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蹂躙

「隊長! 突破されます!」

「第一分隊射撃用ー意!」

 阻塞(バリケード)最後端、門から30mほどの位置で第一分隊が積み上げられた荷車や戸板、大型の机やいすに身を寄せて魔法銃を構えた。

 シルヴィの号令と同じくして魔獣どもにより、ついに門扉が引き剥がされた。獲物である人間の匂いに引き寄せられ、魔獣らが構築された阻塞(バリケード)を超えようと次々とよじ登ってくる。

「第一分隊、撃てぇー!」

 ドン! ドドン! ドドドドォーン!

 移動のタイミングを失い、一番隊の後ろで見ていたモーリス中尉はまるで雷が連続したかのような轟音に思わず耳を塞ぎしゃがみこんだ。

 ガァー!

 グォワァー!

 次に耳に届いた魔獣たちの悲鳴。モーリスは目を開けて前方を凝視した。

 そこには、頭部を撃ち抜かれて即死した牛頭鬼や狂黒熊、腕を吹っ飛ばされ、激痛に転がりまくるオークの姿があった。

 ――こ、これは……王都大乱で大戦果を上げたと噂された極秘兵器……

「第二分隊前へ! 1番2番、オークに止めを刺せ! 3番以降は門に向かって斉射!」

 ドン! ドン! ドドーン!

 シルヴィの指示に従い、阻塞(バリケード)から顔を出す魔獣に銃撃を喰らわす第二分隊。射撃が終わると即座に第三分隊と射座を入れ替わる。その間第一分隊は空薬莢を取り出し、次の魔石粉弾薬(カートリッジ)を装填し、待機した。第三分隊の射撃が終わるとすぐに第一分隊が射座に付き、第二分隊は装填を終えて待機。これの繰り返しで魔法銃は数秒ごとに炸裂し、その度に門周辺には魔獣の死骸がどんどん転がっていく。

 モーリスはこれが封印された秘密兵器であることは直感出来た。しかし、何が起こっているのか、これは理解出来なかった。

 大きな爆音と光。それが放たれると何故か魔獣の身体から血が噴き出し、肉が飛び散り、あるいは頭が半分吹っ飛び、次々と倒れていくのだ。

 いったいどんな属性の魔法なのだ……モーリスはあり得ない速度で次々作られていく魔獣の躯を呆然と見つめていた。


「始めたかシルヴィ。どうだ、新しい弾薬の威力は?」

 銃声を聞いた誠一がシルヴィに念話を入れた。

(はい、元帥の仰った通りです。銃の反動は従来型と同じですが威力は全く違います! 頭や胸部に当たればオークでも一撃ですよ!)

「よし! だが油断するな。欲を掻いてヘッドショットばかりに気を取られるなよ?」

(了解であります!)

 誠一の言う新型弾薬。これはぶっちゃけ拡張(ダムダム)弾である。

 誠一の記憶の活性化現象で、今までの記憶では手を拱いていた起爆薬の製造が可能にはなったのだが、地球型の打撃によって撃発する銃弾の製造はホーラが「アデスには時期尚早」と許可を出さなかったのだ。ならばと思い、今度は弾頭の方をイジってみたワケだ。

 ホローポイントのように弾頭にくぼみを掘り、その中に起爆薬を仕込んで着弾と同時に体内で弾頭を破裂させるという、通常のホローポイントやソフトポイントとはまた違うエクスプロッシブ弾にも似た、それはそれは外道な弾頭を作り出したのである。

 アデスにはジュネーブ条約なんて無いもんね~、などと嘯く誠一は非常に悪い顔をしていたもんだ。

「黒さん、またホーラさんに怒られるよ?」

 ニベア台地の南西部、シルヴィや、美月から見て右前方に転移した良二と誠一は魔法剣の柄を握り、斬り込みを掛けようとしていた。

 そんな中で誠一は、シルヴィからの報告にニンマリニヤニヤな顔であった。

「いや~、別に銃の方は弄ってないし? 弾薬も従来の雷管無しの魔法着火式だし? やろうと思えばボルトアクション式の連発銃も出来るけどやらないし? これ以上は文句言われる筋じゃねえと思うけどな~?」

 やれやれ……

 良二は肩を竦めた。

「ま、それはさておき、久々の実戦だ。魔獣ごときモノの数じゃねぇが油断すりゃ一角兎(アルミラージ)相手でも命を落とす。気合い入れていくぞ、良」

「わかってるよ。沢田くん? これから俺と黒さんは西から斬り込みをかける。美月たちに伝えといて」

(了解です。今現在、シルヴィさんが銃撃してますが、魔獣どもはさすがに薬で戦意が昂ってるようで勢いはあまり衰えませんね。美月はそちらを支援してますから、中央より門に近づくときは気を付けてください。斬り込みは今の場所と真西から始めればお互いの邪魔にならないでしょう)

「わかった、全体の掌握は任せるよ。うまい事、指示してくれ。ようし、行くかぁ!」

「おう! 俺は真西から行くぞ!」

 二人は同時に水剣、光剣を振り出した。刃渡りは中長剣モード、約3mほどまで伸ばしているので、一振りで二頭以上屠れるだろう。

「おりゃあああ!」

 良二と誠一は、それぞれの方向から魔獣軍団の中に突撃していった。


 ニース駐屯軍司令部は一気に逆転した情勢に困惑を隠せなかった。

 帝府軍の介入により、全滅必至の状況が文字通り180度ひっくり返ってしまったのだ。

 この激変はニース軍にとっては好転である。時間がたつに連れ、魔獣の屍は増えていき、ニース市に対する脅威が見る間に減少していくのだから喜ぶべき事であろう。

 だが今現在、目の前で起こっている戦闘は自分たちの戦法とはあまりにもかけ離れており、夢の中でもこんな戦場はお目にはかかれまい。

 例えば雷と言うものは天空から地上に向かって落ちてくるものである。

 しかるに誠一の放つプラズマショットはまるでその逆で、地上から稲妻が空どころか四方八方、蜘蛛の巣のごとく複雑に広がり周辺の魔獣をまとめて感電させて動きを封じ、これまた雷光さながらの光を放つ長大な魔法剣で手足を切り飛ばし、頭を跳ね、胴体をブッた切り、止めを刺しまくっている。

 一方の良二は水剣による討伐はもちろん、城壁をよじ登ろうとする魔獣をまるで丸太の様な水柱を魔法で繰り出し、それを超高圧・高速回転させて魔獣にぶつけて次々叩き落していく。

 これはおそらく高圧洗浄機のイメージで作り出した水魔法であろう。

 高圧で噴射された水滴は散弾さながらに魔獣に襲い掛かり、壁の汚れを落とすがごとく魔獣たちをはぎ取っていく、そんな技だった。その証拠に魔獣を落とした後の壁肌は新築時代のようにキレイに洗浄されていた。

(良くん、その技初めて実戦で使ったね。今まで帝府の外壁や石畳の掃除にしか使ってなかったのに)

「もともとは生活魔法の延長なのにな~。ところで容子、軍や市民の負傷者はどうだい? 人手足りてる?」

(あたしたちの介入が間に合ったから負傷者はほぼいないわ。だから今から美月の支援に回るつもりよ)

「支援要るかな?」

 ボソッと良二。

 その美月は投擲隊の攻撃が届かない遠方に擲弾筒による火球魔法砲弾をバンバン撃ち込み、よろめいた魔獣どもを狙撃錫杖で次々にヘッドショットを決めている。隙をついて昇ってきた魔獣はブルパップ型小銃錫杖での機銃掃射で制圧。火力に関しては美月はまさに百人力と言う言葉すら生易しい。

 司令部の幕僚たちが口をポカンと開けて身動き一つ出来なくなってしまったのは正に宜なるかな。


「シルヴィさん、門外周辺の魔獣は概ね制圧出来ました。門まで前進してください。左側にまだ動いている個体がいますから気を付けて」

(了解です、陛下。総員着け剣! 前進用ー意!)

「美月? 今からシルヴィさんたちが門まで前進するから同士討ちに注意して。残存数は70頭を切ったと思うから城壁(そこ)は駐屯軍に任せて美月たちも打って出てくれるかな? 西側は黒田さんと木島さんで何とかなりそうだから、東側中心に。西に銃口が向かないようにね」

(おっけ~。何か問題起きたらすぐに言ってね!)

 史郎は各員から戦況を聞きながら、自分の部屋の机に広げられたニベア台地周辺の地図上の門近くに帝府軍一番隊と美月の駒を置いた。

「絵に描いたような力押しですね。まあ薬で恐怖心のかけらも無くした魔獣が相手ですし、皆様の圧倒的魔力で制圧が最適解でしょうか?」

 作戦の相談役として付いていたフィリアの侍従長ロゼ・カーセルが史郎に茶を差し出した。

「ありがとうございます、ロゼさん。そうですねぇ、狂獣化した魔獣が相手ですし最初から参加できれば罠とかを仕掛けて一網打尽の方がよかったのですが」

「あとはこの状況を見て、ブラッドたちがどう動くか。カギはそこですね」

「長らく内偵していたのに対応が遅れてしまいました。連中の計画発動までの方が早くて時間を掛けられませんでした。反省点は多いです」

「帝府発足以来の大規模な作戦です。不慣れなのも致し方無いかと?」

「痛み入ります。ホント覚えることが多くて……あ! ケン、ダメだよそれ!」

 史郎とロゼが凝視していた地図に、小さな可愛らしい手がスルッと伸びて門の位置に置いた駒の一つを掻っ攫ってしまった。史郎と美月の嫡子ケンである。

 さらにケンは掴んだ駒を顔に近づけると(おもむろ)にカプッと噛り付いてしまった。

「だめだってば!」

 慌てて駒を取り上げる史郎。

「ダメだよケンちゃん! こんなの口に入れたらばっちいからね! ばっちだよ、ばっち!」

「あ~、あ~」

 ケンは尚も駒を取ろうと、両手を伸ばした。

「ダメだったら! もう~、なんでも口に入れちゃうんだもんな~。ああ、地図クシャクシャにしてぇ~……え!?」

 突然、史郎の顔つきが変わった。それを見たロゼはケンを引き離して、代わりに抱きかかえた。

「黒田さん! 今!」

 史郎は誠一に念話を送った。

(抜けるぞ、史郎! 後は頼む!)

「はい、ご武運を!」


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