終わりか』
刑事らを周囲のビルで待機させていたが、出番を作ってやることはできなかったな。そんなことを考えている間に、背後から怨念並みの負の感情が全身に襲いかかってくる。躱すことは簡単だが、その過程で強烈な黄色の光とギザギザを描く線が俺に直撃を喰らわす。まあ、それもかわしたが。少し危なかったな。
距離を取るべく後退りした2、3歩。そこには、エラの張ったマッチョ系イケメンとロック好きそうなツンデレ女が並んで現れた。男の方は、青いスーツに赤いマントを纏うやつと似た怪力、飛行、瞬間移動を持つようだ。そして女の方は、雷や電気を操る系の能力者か。それに自身も雷と化けることができるのか。オモロ!
そいつらは息を合わせる連携で、迫り来る寸前、銃弾が男の背中を直撃する。あ・・・
だが銃弾を跳ね返す耐久力。傷もなければ出血なんてない。その男は狙撃された場所を把握すべく、後ろへと背を向ける。
『背後から狙うなんて、やっぱり人間は汚いね!!』
そう吐き捨てると同時に、襲いかかる雷の女。そして男は待機を命じていた篠崎仁明の元へこれほどない爆速の飛行を見せるも、マッハに近い速さでも追いつける俺は、指先をスーパー男へと突きつける。
指先から放たれた鋭い熱光線は、スーパー男をビルの側面と吹き飛ばし、ガラス一面の高層ビルは激しく散らばる破片と同化し、砕かれていく。それでも雷の攻撃をよそ見する余裕がある。
『クソ!!!消えた!!!』
マッハの速さで消えることもできるのも、俺の利点だ。まあ、マッハで加速すれば、一直線に湧き出る衝撃波に呑み込まれないよう、雷の女も上空へと高度を高める。だが、それも作戦の一つ。宙に上がってきた雷女の前に現れた俺。
『お前!!!』
『よそ見多すぎだな』
手のひらで描いた球体を雷の女へと弾き出す。真っ白な輝きと共に。
* * *
思った以上に戦場であるこの現場に息を呑み込む。辺りは崩壊した高層ビルたち。公共交通機関なんてもはや機能していない。一部は火の海に、一部は決壊したビルが倒壊する光景なんて目の当たりにする。
俺(蓮)はその悲惨さに目が外せなかった。いろんな方向に曲がりくねった車たちを避けながら、突き進んでいく現場。
だがレイジへと向かう行動に対して俺の脳裏では疑問が浮かび上がる。その疑問を投げ掛けずにはいられなかった。
『なあ、紫苑。俺たちを指揮するレイジは能力者なんだろ?』
『ああ』
『え!!!マジか!!!』『はあ!!??どゆこと!!!』
このことを話していなかった前川結城と(紫苑と同じ)元怪物狩りの組織・桐島慎也が驚きの反応を見せるのは言うまでもない。
『あの人が裏切るって可能性もあるんじゃ?というか・・・この戦争が急に始まったり、美波が突然能力者になったのもレイジに嵌められたからじゃないのか?』
話しながら駆けていく上で呼吸が乱れていくが、疑問は声として届いている。だが、黙々と駆けていくだけで、振り返ろうともしない紫苑。
『あいつが能力者であろうと、味方は味方だ』
『なんで、そう言い切れるんだよ!?』
『そう言い切れる理由があるからだ!!!だから、蓮!!!みんなも!!!アイツを信じてやってくれ』
紫苑の命で付いてきた前川、桐島、俺(蓮)全員に懇願する強い口調が溢れ出す。もちろん、それ以上先に隠されたその理由を知りたかった。
だが、目の前を立ちはだかる能力者の攻撃が目の前を赤く染めていく。ビルの所々から確認できた炎の海は、こいつの仕業か!!熱が動力源となるブースト力で宙を浮いてるその男。全身の体はこれ以上の赤みと高熱で燃え盛る姿に纏うも、余裕の表情。
俺たちの進路を阻む炎に呑み込まれ、今は目の前の地下へとつながる階段へと移行する。
『蓮!!!!こいつは俺に任せてくれ!!!』
学校の倉庫から手に入れた武装で立ちはだかる結城。俺がかつて付けていたアームカバーを手に、足元にはある程度の加速度を引き起こす靴下を履かせてある。彼は今でもその力を試したいのか、敵と向き合った状態で睨み合いっこを繰り広げる。
『行くぞ!!!』
紫苑も俺も、結城の覚悟を受け入れた上で、地下へとつながる階段へと降りていく。結城と炎の能力者を背に向けて。
* * *
地下の先は錆びた手すり、空気の詰まる淀んだ空間、黒く汚れた白い壁。俺はその暗がりに負に呑み込まれそうになる。どうやら地下鉄のあらゆる路線へつながる空間を走り回っているらしい。俺、慎也、紫苑が横に並んで走っても広い横幅のある通路とひたすら駆け巡っていく。
『北口ってことは、地上の出口が他にもあるはずだ』
紫苑は淡々と靴底の音を響かせながら、頭上に見えるであろう標識へと目を凝らす。俺も慎也も結城の努力を無碍にしないよう、出入り口へのルートを模索した。
『みんな!!あそこだ!!!』
そう慎也が指さしと共に見つけ出したのは、南口。もちろん出口を見つけ出した以上、俺たちの走り先は地上への出口・・のはずだった。だが南口は、大きなトラックが階段にまで侵入しているせいで、通れるとは思えなかった。他の出口も探したが地上へ出る権利は失われたようだ。その状況に俺は違和感を覚えざるを得なかった。
『なあ・・・これって罠じゃねえか?』
紫苑は長々と走り回されたことに対するイライラが眉間のシワと比例しながら刻まれる。だが、ここは冷静になるべきだと状況の違和感を口にした。
『どの出口も塞がってるのに、地下へ通る時の入り口は開放感満載だった。そして俺たちを誘導するように炎の能力者が道を阻んできた』
『出口を塞いで、袋のネズミにしたいのなら・・・もう(俺たちを殺す)目的は達成されてもおかしくないだろ?』
桐島のいう通りだ。俺たちを殺すためなら、すでに襲いかかってもおかしくない。なんであちこち出口を探し回す余裕を作らせたんだ?
『今、俺たちができることがもう一つだけある』
紫苑の指差す先は人けのない改札と掲示板。そう。彼の言いたいことは、電車の線路を辿って別の駅から地上へと登る方法。これなら、罠だったとしても地上へと登れる。
『俺たちで様子を見てきますよ』
桐島の中で、作戦実行するメンバーは決まっているようだ。だが、俺たちが行くの安易と受け入れるようなやつじゃない。
『いや、お前たちじゃ弱すぎて、二人とも死にそうだ』
『じゃあ、助けに来る人は強くないと』
その強い奴が紫苑だと言うことを言いたげな瞳で、桐島は紫苑の反対を押し切った。いや、それで抑えられるのかよ!!!・・・・って思った。
* * *
『必ず、帰ってこいよ』
その言葉を託された俺たちは、静けさに塗れた地下鉄駅へと降りていった。見たところ誰もいないが、逃げた時の残骸だろうか。散乱した物が床に散らばり、元の位置から吹き飛んだベンチや自動販売機が目に見える。電車の車両は、ドアが開放のままで、電気はまだ付いている。おそらく被害を受けた際に駅員までもこの地下鉄駅から逃げ出したのだろう。そう悟った。
俺はその電車をうまく使えば、次の駅まで一っ飛び。そう車両の中へと足を踏み入れる。桐島も俺と同様に車両へと踏み入れる、その時だった。急に自動ドアは閉まり、ものすごい加速度で発進していく電車車両。
『おお!!!マジかよ』
『やっぱ罠だったみたいだな』
俺たちの第一リアクションはこれら。次は運転しているであろう犯人を突き止めるべく、次々と車両を移動していくも、結果は誰もいなかった。でも勝手に動いている。ならもう、罠にかかってやろうじゃねえか。そう相手を揶揄うべく口角が軽く上がる。
* * *
無事、どこか分からない駅へと到着。自動ドアが勝手に開閉するあたり・・・
『ここで降りろってことだな?』
俺は、桐島と共に、この駅へと降りた。駅?いや違うなあ。駅と駅の間で途中停車したその先には、なんとも言えない空間があった。四角形の空間。壁も床もコンクリートと固めたセメントのようだ。その先は行き止まりにも見えるが、ここへ招待されたと言うことは・・・行き止まりと思った壁に軽く触れると、隠し扉の如く、スライド式に開かれていく。
『武器の用意を』
『言われなくても、お前さんよりは経験がある』
俺は気遣いで声をかけたはずが、すでに怪物狩りで使用していた刀を手にする桐島。
『能力者専用の武器をつけないのか?』
『もちろん持ってる』
『そうか・・・』
* * *
『な、、、、なんだ?ここ・・・』
向かった先は、天井が高く最も広い空間へと顔を出す。高いといっても、どこまでが天井なのか分からないくらいの暗がりで見えない。
『能力者のやつ、この空間を作り上げたのか・・・』
『どうしてここに?』
『俺たちを試してるんだろう。どこまで生き残れるのかを・・・』
『え・・・』
桐島、お前戦いの経験があるんだろ?俺より震えた声、曲がってしまった腰が垣間見える。そして何かが閉まる音で、俺たちは逃げ場のないデスゲームへと参加することになった。
* * *
同じ空間にて。望遠鏡なしの肉眼で、獲物を捉える一人の能力者。
『あいつが、伊織を殺したやつか』
『そのように聞いています』
部下はその後ろで彼の命令を今か今かと待ち侘びている。
『まあ、強いやつならここで死なないだろ。いつも通り、アイツを出せ』
『了解です』
部下はそのまま、彼の元へと離れていく。
* * *
しばらく辺りを模索していく俺と桐島。さっきから俺が先行していくばかりで、桐島は後ろでソワソワしている。
さっき模索していく過程で、何人かの遺体を発見した。どうやら、デスゲームで死者が出ているのは確実だ。
『お前(蓮)・・・・すごいな。本当に高校生?』
『それがどうした?』
『だって、遺体に動揺しないし、平気で先先と進めるし・・・』
『お前は怪物狩りの組織だ。そっちの方がすごいだろ』
『でも、相手は精神に関連した怪物で、遺体という遺体は目にしない』
状況が違えば、小鹿になるのか、この男・桐島。頼りたいはずの相手の有様に息を溢すしかない。
『はあー。紫苑さんと来るべきだった』
『な!!!なんだと!!!???』
『そう思われたくないなら、ビビるな!!!次ビビったらチキンって呼んでやる!!いや、今からチキンだ!!』
さすがに臆病扱いされたことに、プライドが傷ついた桐島は、俺と横に並ぶまで歩幅を広げていく。そしてさっきのことはなかったような口調に成り代わる。
『状況が違うから、どうすればいいか分からないだけだ。さっきのことは忘れてくれ』
『それを”ビビリ”って言うんだよ』
『だからなあ!!!』
再びプライドを傷つけられたことに俺と面を向き合う桐島。彼と真正面になる体と顔の向きは、横目に映る何かで二人共に動きを止めた。俺たちの背後から迫ってきていたのか!?全く気配は感じなかった!?
桐島もその相手には気づいている。だが、俺たちはしばらく体が動かせない。この殺気と只者ではないこの雰囲気。横目に映る敵の顔には縦と横に黒染めの縞縞模様が刻まれている。顔つきと肌の質感から要するに、30代か40代の男性だ。
そんな観察をしている間に、桐島が刀を相手へと振り落とす。だがガード体勢に入る二の腕を前に突き出しただけで、砕け散る刃。そして空いた手で腹部へと打ち込む拳が襲いかかる。
『桐島!!!』
彼は青い原石を握りしめた拳で受け止めるも、暗がりで見えない壁まで突き上げられた。
こいつ!!!!俺はすでに身に付けていたアームカバーで相手の顔面へと解き放つ。だが、その攻撃は当たることもなければ、躱すこともしない。ただそこで佇むだけ。同時に重たく生々しい音が地面へと落ちる。
『いっっあああああああ!!!』
身体中に走る強烈な激痛。もう死ぬ。そう思った。何せ、俺の右腕は斬り落とされているのだから、手から肩までごっそりと・・・




