9話 表と裏
人前でベラベラ話せない内容に、体育館裏へと呼び出した。
最初は、山﨑瑛太だけに話すつもりだったが、前川以外に余計な奴が付いてきた。俺たちが不良でこの眼鏡男を殴ると思い込んでる美佐枝が介入してきた。まあいい。人手が増えたら、それはそれでラッキーだ。そんな気持ちで山﨑に頼みを話した。
『お前、成瀬宗介って知ってるか?この高校に通ってた先輩なんだが・・・まあさすがに知らないか?』
『そうですねー。誰か分かんないです』
『なら、探してきてくれないか?』
『えーーーー!!!どうやって!?』
『卒業アルバムとか部活の時の写真を探すとか?要は彼の顔写真が欲しい』
『何年卒業したんですか?』
そこに美佐枝の質問が介入してくる。
『今が2023年だろ?俺たちが中3の時だから、2021年は宗介は高3で、2022年の春に卒業したはずだ』
『わかりました。じゃあ、やっときますから!!!』
美佐枝は俺たちが邪魔だったのか、思い切り胸に手の平で押し返す。"もう出てけ!!"のサインだ。
『早めに頼むよ!!!明日か明後日、なら今日中にでも!!!』
『わかりました!!!それまでに、まともになってくださいね』
さらに押し返されたおかげで、もう正門前に俺たちは行き着いた。
『余計なお世話なんだよ・・・』
前川の美佐枝に対する愚痴が耳に入ってきた。
* * *
道中で前川とたわい話をしながら、結城が高校の頃行きつけだった喫茶店で一休みすることにした。
『お前、ここでよく勉強してたんだな?』
『まあ、いい子の時は、そうっすね』
辺りは風情を感じさせる空間、ゆったりしたBGMがまた心地いい。
『昔の俺とそっくりだ・・・』
『え?昔は・・・兄貴も?』
心の中に出てしまった本音を地中に埋め直すべく、軽く生返事で返す。
『それより、なんで成瀬宗介って男を探すんです?』
前川もさすがにバカじゃない。それくらいの疑問は持った。だが次の答えには丁寧に扱う必要がある。
『総長の父親を襲った3人組の能力者・・・身につけてるマスクは、よく暴走族の集団がつけてるものだ。あと鋼の能力者は、知り合いの兄さんに顔がそっくりでな。』
『じゃあ、犯人に心当たりがあると?』
『そうだ』
『でも、なんで・・・その兄さんが殺し屋になってるんだ・・・』
* * *
実は美波から聞いたことがある。
彼女が中3か高1の頃、兄さんは難関大学の受験に猛勉強していた。それも、医学部といった大きな壁を必死に乗り越えようと、いつも机に向かう日々。次第には、母がご飯に誘っても来ることはなく、家庭にも無縁の存在へと変わるほどだった。そして受験当日、美波は母とともに神社へ兄さんの合格祈願を祈り続けた。彼の努力が実りますようにと・・・
でも、結果は不合格。彼の行く道は絶たれてしまった。それでも、兄さんは浪人して、難関大学への受験を両親に懇願した。もちろん、彼が真面目な性格ではあることを知ってるし、彼の強い願いは叶えてやりたいと思った父は、兄さんの夢を引き続き応援することに。もちろん、彼の継続力は医学部の合格ラインへと近づきつつあった。そんな彼には好みの食べ物を作ったり、邪魔にならないように早めの睡眠をすることで美波と母親は彼に貢献するようにしていた。
『今日の受験、頑張ってね!宗介ならできる!』
母の温もりある言葉に、目の下に隈を作った兄さんは笑顔で”ありがとう”と返す。
しかし、これが、家族に見せた最後の笑顔だった。結果は前回と同じ。その現実に耐えられなくなった兄さんはずっと部屋に籠るようになってしまった。
『宗介、ご飯できたわよ』
母の呼びかけには全く反応しない。
『ねえ!!聞こえてるんでしょ?』
ゴン!!!
大きな物音で、"俺に関わるな!"という威圧感を母にぶつけるようになった。そして、深夜を過ぎてから、玄関の鍵を開ける音が私の部屋まで聞こえる。
『ちょっと宗介!!こんな時間にどこに行くつもりなの!!!』
『うるせえな!!!』
次の瞬間、大きな物音と共に何かが倒れる。さすがの危機感を覚えた美波は、ベットから飛び上がり、玄関へと駆けていく。そこには、拳を振り下ろす兄さんと倒れ込む母の姿が。一目で現状を理解し、彼女の目から頰にかけて熱い涙が流れていく。
『兄さん・・・もうやめて・・・』
すると、兄さんは自分が悪人扱いをされることに、怒りを露わにしていく。
『医者になろうとしたのも、全部美波のためだったんだぞ!!!!お前の抱えてる病を早く治したくて・・・なのに・・・』
兄は、玄関前に立つ父を突き飛ばし、その日から家に帰ってくることはなかった。
そんな重い話を聞いた。兄の家出にも驚いたが、何より美波が病を持っていたことだ。それ以上聞かしてくれなかったが、深刻な病だと悟らせた。欠席することが多いのも何度か知ってる・・・
この話を踏まえて、前川が能力者に敵意が向ける前に"宗介に何があったのか知りたい"という意志を伝えた。
前川は大事な総長をやられたせいで、簡単に俺の意志に賛同はしてくれなかった。それは口籠もる唇から感じ取れる。
その時、ちょうどいいタイミングで通知音が鳴り響く。山﨑瑛太から送られた顔写真は、はっきり成瀬宗介の顔つきが映っていた。
『そう!そう!!!彼を見たことはないか?何かしらでお前たちが接触してるかもしれない・・・』
前川は総長のためにと、素早い前のめりで画面と睨み合いっこする勢いの目つきをぶつける。
『こいつ・・・東山高の奴じゃねえか!!!あいつら!!!!』
あっという間に怒りに火をつけた前川は、その喫茶店を後にした。何をしですかは、想像がついた俺は急いで、彼の後を追う。
『おい!!!絶対、成瀬には手を出すな!!!俺が話をつける!!!』
息を切らしながら、前を走る前川に声をかけるも距離が離れていく。出遅れた代償は大きかった。歩く人たちを掻き分けていく過程で、進みが圧倒的に遅くなる。
その瞬間、目の前を走る黄色の雷が俺の心臓へ狙い飛びかかってくる。鋭い電気で心臓が一瞬止まる感覚に、俺は死んだと思った。
『なんだお前!!??』
ってやつ(能力者)がまた出て来た。
おそらく雷と電気を操る能力者。
そんな俺(蓮)の背後を何かが素早くタックルする如く脊髄の痺れと共に電気ショックを受ける。そのまま、俺は隣に位置する公園のベンチを乗り越え、茂みの中へと吹き飛ばされる。背中に放たれた電気で体の筋肉が痺れるのが身に沁みる。
『クソ!!忙しい時に限って!!』
木の枝が肉体に突き刺さる茂みから離れ、ランニングコースとなる道へと倒れ込む。
そのまま、一筋の光となった物質が俺の胸に目がけて放たれる。もちろん、その早さに対処することはできず、そのまま攻撃を食らってしまう。それにしても体で受けた電気はなかなか強烈だ。
ただ線となって現れる電気野郎は、勢いで俺を公園の端へと吹き飛ばしていく。まるで、フライパンの中で踊るチャーハンが宙に浮きながら炒められていくようなあの感覚。 こんな時にどんな例えをしてるんだよ!!!俺!!!
気づけば、俺は木々を通り抜け、車が行き来する道路へと吹き飛ばされていた。地面に叩きつけられた痛みは全身へと響く。すると、容赦なく俺に強い光で照らしてる一台の車が接近。こんなとこでまた入院するのは御免だ! そのまま体を後回転させながら、横へと身を投げた俺はなんとか車を回避。これ以上、武器なしで挑むには勝算がなさすぎる。そう思った俺は、ビルとビルの間に与えられた空間・裏路地へと身を隠す。
すると電気の走る光が行き来しながら、ちらついていることから路地裏へと近づいているのが分かる。とりあえず敵にバレないよう逃げるのが先決。俺は腰を低くしたまま、ゆっくりゴミ箱の陰から移動していく。すると暗くて見えなかったが、鉄パイプから首輪がくくりつけられた犬が吠え出す。暗い物陰から現れた犬に思わず、腰を抜かしながら、みっともない声を出してしまう。
『うあーあ〜』
その情けない声に反応した電気の塊がまた一直線に俺の胸に目がけて穿つ。そのまま、宙へと舞い上げられながら、裏路地の向こう側へと突き飛ばされる。
電気による攻撃で意識が一瞬飛んでしまうが、気づいたときには、ダンボールで埋め尽くされた倉庫のような場所に倒れ込んでいた。
ダンボールに刻まれた会社の名前、トラックの側面であろう壁にできた穴から周りの背景が移動しているのが確認できる。それらの状況を見るとどうやら、道路を走っていた宅急便専用トラックの中にいるようだった。振動するタンカーの中を恐る恐る立ち上がろうとする身体には、まだ痺れが筋肉を通して感じ取る。
ふらつきながらも、足場を探しながら移動していくがもう遅し。前のタイヤをやられたのか、タンカーが斜めに傾き、左右へ大きく傾く。立ち上がったはずの俺はタンクが斜めに傾いた挙句、その影響で倒れてくるダンボールの山に潰されてしまう。
* * *
重心が大きく傾いてしまった車体はそのまま横倒しキープの状態で、ガソリンスタンドへと突っ込んでいく。間一髪で、燃料が補給されているポジションに触れることなく、爆発することはなかった。
しかし、燃料へと放った一筋の光が見えた瞬間、あたりは瓦礫と共に飛散しながら大爆発を引き起こす。トラックは跡形もなく爆風による黒煙と皮膚を焼き切る炎に巻き込まれる。
俺はエレクトロの能力者に一撃も与えることができず、死んだ・・・はずだった。
* * *
炎に包まれた死んだはずの俺は、誰かと一緒にゴミ溜めの物陰へと隠れた。
その物陰との間から微かに見えたのは、黄色の雷を纏ったフード姿の誰か。俺たちがいる位置が死角だったおかげで、その場所から素通りしていく。しばらく辺りを見渡していたものも、光の筋と共にそのフードを被った者は消える。
『レーーーーーンーーーー⤴︎』
呪いのように上がってくる声に、俺は思わず女性並みの声の高さをあげてしまった。
『勝手に突っ込んで、勝手に巻き込まれて・・・もう蓮のバカが!!!!』
そこには、俺を心配してくれる狐のお面が真正面に迫ってくる。それが、朱莉だということはもう分かってる。
『これからは、私を相棒として一緒に連れて行きなさい!!いや、連れてけ!!!わかった!?』
『は・・・・はい・・・・』
『それで、何かあるんでしょ?私も手伝う』
『何があるの?』
『電話した後、おじさん宅から逃げたでしょ?その電話の内容についてよ』
朱莉は俺が何をしようとしてるか、手にとるようにわかっているらしい。彼女の真剣な眼差しと力の張った頬が顔つきを引き締めている。それを見て、決意した。彼女の協力も得ようと。
* * *
・・・・・・・
* * *
夕方へと差し掛かる頃。授業を終えた生徒たちは、帰宅か部活へと教室を離れていく。
私(成瀬美波)は、また友人である楓に呼ばれた。
『この頃、人気者だね。今度は蓮くんのお仲間が呼んでるよ』
『え?』
私は、何事かと手元より、教室ドア付近に佇む男へと歩み寄る。そこには、強面のキリッとした二重に、金髪のマッシュショート、濃い眉で威圧感を与える男がいた。
『何ですか?』
『お前が、成瀬美波か?』
『はい』
『蓮のことで話があるんだ。悪いが、付いてきてくれないか?』
物語は、第1章のクライマックスへ・・・