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再びブラッカス

 ブラッカスの首都ガーランで最初にミハルたちと落ち合ったターゲセンのアジトには、様相の変化は全く認められなかった。

 帝府からの土産を当面の備蓄だけを残して売却し、他は現金に換えておいたのだが、食料や酒は当然、米袋や乾物に忍ばせておいた現金もそのままだった。

「ちょっと出来過ぎてるわね」

 アイサならずともそう考えるであろう。

 組織にとってはアイサらの疑惑は晴らされてはいないはず。むしろ4人中3人が造反した形になるわけで、連中としてはここをガサ入れして内通者としての証拠を探すのが当然の成り行きだろう。

 納戸にある備蓄を調べているアイサと同様、レイも床にしゃがみ込んで何やら調べている。

(新しい足跡は無さそうだし、以前の僕たちの足跡もそのまま……)

「つまり誰も入ってきていない……」

 アイサは窓際に寄って外の様子を覗いてみた。立ち止まっている人は少なく、こちらを伺っている者は確認できない。

(もしかして、このアジトの事を知らないのかな?)

「フォルドさんがこの場所を教えたかどうか……その辺、はっきりしてないからなぁ」

 ここの備蓄はすべてが帝府産の品々。普通こんなものを見付ければ小躍りして「やはり連中は帝府の犬だ!」とか言いながらここにある物はすべて証拠品として押収するだろう。帝府の内情を知らない彼らにとって帝府はいつも対抗している体制側の延長に過ぎない。

「でも……罠の可能性も捨てちゃだめよね」

(念のため、普段は別の場所で寝泊まりしようよ。必要なものはその都度取りに来てさ)

 二人は帝府を立つ日、ミカドたる沢田史郎から遠く離れていても会話できる魔法スキル、念話を下賜(かし)された。

 道中、その練習をしながらコツを掴んでいったのだが、レイは発声がうまく出来ていなかったので使用になれて来ると、こちらでの会話の方が楽になり、口は動かすが発声せず念話併用で話すことにしたのだ。

「賛成。とりあえず街に出てこれからのねぐらを探しましょ?」

 結論を出した二人は、備蓄から二日分程度の食料と、現金を持ってアジトを後にした。

 入った時同様、周りに監視者、尾行者がいないか気を付けながら歩きだす。

(組織の方はカタギっぽい奴はいないだろうから、それらしい奴だけ気を付けりゃいいと思うけど……)

(将軍や元帥はどんな奴を張り付かせてんのかな? こっちは絶対に居るはずだし)

(でもそっちは気を付けなくてもいいんじゃ? 少なくとも僕たちの命を狙ってるわけじゃないし)

(まあねぇ。手強い方が気楽な相手てのはありがたいけど)

 日差しの強い気候のガーランではカンドゥーラに似た衣装が主流でフード――グトゥラを頭から羽織るので埃除けに口元でよせればほぼ表情は見えなくなる。

 加えて会話は念話、大声で話して他者に聞かれることもないし唇を読まれることもない。その辺は非常にありがたかった。

 二人は一時間半ほど歩きながら宿屋を物色し、用水路沿いの目立たない佇まいの宿屋を選んだ。

 もしも何らかの襲撃を受けたとしてもアイサが用水の水を凍らせて脱出の足場を作れると踏んでの選択だ。

 とりあえずチェックインし、部屋に荷物を置いて買い出しに出かけた。

 パンや生鮮野菜などを買い込んで部屋に戻るとベッドの上に一通の手紙が置かれてあった。

 手に取ってその差出人の名前を確認すると、アイサは思いっきり不機嫌な顔しながら手紙をベッドに叩きつけた。

 外の気候と正反対に、ご機嫌が爆弾低気圧丸出しのアイサを見て、なんとなぁく予想はつくがレイも手に取って手紙を確かめてみた。

 手紙は「詫び状」と書かれており、差出人はマシャル・ブラッドであった。

「ええ、ええ、どうせあたしゃ素人でございますわよ!」

 二人はマシャルにしっかり捕捉されていたのである。

 とにかくイラついたままでもいられない。二人は取り敢えず夕食を摂る事にした。

 腹が満たされれば少しは落ち着くだろうし妙案も浮かぶかもしれない。

 パンに帝府で貰った燻製肉と買ってきた野菜を挟んでかぶりつき、アジトから持ってきたワインで胃に流し込む。

「んべ? ふぁんへ書いてふぁんほ? (んで? なんて書いてあんの?)」

 ほぼヤケ食いで口いっぱいにパンを頬張りながらアイサが尋ねる。

(かいつまんで言うと、本命のスパイをおびき出す囮にしてしまい申し訳ありません、て感じかな?)

 もしゅ、もしゅ、もしゅ、ごっきゅん! ぐびぐびぐび……ぷはっ!

「つまり、ミハルさんを引き摺り出すためにあたしらをエサにしたって? あたしたちは疑って無いっていうの?」

(この手紙を鵜呑みにするならそうだね。お詫びとして我が家に招待したいってさ。住所も書いてあるよ)

「……うさん臭いなぁ」

(だよね。でも、だとするとアジトが無傷だったってのは納得がいくけど)

「はたしてどこまで仕組まれてんのかしらねぇ?」

(こちらは一度ならず二度までも帝府の世話になった身だし、一から十まで信じてるとは思えないけど)

「でも、いずれにしたってブラッドは避けては通れない相手だしね……ご招待、受けちゃおか?」

(仲間もいないし、伝手も乏しいから渡りに船だとは思うけど……僕たちと和解するにしても、僕たちをどう利用する気でいるのかな?)

「帝府に対する間諜として……くらいしか使い道ないと思うけどねぇ。最初は街でのブラッドの評判漁り辺りから掛かろうかと考えてたけど」

(コソコソ動いても、あちらにはもう筒抜けなわけだしね……単刀直入でいいんじゃないかな?)

「二人で一緒に行くの? バックアップにあんたは待機って手もあるけど」

(一緒に行く。僕はアイサを護るために来た)

 そう言うとレイは誠一に譲り受けた太刀を取り出した。カリンの伝手で誠一が手に入れたというアマテラでもトップクラスの刀鍛冶が打ち出したという逸品だとのこと。

(見事な太刀だ。ブラッドから借りた一振りも凄かったけど、これはその上を行く。振り方ひとつでどこを斬りたいか、どう斬りたいか、それに応えてくれそうなくらいの絶妙なバランス配分がなされてる感じすらする)

「あんた、試し斬りしたがってんじゃないの?」

(ち、違うよ! 本来、刀を鞘から抜く前に相手を降参させるのが真の達人なんだ)

「抜いたら最期、あの世行きって思わせるわけかぁ。あたしには一生無理そうだね」

 笑いながら答えるアイサ。

「んじゃ、エスコートしていただきますか、モノノフさん?」

(うん、口先三寸はアイサにお任せだよ)

「何よその言い方ぁ」

 へへへ~と笑いながら残りのお手製サンドイッチを頬張るレイくんでした。



 翌日、アイサとレイはさっそくマシャルの屋敷へ乗り込んだ。書かれていた住所は港街スズの郊外、山の手の方だった。

「もともとは領主の別荘だったそうですが、先代が奔放な方で身上を食い潰してしまいまして。借金のカタに競売にかかっていたのを私が落札しましてね」

「別荘とは言うけど貴族の本宅レベルじゃない? 部屋は20以上あるし、広間は舞踏会でも開けそうだわ」

「帝府、の、官舎より、大きい」

「ここが建てられた時期はよほど景気が良かったのでしょうねぇ。当時としてもかなり贅を尽くしていたと思われますよ」

 応接室でマシャルと茶をいただきながら、アイサとレイは招待されたマシャルの屋敷の広さや、部屋の中の装飾に感嘆していた。

「これでも装飾は購入時よりかなり省いたんですよ。当初はもう、下品と言って良いくらい金ピカでしたからね」

「それが今や商人の本宅?」

「確かに私の(ねぐら)ではありますがそれも数室だけで、あとは商会の事務所や倉庫に使ってます。新商品の研究開発もやらせてますよ」

「商品開発も?」

「ええ、軍や傭兵、冒険者用の武器や防具はもちろん、一般家庭でも常備できる小道具、治療薬など幅広く研究しています」

「奥、さんや、お子さん、は?」

「私はまだ独身なんですよ」

「さてと……」

 アイサは茶のグラスを置きながら雑談から本題にシフト。

「あなたがあたしたちと敵対したくないという言い分は手紙でも分かったけど、こちらとしては、それをすんなり信じるってのは無茶振りとしか思えないんだけど?」

「先だっての結果については私としても断腸の思いでした。ペンゴンが私の意を曲解したのか、手柄を焦ったのか、とにかく最悪の結果だと言っていいでしょう」

「そのペンゴンは今どこにいるのよ?」

「それが、今は行方知れずでして……フォルドさんや牢番が殺されたことで責任を感じているのかも?」

「そんなタマかしら? 結果も見ずにさっさと逃げて言ったわよ?」

「……彼らを殺し……いや、排除したのは帝府の方ですか? 二人に残された傷跡は人間業とは思えませんが」

「ミハルさんが帝府側だったのは間違いないわ」

「僕、たちは、違う。帝府と、繋がり、有るけど」

「以前の会議では帝府とは当面敵対はしないとの取り決めでしたが、同志が殺害されたことにより帝府に良い感情を持たない方も出てきました。あまり良い方向とは言えません。ミハルさんの事でも、エスエリアが黒幕だったら、と言う思いで炙り出しをしたわけですが帝府の意向であったのなら大変遺憾なことです」

 ムカッ!

 遺憾で済むか! アイサは叫びたいところではあったが何とか飲み込んだ。まだ感情を出すところではない。

「帝府が技術格差を是正しようとしている限り、敵対は当然マイナスです。しかしエスエリアはアウロラからの報告にもあるように今の優位性を崩したくない勢力も多い」

「矛先は一気にエスエリアに集中したわけか」

「帝府に近しいあなた方はエスエリアの優位性を惜しむ連中とは与しないのでは? と組織連合には上申しました。故に、例の血の即位式はエスエリア工作員によるもの、と言う見方が大勢を占めていますし、あなた方はその中には含まれないと……」

「ずいぶんあたしたちを買ってくれてるのね?」

「タラの村でのアイサさんのお姿……あなたや帝府とは同じ方向を一緒に見られる……そう思っております」

「……」

 ――あれはやはり踏み絵だったか……

 アイサの脳裏にそんな思いが過る。

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