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通夜の後

 前夜祀は本館の大広間で執り行われた。

 一諜報員の葬儀であるため人間界からは帝府以外の参列は無かったが、司祭のホーラを始め天界・魔界の帝府と交友のある者たちが集まりミハルの死を惜しんだ。明日は同じく大広間で告別式が行われ、その後埋葬される段取りである。

 その間、アイサは何度も棺に納められたミハルの顔を覗いた。

 彼女の顔を見るたび涙があふれた。何度も何度も。

 前夜祀の間もアイサは泣き続けた。


 前夜祀終了後も引き続き、誰かがミハルの棺のそばで番をすることになった。

 自分の番をレイに引き継いだアイサは、寝る前に風呂をいただこうと思い、広間に隣接する控室の横を通った。

 その時、控室から数人の話し声が聞こえてきた。

 声は良二ら異世界人と、魔界、天界のVIPたちだとアイサにはすぐ分かった。

「弔いの最中になんだが、事態は騒がしい方向に向かっているようだな、セイイチ?」

「ミハルが探ってくれた情報、無駄には出来んが……人間界6大国だけで収まる状況とは言いがたいな」

「我は貴公の手助けにやぶさかではないが今回の件、天界としては介入は出来んぞ?」

「そうですね、セイさまたち帝府に余程の危害が及べば別ですが、今のところは」

「メルやホーラちゃんの言う通り、天界はどこも関与して無いものね~。でも残念だけど魔界は何らかの絡みがあるわね~。でしょ、ラー?」

「はい、陛下。ミハルさんの情報はこちらでも精査する必要がありますが、アングラ系のうごめきが感じられます。アイラオ? 何か掴めまして?」

「セロトロンとプルートチンを追いかけさせてはいるんだけど、あれは嗜好で乱用するものじゃないからねぇ。セロトロンは家畜魔獣用に転用されて鎮静で使う事もあるけど、許可制で厳重に管理されてるし。でも密造はそれほど手は掛からないしなぁ」

「ペンゴン……人間だとは思いますが、この商人の魔界との取引は? そちらの方面から何か手繰れるのでは?」

「でもシーナ、今どき魔界との取引なんて普通だし難しくないか? クロさん、あたしはやっぱマシャル・ブラッドが怪しいと思うっすよ。あの二人をハメたワケだし」

「俺もそれは考えたが……残念ながらなメア、アイサたちがブラッドにハメられたってのはペンゴンの言い分から推測しただけで裏は取れていないんだ。奴がアイサらを動揺させるためにブラッドをダシにしただけかもしれん」

「とにかく、ダロン・ブラッカスの蜂起の日時はかなり縮まったと考えるべきでしょう。ただ、事を起こすにしては蜂起予定の軍勢、ミハルさんやアイサさんの言っていた程度の勢力では心許ないと思うのですが?」

「だけど史郎くん、それに魔界軍が手を貸す可能性があるから決行されるんでしょ?」

「それはあり得ませんわミツキさま。魔界ではシラン様、ブレーダー閣下共に、魔王府軍・国防軍内部において不穏な空気は全く無いと明言されておりますのよ? そうですね、メリアンさん?」

「はい、夜王様! 現場でも噂どころか、冗談ですら魔界の軍が人間界に赴くなどと言う話は無いとの事。それどころか冒険者ギルドや傭兵ギルドでも話は聞こえて来ないそうです」

「て、ことは人間界で一戦あったとしても、魔界軍を派遣するってのは出来ないわね~。精々情報提供しか……ごめんねリョウくん」

「いや、情報だけでも十分ありがたいさ。むしろそちらの方が重要だ」

「でも不気味ねぇ……シーナ、ダロンの経産省への訪問は延期した方がいいんじゃない? また前回の様な事が起こったら……」

「お心遣いありがとうございますヨウコさま。しかし、それならば尚の事、赴いて交渉せねばなりません。一部技術供与の件と帝府への留学生の受け入れの打診。これをまとめられれば、蜂起に参加する兵力を減らすことができるかもしれません」

「でもエミーまで連れていくのはちょっと……」

「ダロン王室の第一王女……輿入れなされ、今は公爵夫人になられたフレア様のご長男がエミーとの会見をお望みになってらっしゃるそうなので……エミーも楽しみにしてますし」

「シーナ、俺も心配だ。子供たちの件だけでも延期した方が」

「主様。甘いかもしれませんが、敵方でも子供を巻き込むような事はしないのではありませんか? それにシオン先輩や特戦の方々が影に日向に護衛してくださいますし」

 ――トクセン?

「まあ、反政府側だろうと蜂起軍だろうと心証最悪になるっすよねぇ。臣民の支持が得られるとは思えないっす」

「隊長は、御子息がエミーちゃんに近寄るのが気に入らないだけでしょ?」

「当然だ! 俺の娘に取り入ろうなど100年早い!」

「御子息とエミーちゃんは同い年じゃないですか。あの歳頃は男女の意識なんか無いでしょ? 親バカも大概にした方がいいですよ」

「沢田くん、隊長の場合は親バカじゃなくてバカな親って言うのよ」

「やかましい! 娘と付き合いたければ、まずはこの俺を倒してからだ!」

 ――やっぱバカな親だ……

「それより黒さん、シオンは大丈夫なの? ミハルがこんなことになって心配よ」

「彼女は現場は同じでも別件だから……だが、アイサたちがこっちに来た以上、ブラッカスにいる意味は無いし、神殿経由で帰投するように指示した。さっきブラッカスの神殿に着いたと連絡があったから大丈夫だと思うよ」

「そっか。告別式には間に合いそうね……」

 ――あたしが居るから帰投? どう言う……まさか……

「アイサ様?」

 ドッキーン! 

 後ろから急に名を呼ばれた。アイサは(ノミ)のジャンプほど飛び上がってしまいそうな衝撃を心臓に喰らった。

「こんなところで何を……あ、もしや聞き耳を?」

「ラ、ラークさん!」

 声をかけたのはラークだった。恐らく中のVIPたちに茶の用意をするのだろう、ティーセットを乗せたワゴンを押している。

 ガチャッ

「なに? 誰かいるの? あれ?」

 ――ヤバ!

 美月が控室のドアを開けた。茶を持ってきたラークはともかく、アイサまでいる事に美月は訝し気な眼――と言うか、なんでここにいるの? てな目線をくれた。

 アイサはアイサでラークに、

 ――ごめん! 何とか誤魔化して!

 てな思いを必至に目で訴えた。つか涙目に近い。

 ラークは一つため息をつくと、

「恐れながら陛下……」

から続けてこう言った。

「アイサ様はミカド様はじめ、お部屋内の皆さまの会話を立ち聞きしておられたご様子ですわ」

 ど直球! 

 ――薄情者―!

「アイサ様。老婆心ながら、こういう時は変に誤魔化さず正直になられた方がよろしいですわよ?」

 ――ううう……

「海千山千のお方々相手に半端な奸計は自分の首を絞める元です」

 ――二の句が継げない!

 アイサは白旗を振った。

「なんだ、いたのか」

「何こそこそしてんだ? 君にもかかわる事なんだから遠慮なく入ってくればいいのに」

 ――無茶言うな! あたしは絵に描いたような庶民な上にテロリスト! 三界のVIP相手に遠慮なしとか出来るか―!

「アイサ様? 将軍や元帥閣下もこう仰っておられますし、どうぞ中へ」

 もう逃げだすことも出来ない。アイサは腹を括ってラークに促されるまま控室に入った。


「結局あたしとレイはあなた方に利用されていたわけでしょ?」

 こうなってはもう、毒を食らわば皿まで思考で、地で行くべしとアイサは開き直った。

「言い訳はしない、その通りだ。名の知られた組織であるターゲサンの同志でありながら帝府の情報を持つ一風変わった二人組とした事で、ブラッカスでの実行犯の裏側や、それに繋がる別勢力の炙り出し等々……。出来過ぎなほど実りは有った」

「そのツケが……」

「責めたければ責めてくれ。彼女は俺の部下だ。その責任はすべて俺にある」

「一人で背負うな。責任者はお前だが絵を描いたのは俺だ」

「舐め合いなんか見たくないわ! で? 今後、あたしとレイをどうするつもり? これでも札付きのテロリストよ? まさか無罪放免ってわけにはいかないでしょ?」

「いや、そのまさかだ」

「はあ?」

「今までの功績に対し、君たちの過去5年間の罪状を抹消するよう沢田くん――ミカドの名で6大国全てに働きかけるつもりだ。君たちを逮捕拘束する官憲は居なくなる。君たちは自由だ」

「……何を企んでいるの? 官憲を抑えたってペンゴンやブラッド、組織連合はそのままじゃない。またあたしたちを泳がせて何かさせようっての!?」

「否定はせんよ。正直俺たちは期待している。君は俺たちと同じか、それ以上に今回の真相を知りたがっている」

「立場こそ違えど、公の力が届かないところで切り捨てられる人を救いたい、その思いは共有しあえると思っているんだけどね?」

「どこまでも勝手ね。その傲慢さがミハルさんを殺した! そうは思わないの!?」

「もちろん思っている。不甲斐ない話さ……」

「その彼女の隣で自分たちの勝手さを棚に上げて、国の都合だけを論じ合って! 彼女はあなたたちのツケを払わされたのよ!」

「あなた!」

 重黒い叱責の声がアイサを捉えた。真っ黒な装束と漆黒の髪を蓄えた赤い目の魔王がアイサを睨んでいる。

「責めるなとは言いません。しかし、もう少し言葉を選べないのですか! ミハルさんの、彼女の死を踏まえたうえで、それでもなお言わねばならないセイイチさまやリョウジさまのお気持ちに心を砕く余裕すら無いのですか!?」

 ――く!

 アイサは圧倒された。必ずしもその言葉尻にではない、自分に向けられた8大魔王の一角、夜王ラーの怒りのオーラに圧倒された。アマテラで見せられた良二の殺気と、ほぼ同様であった。

「ラー、済まんが抑えてくれ」

「しかし!」

「お願いします、ラーさん……」

 ラーとしては、アイサにあそこまで言われては誠一の奥の一人として看過は出来なかった。しかし、当の誠一や良二に言われては是非もない。

「……承知いたしました」

 そう言うとラーはオーラを散らし、深くソファに背中を預けて腕を組み、目を瞑った。

 以後、自分は居ないものとして進めろとでも言いたげだ。

「お姉ちゃんたら。いい歳して人間(魔族)が出来ていないわよ? もう19000歳なのに」

「私は18700歳! まだ18000代ですわ!」

 ガンッ!

「いったあぁい! もお!」

 アイラオちゃんの頭に見事なたんこぶ。

 コントか? だが場の空気はちょっと和らいだようだ。

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