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11話 全ての展開はここから狂い始める

廃棄された工場にて。

荒らされた残骸と一部残る血痕。そして拘束された能力者二人が目に映る茶髪の捜査官。

『すでに終わったようですね』

『現場には現場の匂いが残ってる。それをしらみ潰しに探すのよ』

『・・・はい』


『お疲れ様です。能力者対策本部の伊織さん』

後ろから歩み寄ってくるのは、“ベテラン刑事”と言うオーラを纏った中年男性が立っていた。白いシャツの上から羽織る茶色のコート。その男性の腕には、“機動捜査隊”と書かれた帯が巻きついている。篠崎仁明だ。

『なぜ機動が?』

本宮伊織の発言に、彼はこう答えた。

『いや、初動捜査が仕事ですから』

『た、確かに。ごめんなさい』


そんなこんなで現場の調査が始まった。

篠崎仁明はいつも通りに現場の状況を確認するも、本宮伊織の電話する姿がやけに脳裏に焼き付いた。


*  *  *


どこかある空間にて。


『最近、能力者が次々とやられてるようですが・・・』

『・・・』

『あと、内部の人間が彼女らのことを嗅ぎ回ってるみたいで』

部下の報告を聞いた男は溜息をこぼすと、一つの指示を出した。

『このまま様子を見ようと思ったが、蒔いた種を咲かせようか』

『・・・わかりました』



*  *  *


山下おじさんの自宅にて、みんなが集まった。成瀬美波、西山晴人、咲白朱莉、そして俺・篠崎蓮が。レイジは、如月紫苑と共に別任務に参加することになった。

俺たちの拠点にもなってる山下叔父さん宅のの地下室には飛んだ仕掛けが備えられている。

例えば、連れてきた鋼の能力者を檻に入れるときは・・・


淡々と能力者を円状に置かれた柱の中心へと追いやる。そして、山下叔父さんが青い原石を柱へと流し込む。

すると、薄い膜のバリアが柱から柱へと連結するように移動していく。六角形の頂点に立つ柱同士に伝わっていく薄い膜はやがて近未来と言える監獄に変貌していた。山下おじさんはその仕掛けにドヤ顔を晒しながら、これが能力者専用の監獄だと見せつける。


*  *  *


地下からの階段を上がれば、実家に戻ってきたようなノスタルジーを感じさせるリビングがそこにはあった。床に敷き詰められた畳に、綺麗な白色を見せる和紙が貼られた障子。そして、使い古された座布団に腰を下ろす。


そして久しぶりに会う俺(蓮)、美波、晴人の3人には異様な緊張感が高まっていた。

『生きててくれたんだな・・・よかった』

『・・・・・・・黙っててすまなかったと思ってる』


あの時の晴人とは違う。あの爽やか青年は、偽りのように感じさせるほど、性格が真逆だった。今のが本当の彼、そう思わせる雰囲気を持っていた。


『何があったの?』

美波の優しく寄り添う質問に、晴人の瞳が少しうるうる震える。

『僕は・・・能力者だ。元からの能力者』


その真実に、俺も美波もしばらく言葉を失った。実は晴人は先天的な能力者。彼も今回の"人類に復讐する修正戦争"に参加していたが、俺たちの出会いを通して、改心し始めた彼は戦争を止めることに重きを置くようになった。

あの時死んだのは、晴人の持つ能力・幻覚を見ていただけで、本物は見事に逃亡。それは、俺と美波を守るために戦争を止める手立てをずっと探していたのだ。


その話を聞いただけでも驚きなのに、次の一言にも驚愕の真実が上乗せされた。


『あの男もそうだ』

『あの男って?』

『お前たちを助けた高身長のイケオジだよ』

『え・・・レイジも能力者だと?』

『ああ』

『・・・・マジか・・・』




『蓮もシャワー浴びる?』

『うん?』


朱莉に声をかけられたから普通に振り返るも、リビングへと歩み寄ってくるのは、大事なところも隠さない全裸の朱莉だった。それに男子勢の俺も晴人も視線を美波へと切り替える。

『おい!!!せめてタオルで隠せよ!!!』

頬を赤らめながらも軽く視線を移すと、朱莉は、バスタオルを手に握るだけで何を言いたいのか理解していない様子。

『え!!!何で鼻血出すの!?』

ただただ素で驚く朱莉は、机に置かれたティッシュを差し出してくれる。これに対し、美波も・・・

『ヤダ!!二人とも鼻血出して・・・』

彼女に続き、テーブルに置かれたティッシュを晴人へと手渡す。


『朱莉!!!言っとくけど、マジで誘ってるみたいだから男の前で裸はダメ!!!』

『誘ってはないけど・・・どういう意味?』

『え?』『え?』『え?』

朱莉以外はみんな声を揃えた。朱莉は高校2年にして、いかに純粋に生きてきたことを。




・・・・・・・



*  *  *


話は脱線したが、俺は即刻、地下にいる山下叔父さんに確認をとるべく地下へと向かった。

結果、レイジも先天的な能力者であり、晴人と同じ理由で人間側についた。裏切られたわけではないが、騙されたことに対して、信用が薄くなっていく気持ちが表れ始める。


一方、美波は檻の中で佇む兄さんの元へと歩み寄る。

『久しぶりだね、兄さん』

『・・・・』

『別に怒ってなんかないよ。怒るより心配の気持ちが大きかった。警察にも届け出したのに、見つからなくて・・・』

『・・・・もう声かけるな』

『なんで私たち家族を避けるの?いつでも帰ってきていいのに』

『それはできない!!!』

突如、怒鳴り声をあげる宗介に地下の牢獄に、俺と山下おじさんは警戒心を高める。

『家族のためにできることをしないと、帰れないんだ!!!』

『な、何で!!!』

『家族の幸せを守るために、生きたいからだ』

『だから、能力者になったって言いたいの?』

『ああ。美波の病を治すお金が欲しくて・・・でもまともに稼げない俺は、人を殺すことで麻薬組織と手を組んだ』

彼女はの縮めようとしていた距離感は、兄貴の言葉と共に突き離されていく。


*  *  *


山下おじさんは、朱莉を家まで送ることにした。

俺たちは、過去に起きた一連の能力者の事件をまとめるべく、朱莉、晴人を地下へと集めた。左には、鋼の能力者でもあり、美波の兄貴でもある彼が収容されてる。そして目の前にはキャスター付きのホワイトボードで、一連の関連をメモすることに。俺も気にはなっていた。関わってきたいくつかの事件がどう修正戦争へとつながるのか・・・


ここは、現場経験の多い朱莉が前へと立つ。さっき、この世の真実を美波から教えてもらった彼女は、耳と頬を真っ赤に染めていた。

『えーと、じゃあ、今まで起きた事件の関連性を見つけたいと思います。まず気になった能力者のワードをあげて行ってもらいましょうか』


みんな思ったことは同じだと信じる。"授業みたいな作戦会議になってるぞ"。


『なあ、美波は会ったことあるのか?能力者ってやつを』

俺は一応、仲の親しい美波のことを晴人に聞くことにした。

『俺が聞いたとこによると、一度だけあるらしい』

『え!!!!あるの!!!!!!』


みんなが一斉に声を揃えた。特に俺は女性に近い高声を上げていた。


『ああ。美波は川で溺れそうになった時があったらしい。まだ小さかったから手足も届かないまま、溺れかけてたとこに、岸へと上げてくれるように水を操る能力者に救われたって』


『それって・・・能力者と人類が共存してる時の話だね』

『え?違うの?』

『現在の話だよ!!確かに6年前までは共存してたけど、能力者の反乱で今は全滅したってことになってるの』


晴人と朱莉の会話を聞いてて、思ったことがある。


『6年前に能力者の反乱があったのか?てっきり、能力者は故郷へと帰るためにこの地を去ったと両親から聞いたぞ』

『蓮の両親はその反乱の件をなかったことにしたかったんだろう。それよりも蓮、6年前の記憶が全くないことを気にすべきだと思わないか?』


晴人の一言に、俺も疑問に思わなかったわけではない。むしろ俺の両親が何か隠してるとしか思えなかった。


『まあいい。6年前の結果を修正するためにも、また能力者の反撃が始まろうとしてるってわけか』

『そうだ。俺たち能力者は太平洋付近に位置する大きな島国で、今でも生きてる』

『え・・・じゃあ政府が、能力者の全滅を発表したのは・・』

『それは表向きだ。政府は命を保証する代わりに、国外へ戦う時の兵士・武器になって欲しいと取引してきた。それが6年前。だが今回、私的な事情を持ち込んだ国会の人間が、俺たちを日本への帰還を許した。たとえ、多くの市民が犠牲になっても、日本の地へ帰る権利を』


『その国会にいるクソ野郎の狙いは・・・』

『国外へ我々能力者を動員することだ・・・・どうやら最近、家族を海外で殺されたらしい。その恨みを晴らすためなら、(日本にいる)非能力者の全滅する能力の要求にも承諾できる』


そう能力者からの視点で語られた晴人の瞳には、暗く冷たい真実を突きつけられた。これが人間の本心だと。争いばかり好む人間の野生が暴れたと。


『でも、能力者はまだ戦争を仕掛けてこない。どうしてだ?』

俺の口から語られる疑問に、晴人は冷静な返しを言葉にする。

『それは準備をしてるからだ。人間の負の感情を利用して、血清を渡している。能力者の血が入った血清を人間に手渡すことで、ゾンビ感染のように仲間を増やしてる』

それは咲白朱莉もレイジも知ってる情報だ。

『だが血清の出所はどこからきている?』

『それは・・・』


『麻薬組織を中心にだ』

口を挟むのは、あの成瀬宗介。どうやら俺たちより事態を知っている様子。

『だが麻薬組織へ血清を渡しているのは、別の組織だ。おそらく能力者対策本部だろう』

『え・・・能力者を狩る対策本部が?』

『でも有利だろ?血清を渡して、血清を渡している奴らを殺す。自作自演ができるからな。もちろん調整しながら殺してるだろうがな』


その時に、一通の電話が入る。鳴り響くのは、朱莉の携帯だ。

『仲間からの電話だ』

応答ボタンを押す彼女は、”もしもし”と反応を示す。その後しばらく、警視庁の上白井北斗と朱莉のやり取りに耳をすますことにした。


*  *  *


『俺(上白石 北斗)だ。警視庁で調べを通したところ、血清の出どころがわかった』

『どこ?』

『能力者対策本部こと能力者事件捜査班の奴らだ。本宮伊織の動向を追っていくと、おかしな点が幾つか見つかってな。経歴も偽装されていることが判明した。あと、伊織も部下も必ず向かってる共通の場所が、西園にしぞの大臣の別荘だとわかった』

『本当にありがとう!!!これで戦争を止められる』

『ああ。俺が先に現場へ行って、確かめる』

『待って!!!一人で行くのは危険よ!!!』


朱莉の忠告が入ると同時に、激しい衝突音が電話越しに鳴り響くと通話は一瞬にして消えた。


『もしもし!!!もしもし!!!!』


*  *  *


蓮たちが作戦会議を始めた同時刻、山下おじさんは、私(成瀬美波)を家まで送ることにした。なにせご両親まで心配しているのだから。本心は、兄貴も連れて帰りたいが、彼の変わり果てた姿に拒絶が入る。


日は沈みかける紅色の夕日に照らされる。

街に連なる道路。本当に都会なの?と思わせる人けのなさに、違和感を覚える。あるのはレンガ造りの地面に、シャッターだらけの商店街。その間の踏切警報機が激しく鼓膜の芯まで刺激する。同時に、点滅する赤いライトが危険信号に見えてくる。


そう静かに待つ私(成瀬美波)の内側からは、何かしらのエネルギーがこみあげてくるように、周りの空間が歪み始める。それはまるで、周りの重力を操作する圧力を生み出すような。その歪みの威力は、私の前を横切ろうと近づいてくる電車と比例してやってくる。そして気付かぬ間にやってきた病のように、限界を迎えたエネルギーは、車内を打ち破り、電車が目の前を通ったと同時に放たれた。


一瞬にして、真っ白に染める視界と共に遅れてくる衝撃音。あらゆるものが崩壊していくと、聞こえてくる悲鳴。



だが、また意識は途絶える。しばらくこの世界と断絶した意識を修復するまで、何も考えられなかった。やがて、灰のような粉が肌に伝わり、激しく燃え上がる音が大きくなっていく。ゆっくり蘇ってくる意識を起こすと、私の前を通り過ぎて行ったはずの電車は、レールから完全に踏み外していた。次々と車両は付近の建物に容赦なく突っ込んだり、線路のレールの原型を無くすほどの威力で辺りの場所は崩壊していた。


そして目の前には、電車に乗っていたはずの乗客が目を開けたまま死んでいる。額や腕、腹部と言った箇所から流れていく血の海に、私は息が荒れていく。


はあ、はあ、はあ・・・はあ、はあ、はあ・・・


『私は・・・・一体、何をしたの?』




現在公開できる情報

機動捜査隊・篠崎仁明の部下である上白石 北斗は、レイジの率いるレジスタンスグループの一員であることが判明しました。

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