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「なんだぁ? 言いたい事が有るなら口で言えや!」

(それは予に言っとるのか?)

「ミカちゃん、混ぜっ返さないの! 隊長もよ? とにかく、今は我々帝府側が直接動くべきところじゃないわ」

「それは分かる。シオンやアイサの言からすれば明らかに誘拐だが、次第によっては『賊軍から保護した』などと生酒々(いけしゃあしゃあ)とほざかれては更に悶着になる」

「ん、ちゃんと落ち着いてるようだな。ヨウコやセイイチの言う通り、今の段階では例えダロンとブラッカスの連合軍が蜂起したとしても貴様ら帝府が仲裁なり制圧なりはすべきじゃない。これはダロン、ブラッカス、エスエリア三国間の問題だ」

「でも、ホーラさま! それではシーナとエミーはどうなるっすか!」

「メア、あなたも落ち着きなさいな。人質は生かしておいてこそ価値があるんです。誰が下手人かは分かりませんが彼女らに危害は加えないと思いますよ?」

「フィリアさんの仰る通りだと思います。帝府は基本的には見守る事がその責務ですが、天界も魔界も我らを後見していただいております。帝府への攻撃はアデス三界への攻撃と見做されるくらいは分かっているでしょう」

(その辺の隙間を突かれた格好じゃのう。下手人はまだ正式に帝府への敵対を宣言しとらんからな)

 確かにレイやシーナを攫った連中は、その曖昧さゆえに帝府の次の一手を封じていると言える。

 おそらくはこれから起こるダロン・ブラッカスの反体制組織連合および有志軍人によるエスエリアに対する蜂起には帝府は何も手を出せないであろうと言う状況を見事に作り出している。

 ――でもさっきから念話で話している人って誰だろう? そういや先だっての見送りの時にも確か……?

「あ~、まだ目がチカチカする~。ヨウコお姉ちゃん、ちょっと治療してよぉ」

 アイサが首を傾げている間に、眼をショボショボと3の字にさせながらアイラオが部屋に入って来た。容子が手招きして席を代わってアイラオを座らせると回復魔法をかけ始める。

「アイラオちゃん? 魔界の麻薬関係は何か掴めた?」

「それがねぇミツキお姉ちゃん、洗い直してはみたんだけどセロトロンとかプルートチンとかは真っ当な流通しか、していないのよのねぇ。他の嗜好系の麻薬は人間界にも流れているみたいだけどその辺りは量にしても服用時の効果にしても今回の件とは関わり無さそうなのよ。とても軍事作戦でプラスになるようなネタは何も」

「セロやプルートは密造が容易って言ってたろ? そっちは洗えないのかい?」

 良二が改めて聞いた。

「容易ではあるんだけど、現在の用途は家畜魔獣用だし同じ密造の手間かけるんなら嗜好性タイプを選ぶと思うけどねぇ~」

「前にも話してたけど、いくら血の気の多い過激派でも打ったら廃人になるような薬にまで手は出さないと思うわ。フォルドさんも、仮にあの場で生き延びたとしたってまともでいられるはずも無いし」

「繋がらないな」

 アイサの言に良二もため息。そして史郎も。

「情報が足りませんね。朧気でも全容が見えればシーナさんたちがどの勢力にとらわれたか予想もつくのですが……」

「どういう見方に変えれば見えて来るのかなぁ」

 美月の言葉通り、手詰まり感に覆われながらも部屋の全員が様々な視点からの見方を試みている。

 三人寄れば文殊の知恵、ではないが三界の高位なものがこれほど集まっているのだから何かの閃きを期待したいところであるが。

 そんな中で、

「……なあセイイチ?」

ホーラが「妙な考えを言っていいか?」と、いった顔で誠一に語り掛けた。

「ああ、俺も今フッと思った」

 誠一も神妙な顔で答える。

「なに、黒さん? 何か思いついた?」

「いやな、良。こう言う時の常道として多方面、様々な視点から見る、考える、と言うやり方ばかりでいたが……見方を変えなければどうか? と、ふと思ってな。するとその瞬間、頭の中で……」

 その誠一の言葉に何人かが目を見開いた。

 アイサもまた背中がザワッとした。言葉ではうまく表現できないが、何かの情景が直感的に頭を駆け巡ったと言うか。

「なによ、おじさん。見方を変えないって?」

「いや、魔界の介入が予想される中、今までの状況から一番怪しく思われるセロトロンとプルートチンの流通が普段通りと言うので俺たちはその全貌が見えてこなくなっている……でもその薬剤が本来の目的通りだから異常に見えなかったとしたら……」

 本来の目的? でしかしセロトロンの元々の目的は向精神薬として服用、フォルドも最初は感情を全く無くすほどの効果があったのはアイサも目の当たりにしている。

 今は家畜魔獣に使われるとの事だが、家業が牧場だったアイサとすれば荒ぶった家畜を抑えるには便利そうなのは得心がいった。

 あれほどの効果があれば暴れる家畜魔獣に使えば程よく大人しくさせられる……ん?

「魔界の介入……と言うより魔獣! それがセロトロンで懐柔され、プルートチンで戦意を急き立てられた魔獣たちだとしたら!」

 アイサの言にモヤッとしていた者たちの目線も鋭くなった。

「魔獣をセロトロンで大人しくさせた後、人間界に送り込んでプルートチンで狂暴化させて戦場に投入するってのか!? でもどうやって!? 各国の門は家畜魔獣の通過でも出入双方の国の許可が必要だし、何より多くは運べない」

「でも良さん、転移魔法だってそんなの無理よ? あの魔法の使い手が今回の計画に加担するはずがない!」

「いや、ほかにも方法はあるぞ、美月」

「そうだ、500年前の魔素異変の元凶となったあの方法だ」

「ホーラさま、それって……あ! 逆召喚魔方陣!」

「その通り。あの魔方陣は異なる次元や空間の間を行き来させるところに困難さがあり、より高位の魔導士が必要となるが、同一空間であるアデス三界の移動だけならそれほど難しい事ではない。魔導士が食い殺された後でも門が開き続けていたようにな」

「ミカド様、セイイチさま!」

 ホーラの説明後、即座にラーが立ち上がった。

「私、すぐにアイラオと共に魔界に戻って調べてまいります! 最近の魔獣被害、討伐状況、家畜魔獣の現状と薬剤の使用分布を洗い直してきます! アイラオ、目は戻りましたか?」

「ん、もう大丈夫よ!」

「ラー、出来る限り早急に頼む!」

「もちろんですわセイイチさま。私の可愛い妹分を拉致など、下手人には絶対後悔して頂きますわ!」

 そう言うとラーとアイラオは魔界に向かった。



「でも、魔獣なんてどう使う気かしら?」

「考えられるとすれば魔獣をニースに先行させて駐屯軍と戦わせ、双方が疲弊したところで連合軍による殲滅、占拠、といったところだが」

「どんな魔獣が使われるかわからないがオークや牛頭鬼クラスなら百頭でもニース駐屯軍5千は翻弄される。仮に2百頭なら予備役や徴用兵を投入しても駐屯軍は全滅もあり得るな」

「その時は我々が出ましょう。災害級の魔獣襲撃に関しては我々の判断での対処は三界間条約でも認められております」

「ダメよ沢田くん」

 容子が史郎にクギを刺した。

「え?」

「そのためのシーナとエミーの人質……」

「『帝府は手を出すな』やはりそれが彼らの無言のメッセージなのですね……」

 フィリアの言葉に誠一が項垂れる。

 ――帝府は表立っては動けない。ならあたしが!

「あたし、過激派連合に近付いてみるわ」

「どうするんだ?」

「あたしはやはりペンゴンが怪しいと思う。魔界との麻薬ルートはダロンからの方が多いからダロン国内の組織ガガラか……いえ、出来れば中小の反社に近い組織と接触してみる。ブラッドからの紹介状があるし潜入も可能かも」

「でも当ては有るの? 手当たり次第と言う訳にもいかないでしょう?」

「元帥」

「ん?」

「元帥ならあのケバブ屋のオヤジ辺りから情報が入るんじゃないかしら? それこそ麻薬の運び屋にも一枚噛んでそうな連中の……」

「……俺たちに付いてくれるのか?」

「今回の件は何かがおかしい。あたしたちの活動は臣民のためになる事が目的のはずなのに、それが阻害されてしまっている。格差是正のための技術供与を無視して、この蜂起の後にそれ以上の効果が期待出来る状況に出来るならともかく、それが見えない」

「臣民のため、と言うお前の矜恃に反するか?」

「なにより、レイの事。彼をアマテラから引っ張り出したのはあたし……」

「……そうか」

「私も行きます!」

 シオンも名乗りを上げた。

「この先は潜入工作です。私のスキルが役に立ちます!」

「そうだな。連中の噂話やヒソヒソ話を聞き取れれば近道が見つかるかもしれん」

「是非とも!」

「史郎、許可してくれるか?」

「わかりました。シオンさん、アイサさん」

「はい!」

「帝府統治者ミカドの名において正式に要請します。今回の真相を探ってください。それに関するあなた方の行動全てに対して帝府は全力で支援します。何か要望があれば即座にお伝えください」

「了解!」

「拝命いたしました。必ずやミカド様の御意にお応えいたします!」

 当面、これからの方向は決まった。アイサとシオンは本日午後にもダロンに向かい、誠一の情報を基に行動を開始する事となる。

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