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14話 人類の力

私(朱莉)は、必死に足掻いた。爆撃や激しい怒号が警視庁内に鳴り響くと並行に。でも取調室に閉じ込められたこの中でしか私の声は聞こえない。それに(成瀬美波の件で)頭を打ちつけた衝撃で脳震盪が余韻を募らせる。とりあえずガーゼで額を覆ってるも、今は邪魔くさく、馬鹿力で外す。


『開けて!!!開けて!!!』


何度も呼ぶ声。能力者専用の武器がなければ、この程度。無力だ。その時に、扉の鍵が忙しく開く。そこには、刑事の男が一人。


『君!!!早くここから出るんだ!!!』


拘束された手錠を手慣れた速さで解除していく。


『あなたは?』

『まあ、どこにでもいる刑事だよ』


解除した後は、しゃがみ込む私の体勢を腕一つで引っ張り上げる。外へと連れ出される勢いに私の足元は止まった。


『蓮を!!!篠崎蓮は!!!どこですか!?』

『彼は大丈夫だ』

『蓮のところに行かせてください!!!あの相棒は、私がいないと!!!』

『お前・・・』


目の前の男も驚いたに違いない。私は、熱い涙をゆっくり頬へと刻んでいるのだから。こんな時に限って、私は泣いてしまってるんだ。安藤由美香も成瀬美波も救えなかった上、さらに上乗せされる犠牲だけはもう見たくない。あの人を簡単に死なせてはいけない。そんな言葉が私の心に溢れ始める。


何せ、あの人とは特別な関係があるのだから。


実は、二度も彼に救われた。

最初は、彼が不良になる前。例え、お偉いさんの息子であろうと立ちはだかった彼の姿に心打たれた。その勇気ある行動により、あの息子から私は暴力を受けることがなくなっていった。まあ、まだ眼鏡をかけた陰キャだったから、蓮は気づかなかったでしょうね。


美波に"なぜ、彼が不良になったのか?”と聞いた理由は、"彼のためにできることが見つかる"と思ってたから。そして2度目は、安藤由美香をいじめた江田美穂の改心を促したこと。言ってなかったけど、あの後、江田美穂は自分にできる償いを正当なやり方で行いで証明したのだとか。


そう。私は蓮の真っ直ぐで勇敢な心に何度も救われたのだ。決して友情や恋愛とは違う不思議な感情を持たせる相手。古臭い言い方にはなるけど、私にとって蓮はヒーローなんだ。だから今度は私が!!蓮のヒーローにならないと!!


*  *  *


俺(蓮)は階段を駆け上がっていた。本当はエレベータを使いたいが、能力者により止められる可能性はある。だから原始的な手段を用い、警視庁の屋上へと辿り着く。


そこには一人の人影とヘリコプターが目に見えた。間違いない。アイツだ。


『もう逃がさなねえぞおおお!!!本宮あああああ!!!!』


だが、ヘリへと乗り込む本宮伊織の後ろ姿は止まらない。俺は全速力で向かった。(ヘリの)プロペラの回転力が増すたびに、鋭い風が頬や額を叩きつける。もはや近づけない身は、強く手に握る刀をヘリの動力源となる運転席へと飛ばす。一直線に放たれた刀は矢の如く、運転席へと見事に突き刺さる。


一瞬にして、炎が舞うと一緒に大きな爆風が皮膚を焼き付ける。だが伊織はそんなん爆発如きで死ぬような奴じゃない。予想通り、薄い膜で描かれたバリアで彼女の身には、一つも傷がない。


*  *  *


レイジは、あの男・晴人を相手にすることに。

蓮や亡き美波のために、手加減はするつもりだった。だが、異常に強すぎる。横腹に受けた蹴り一撃で警視庁の域を超えた別のビルまで吹き飛ばされる。気づけば、警視庁の壁を打ち砕き、どこかのビルの屋上へと追いやられる。

あいつは、全能者の一人・西山晴人。精神マインドを操ることがメインだが、能力は基本全般に使える。そして、あいつの周囲5メートルは、俺たちの心を利用することで、幻覚を見せている。これも人の心を操るマインドの力だ。


早速、迫り来る晴人の攻撃を瞬間移動で駆け抜けていくも、接近すればダミーで外れを狙い当ててしまう。


『お前じゃ、勝てないぞ。死と肉体の全能者』


エリアに呑み込まれたのか、四方八方から晴人の声が脳内に語りかけてくる。だが姿は見えない。完全に脳を乗っ取ろうとしている様子だ。なら、俺は手に込める力と同時に噴射する炎の塊。俺は素早い戦闘能力を活かし、辺り一帯を炎と化す。そして行き場を失った本体を見つけ出すのが狙いだ。そして片方の腕から氷の結晶を生み出す。


そしてやっと現れた本体が背後に現れると同時に、鋭い蹴りを顔面に与える。チャンスだ。

連続攻撃であらゆる箇所を埋め尽くす素早さで、蹴りと殴りを何度も何度も込める。そして最後の一発で、屋上から落ちるのを防ぐフェンスへと、背中を強く打ち付ける。


*  *  *


俺と本宮伊織の最終決戦。ここでケリをつける。

手に握る刀で、伊織に迫るも物を操る能力で、ヘリの破片たちが空中を彷徨う。視界を覆うほどの破片で距離を詰める機会は、防がれた。目の前を丈夫な壁としているのは、プロペラ・ローターの一部だ。

もしかして、物を操る能力を利用するために障害物を破壊させたのか!?

すると俺に襲いかかってくるローターが矢と同様の一直線で、胴体を狙う。あまりの速さに、手に握る刀で対処できない。同時に深く目を瞑ることで、死を覚悟した。だが何の痛みを感じない。


『蓮は・・・・蓮は・・絶対守る!!』


気づけば、力強く逞しい朱莉の背中が俺を守ってくれた。振り払った勢いはローターに弧を描かせ、屋上の端へと弾木飛ばしていく。攻撃の隙ができたと思えば、間合いを詰める素早さで伊織へと近づく朱莉。俺も援護に入るべく、彼女の横ぎわを攻める。だが浮いた残骸物で俺たちの攻撃を弾く。なら奥の手。

朱莉に教わったあの技で拳を前へと押し込む。


次の瞬間、伊織を包み込むように広がる波紋上の衝撃波が、後退させると同時にヘリの本体へと背中を打ち付ける。

まだだ。俺は朱莉よりも加速する瞬間移動で、仰向けとなった彼女へと駆け走る。これでチェックメイト。


『降伏しろ!!!』


刀の先端は、彼女の首元と触れる距離感で差し迫る。


『これ以上、悲劇を繰り返したくない。頼む。』

『感動的ね・・・悲劇を繰り返したくないという言葉は』


この言葉で、彼女は降伏したも同然だった。だがなぜか俺の腹部にはいつの間にか差し迫った氷柱状の残骸物が、胴体を貫通している。さらにその残骸物は90度へ傾ける手の動きと並行に、内臓の中を蠢いていく。


『・・・な、なんで・・・』


俺はそのまま意識が途絶えると同時に、死んで・・・いった。



*  *  *


警視庁入り口付近の大きな交通路にて。

状況的には俺たちを籠の鳥にするべく、入り口付近へと大群が差し迫っている。俺(如月 紫苑)は、後ろで震えを成す暴走族員へと声をかけた。


『おい、お前ら。このバックの中にある武器を手に取れ』


そう手に握る大きいバックを手渡す。


『な、なんなんだよ!!これは!?』

『お前らでも、能力者を打ち負かせる武器だよ』


その言葉と並行して、男の叫び声が真上から近づいてくる。あっさり俺は、姫様抱っこの位置と状態で暴走族員の男をキャッチする。


『前川副装長!?』


お仲間は、そんな名を口にする。


『はい、おかえり。大丈夫か?』

『あ・・・ああ・・・・マジで死ぬかと思ったぜ』


上空から地上へ落下した後遺症のように、足は若干震えるも、すぐ体勢を戻していく。そして目につけた大きなバック。


『ちょうどいい、副総長さん。バックの中にある武器を仲間に身に付けさせろ』

『お、おう!!』


一斉に声を上げる能力者たち。突撃の合図だ。


『早くしろ!!!』


暴走族員たちへ完全に指示した俺は、彼らの仲間をレーザーで焼き切った目の前の超人男へ手にかける。互いに接近していく距離感。鞘から鋭く輝く刀を手に取る。あの超人男とは因縁がある。アイツのレーザー攻撃で、大事な家族をあんな目に遭わせやがった。そう憎しみを刃へと宿す。


超人男より前進し始めた能力者は、お得意の瞬間移動で最も簡単なテイクダウンを披露する。斬り刻んだ身体から溢れかえる返り血。ついに超人男は、ギリ目で追える早さの瞬間移動で差し迫る。互いに入り込む互角の力で固定される両手。隙を見つけて、もう一つの刀を振りかぶる。瞬時に弧を描く後退ジャンプと同時に、息を吐くととてつもない高熱の炎が超人男の口から吐き出される。それに対し、俺は両手に握る二刀の刀をクロスさせる。罰状にクロスさせた点から放たれる衝撃波で、炎を打ち返す。


今度は近距離戦だ。

瞬間移動で、俺の周囲を行き来すると同時に迫る蹴り足。刃で狙いを定める横腹のガード成功。殴りも顔面へ引き寄せた刃の軸で完全防御。目の前に現れたスーパー男は瞳から冷気のあるレーザーを放つも、そり返した胴体で完全回避。

油断したな、クソ野郎・・・


攻撃することに重きを置いた相手は、また二刀の刀を重ねる衝撃波で身は後退していく。そして背後から拳を高らかに振り上げる前川副総長のシルエットが浮かんでくる。攻撃の連続性に対処できない男は、頬へとパワーストーンを動力源とした拳を受ける。前川、ナイス!!!そのまま瞬時に、握りしめた刃で相手の横腹へと斬り込む。


*  *  *


ヘリの瓦礫山から落ちていく蓮。私(朱莉)は、目の前の出来事が信じられない。蓮君は死なない。私が死なせない・・・はずだった。でも蓮は瓦礫の山から落ちた後、体をびくともさせない。見開いた目で目撃した私は、光が消えるように輝きを失っていく彼の瞳をまじまじと見届けた。


戦争はダメだ。復讐はダメだ。

それは負の連鎖を生み出す。だからって、やられた側が我慢しないといけないのは理不尽よ。


放心状態である私の前には、全ての残骸物や障害物が(視界を埋め尽くすように)舞い上がる。ゆっくり移すと、宙に浮いている鉄の塊へと足を乗せ、高みの見物を楽しむ伊織の姿。ああ、嘆かわしい。


終わらすためなら、殺すまで。

そう闇の心に覆われた私は、手こずっていた攻撃を全て弾く。もはや操るだけでは対抗できないと思ったのか、手元から生み出した鋭い武器の数々は乱射し、放ってくる伊織の攻撃。だけど、風のようにすり抜ける私には全く通用しなかった。そして宙に浮かす残骸物は階段の段と成り代わり、あっという間に私と伊織の距離を近づけさせた。


狼狽える彼女。防ぐも、斬り裂いた残骸物なんで鉄屑も同然よ。そう手に握る刀で一直線に突き出した。わずかながら届かなかった攻撃。なら、回転力を込めた身体を活かし、頭の位置まで高らかにあげた脚を彼女の頬にぶつける。


顔が崩壊すると同時に、浮いた残骸物の地面から落下していく彼女。

なら最後のトドメだ。そう振りかぶると同時に、伊織の背後から黒い人影が襲いかかる。

手に握る蓮の刀。そこにこめた全力ぜんちからを肩から皮膚、皮膚を破り肩甲骨まで食い込む刃は、心臓部まで轟かせる。受けた攻撃の反動で、伊織の身は屋上と地上への落下を許す境界線へと追いやられる。


私は黒い人影の正体を探るべく、宙に浮いた身から屋上の地面へと足をつける。


『やはり、お前は能力者だったか・・・』


苦し紛れに放つ伊織。その先には、さっき殺されたはずの蓮が険しい表情と共に佇んでいた。同時に貫通していたはずの心臓部には、跡形もなく消えていた。どこにも傷跡が見当たらない。


『俺も薄々とは気づいていた。だが、6年前の反乱が全くと言っていいほど記憶がない』

『ならヒントをやろう。さっき刺した時に受けたお前の血が私に警告を示してきた。おそらくお前は、全能者だ・・・やっと見つけた』

『見つけた?』


彼女は、満足を得るように微笑むと、消え去るように屋上から身を外へと投げ出す。

身を投げ出すと思わなかった私たちは、地へと近づくにつれ、小さくなっていく人影を見届けるしかできなかった。


『蓮・・・』


彼の顔は険しく、でも涼しい風を浴びる清々しさが顔に映る。すると、優しく彼は微笑んだ。”心配かけたな”と。


『本当に無事だったんだ・・・よかった』

『このまま死んだら、お前にひどく怒られるからな』

『そうだよ!!絶対許さないから』


そう言い終えると、彼が絶対しない行動ランキング1位が目の前で披露された。束の間、私は彼の強く温かい胸の中で抱きしめられていた。


『よく頑張った・・・ありがとう』


そう優しい言葉に私は、一瞬にして瞳の中を涙で埋め尽くした。

さらに、最高のタイミングで花火が小さく目に映る。遠くとも強く鼓動を揺さぶる音は確かに受け取っていた。


『もう夏だな・・・忙しすぎて気づかなかった』

『ね・・・・・・って・・・浸ってる場合じゃないよ!!!みんなのとこへ行かないと!!!』

『やば!!!もう終わった気分になってた!!!』


慌てて、屋上から離れていった。


*  *  *


降りていくと、現場の能力者はほとんど対処し終えていた。もしくは撤退していった。

そして、身がボロボロでも、最後の最後まで戦い抜いた仲間たちがいた。前川結城、結城が仕切る狂騒軍、如月紫苑、レイジ、俺の親父・篠崎仁明。みんなの無事を確認できた。


『晴人は?』

レイジに確認を取るところによると、そのまま逃げたそうだ。俺は美波を救えなかった分、彼の心を救う責務がある。そう脚を急ぐも、"それどころではない"と父に足止めされる。


『お前たち、能力者対策本部が敵であっても証拠がなければ指名手配される。証拠は探すからお前たちは早くここから立ち去れ!!!』

『いや、上白石が何かしらの情報を掴んでるんじゃ・・・』

そこにレイジの補足が入る。

『残念だが、感づかれた彼は交通事故で死亡した。一応、奴の別荘に向かうが、すでに無くなってるかも』

『そんな・・・』


篠崎仁明に続き、力強いレイジの指示は、みんなをその場から退散させた。一方、レイジは上白石の残した証拠を頼りに、西園大臣の別荘へ。如月紫苑は、逃げた能力者追跡のために街に残る。俺と朱莉、そして前川は、レイジたちが事前に用意してくれた廃校の避難場所へとバイクを走らせることとなった。


*  *  *


国会にて。

『本宮伊織が、能力者対策本部がやられたそうです』

『・・・・・・』

『どうします?』

『また、能力者が敗北するような結末は避けたい』

『ええ』

大きな一呼吸と共に、次の一言を放つ。

『もう始めよう』

『え・・・・早すぎませんか?』

『麻薬組織たちを口止めする脅威はもうない。なら、油断している今を狙うべきだ。もう手配は済ませてるだろ?』

『一応』

『全能者が一人でも死んだ場合は、戦争開始の合図だ。さあ、能力者たちよ!!!!人類に正義の鉄槌を!!!修正戦争の幕開けを!!!!』



そう、最悪のシナリオへ続くレールは引かれてしまった。




*  *  *


現在の状況


篠崎蓮

咲白朱莉

前川結城

以下、指名手配犯となる3名は避難所へ待機。


レイジ-仲間の情報を頼りに血清の出所へと向かう。

如月紫苑-逃げ出した能力者たちの追跡のため、街へ残る。

山下おじさん-成瀬美波の能力化により吹き飛ぶも、生死不明。

篠崎仁明-ひとまず警視庁に残る。

成瀬美波-能力化した末、蓮により殺される。

成瀬宗介-不明

西山晴人-闇堕ちした後、行方をくらます。




ここまで読んでくださったこと、心から感謝申し上げます。そして、この物語の続編・Season2も、この夏に公開されることが決まりました。少し期間は空きますが、すぐに帰ってきます。ぜひ、楽しみにしていてください!!!

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