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7話 暴走

どこかの山奥にて。

『お疲れ様です』

『お疲れ』


 俺(篠崎仁明)は、部下の上白石と共に、遺体の発見場所へと向かっていった。山奥というのもあり、草木が多く生い茂り、ちゃんとした道とは言い難い先へと進む。


『現場の状況は?』

『どうやら山登りの方が、この通りを進んでいたところ、木の麓に背中を預けるような状態の遺体があったそうで』

『その遺体の身元は?』

『それが・・・』

上白石は、そこで言葉を濁らせる。部下の顔に視線を移すと、彼の手が差し出す方へとまた視線を変える。そこには、ブルーシートで隠された遺体があった。

俺は、部下のためらう理由が分からなかった。ゆっくりその先へあるブルーシートに手をかける。


『はあ・・・・安藤由美香・・・・』

『現場の状況からだと、他殺の可能性もありますが、自分の能力を使って自殺した可能性も・・・凶器も見つかっていませんし・・・何とも言えない状況です』


『詳しい過程は、私たちが調べ上げます。あなたたちには通常通り、初動捜査だけお願いします』

そう俺たちの背後から歩み寄ってくるのは、白シャツに黒ネクタイと男性の着るスーツを身に纏う本宮伊織だ。

『ふん、能力者事件捜査班って言うぐらいだから、手はあるんだろうな。彼女が能力によって死んだかどうか』

『もちろんです』

俺は微かに、嫌な予感を受け取っていた。もちろん証拠なんかない。でも俺は本宮伊織という人物が恐ろしく見えた。

瞳は生きてるはずなのに、どこか死んでるようにも見える。同時に、"何かを企んでるようにしか見えない"と刑事の勘は語っていた。


 *  *  *


 レイジがいるあの日本家屋にて。正確には武器開発担当でこのチームに貢献してる山下おじさんの自宅だ。

 おじさんは、しゃがれ声に落ち着きある低いトーン、日に焼けた肌に堅いのしっかりした身体を持つ中年男性という印象だ。


『はい!!これがお前さんの武器だ』

そう山下おじさんに渡されたのは、朱莉がかつて貸してくれた日焼け用のアームカバー。さらにただの長い靴下を渡される。

『これ日焼け防止用に使われるアームカバーだよ・・・な?』

『なあーに!!最近の奴は見た目のことばっかしか頭にねえんだな』

『でも、武器って・・・』


一応アームカバーを自分の腕にはめることにした。すると、素材が皮膚に触れた瞬間、ただのアームカバーと違うのが感触的にわかった。手の平に目を向けると、そこには円状にはめ込まれた綺麗な青色の石。


「その石は動力源。まあ、パワーストーンでも呼ばせてもらおう。働く鉱山先からくすねてきたものだ。もちろん犯罪だから誰にも・・・ってか、この武器自体一目につくとこに置いとくなよ』

『分かったよ』


今回の任務は、多くの犠牲者を出す能力者たちの抹消・・・俺はその任務に参加することになった。


 *  *  *


 舞台は、中華街の中に埋もれたビル。ヤクザとかの事務所らしい。今回はかなりの危険を想定して、如月紫苑、咲白朱莉、俺(篠崎 蓮)で現場へと向かうことに。詳しいことは聞かされていないが、俺はひたすら紫苑について行くことにした。2階へとつながる肩幅ほどの階段を上り、左に曲がると薄汚れたビルであるものも、中華料理屋のいい匂いが鼻を刺激する。

そして店内に入ると、おばさんが紫苑の元へ歩み寄る。

『まずい中華料理屋にイタリア料理は合うよ』

紫苑の変な一言に思わず・・・

『は?』

と言ってしまった。

だが、婆さんは厨房の奥へ手招きする様子で俺は察した。今の一言がひどい合言葉だと。


 ちなみに俺たちが仕事するときは常に変な面をしている。中華街の中にいると、何かの祭りに参加してる人みたいだ。紫苑は鬼、朱莉はうさぎ、そして俺は狼の仮面を伝統的なデザインで彩っている。


 *  *  *


 入って行く先には黒いスーツに黒いシャツが中から見えるヤクザが顔を並ばせていた。いかにもヤクザの事務所って感じの味気ない机とソファ、そしてなんか名言を書道風に描いた文字が壁にかけられている。映画の通り、人相の悪い顔ばかりだ。


『話がしたい。あなたたちが狙われてる理由について』

『何のことか具体的に言え』

『お前らが能力者に狙われて、取引もまともにできねえ理由だ。あと、その能力者たちのことについて知りたい』

口調強めの紫苑の言葉に反抗しようとする拳と目つきが襲い掛かろうとするも・・・

『よせ。こいつらは、能力者を始末できる連中だ。ぜひ助けてもらおう』

 そう奥の部屋から顔を出す組長が現れた。

『ご協力感謝する。では早速話を』


 紫苑が聞くところ、この頃、暴力団・長谷はせ派の動きが活発になってるらしい。奴らは基本若い連中だが、なかなか手強い仲間と特殊な才能で他の組を脅かす存在。最近、彼らの傘下に入るよう話を持ちかけられたが、その申し出を断り、部下であろう能力者たちに命を何度も狙われてるらしい。


『長谷派の目的は何だ?』

『能力者による軍を作ること。その上に行けば、国家なんてものまで破壊しようとしてる』

『ヤクザにも大切な者があるから、その取引には乗れないってことか?』

『理解が早くて助かる・・・あんな能力に国なんか乗っ取られたら、たまったもんじゃない』


 それから、能力者の特徴について聞いた。確認した存在は3人。一人ははがねの能力者。地形を変える能力者。武器の能力者。武器のやつは銃も刀も使える手強さらしい。そう彼らの対処法について考えてる最中、目の前の組長の心臓部には腕が貫通した空洞が描かれる。


 鋼の手首・・・そう組長の背後に現れた能力者に気づかなかった。気づけば、見張りをしていた大男たちは地面と同化している。


 完全に腰を深く下ろしてしまっていた俺たちは、瞬時に立つもすでに遅れを取った。

 

 地面が靡く(なび)波となったことで、ソファは押し寄せる波浪に呑み込まれ、そのまま俺は硬い地面と頭を衝突させる。さらに宙をへ持ち上げられたソファが追い討ちで押し寄せるも、引っ張り上げる朱莉の腕力で、下敷きにならずに済んだ。


 目の前には、地面と同化した両手を見せる能力者と銃を突きつける能力者がさらに追い込む。急いで俺はアームカバーの中に埋め込められたパワーストーンで、実際の壁と変わらない威力のバリアを創り出す。

 

 だが、地形を変える能力者の介入で安定していた地面が波打つ海のように暴れる。


 その状況にさえ負けない紫苑は、宙を回転しながら、地形を変える能力者へと振り下ろす刃の一撃。波打つ衝撃の波紋と後ろへ後退する地形変形の能力者。埃を散らせながら部屋の隅へと追いやられる。一方、銃口が紫苑の着地する位置へと振りかかる。彼の援護として、朱莉の膝蹴りが武器の能力者の顔面へと打ち込まれる。


 なら、俺の相手は・・・背後にいる鋼の能力者ってことになるな。この青い原石の力を借りれば、何とかなる。そう拳に全てを託した俺は、鋼の体を持つ能力者へと振りかぶる。一撃は鋼がやや凹む威力を見せる。

 さらに素顔を見せない鋼は、黒い革のマスクを口元に纏う。経験者なら分かる。相手が身につけていたマスクは、不良や暴走族が付けるものの類だった。その正体を炙り出そうと、頬へと拳を込めるも。鋼の腕で弾かれる。


 もう一回だ!!!正体を炙り出すべく、暴れる鋼の腕に隙を作らせる。俺の拳は腹より下へと狙っていく。その分、拳の行き先は下へと降りていくからだ。さらに、腰を低い体勢に維持させたことで、拳は低空攻撃へと変わる。今だ!!!隙のできた顔面へアッパーを繰り出す。同時に顎から剥がれていく顔面のマスク。


そこに映る顔には・・・知り合いの顔があった。

『お前は・・・』


驚く間に隙を生み出した腹部へと殴られる俺は、数メートルまで一気に下がった。

意識はあるものも、痛すぎてすぐに動けない。でも早く起き上がらないと!!!その時、目の前の現場が変わった。



『能力者対策本部だ!!!全員手を挙げろ!!!』


 婆さんが封じてたはずの出入り口から次々と入ってくるスーツ姿の男たち。やや刑事らしくも見えるが乱暴な様はヤクザにも見える。もちろん能力者も俺たちも逃げるしかない。全員散らばるスピードはその言葉を言い終えるまでに開始された。

『早く行くよ!!!』

朱莉に促されるも、俺の行く先は、逃げ遅れた鋼の能力者の後だった。彼の後を追うように、窓ガラスを割って別の屋根へと飛び移る。能力者対策本部が警告の銃声を鳴らすも、そんなの聞く耳を持つわけない。


不安定な屋根へと着陸した俺は、狭い路地を超えるジャンプで安定した屋根へと移動。鋼の能力者は、2、3軒先の屋上へと走り去っていく。


だが、逃すわけにはいかない。


 さらに加速した脚で、2、3軒の屋根を飛び越えていく。一度も着陸せずにたどり着いた屋根は"中華街"と書かれた瓦屋根だった。


近道を選んだ俺の判断。


あとは目の前を横切る鋼の能力者へと飛び込むだけだ。能力者の横腹へと飛びかかった前のめり姿勢で、二人の身は何回転も転げていく。段差を降りて行く感覚は、舌を噛む勢いで、屋根からトラックの上へと落ちていく。打ち付ける身に痺れを切らしたのか。腹部へと直撃の蹴りを咬ます(鋼の)能力者。


その反動でトラックの上からアスファルトの交通道路のど真ん中に迷い込む俺。


 突然飛び込んできた人間を救う術なんてない。ブレーキをかけるも、加速が収まらず突っ込んでくる車一台。瞬時にパワーストーンでバリアを描くも、そのまま押し寄せてくるボンネットの壁に押し出され、俺は交差点へと身を吹き飛ばされる。さらに横から突っ込んでくるもう一台の車で、衝突を喰らう。気づけば、俺の体は上下に回転しながら地面へと叩きつけられていた。2度目の突進でバリアが放てなかった俺の身体は悲鳴を上げる。


誰かの呼ぶ声・・・


必死に呼びかける声に最後の最後まで意識を保たせる。

意識を必死に奮い起こした先には、朱莉に腕を担がれながらその場を去っていく光景が微かによぎった。



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