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脱出

 だからさ、ほんのちょっとでいいんだよ! 

 そうは言ってもよぉ……

 一言答え、聞くだけなんだって!


 いつの間にか眠っていた。

 レイに甘えて泣き続けて、いつしか寝込んでしまったのか?

 アイサは牢番の男と誰かが口論している声で目が覚めた。

 ――ミハルさんの声?

 アイサがレイを見ると、彼も気が付いて声のする方に目を向けていた。


「あんただって分かるだろ、信じた仲間に裏切られるなんてさ!」

「だからぁ、面会はダメだって(かしら)がさぁ」

「カルロが実行犯だったって知った時もあんたらショックだったろ? 今は奴も被害者だとわかってホッとしてんじゃねぇのかよ!」

「そりゃ、もちろん気持ちはわかるって!」

「直接聞かなきゃ収まらないのさ! なぜ? とかどうして? とか聞く気は無いよ、ホントにスパイだったのかどうか、その一言だけ聞きたいんだ! あんたも一緒で構わないし!」

「んもう、しゃあねぇなあ。でも扉には近づくなよ? 壁際に立って、一言だけだ。いいな?」

「もちろんさ、恩に着るよ! このまんまじゃイラついてとても寝られやしない!」

 交渉成立らしい。間も無く地下牢入り口の扉の鍵が外される音がした。 

 ガシャン……

 薄いが鉄で出来た扉が開く音がした。

 二人分の足音が近づく。房はここだけだからその二人はすぐアイサらに姿を見せた。

「ミハル、さん……」

 やはり推測通り、声の主はミハルだった。

 壁際を歩き、鉄格子の前に来たミハルは、この上なく険しい顔を向けてアイサとレイを睨んでいた。

 裏切られた口惜しさが滲み出ている、そんな眼だ。

 ――そういう眼、したいの、こっちなんだけどな……

「さあ、さっさと終わらせてくれや」

 中肉中背の見本のような背格好の番兵はカギをチャラチャラ振りながらミハルに促した。

「ああ……」

 ホントにさっき話していたことを聞く気なのか? しかし、

 ――聞かれても、違う、としか言えない……

アイサがそう言った時にミハルがどう反応するか、アイサは全く見当がつかなかった。

「ほら、早、くぅ!」

「え?」

 アイサとレイの眼が見開いた。

 彼女らの眼の前で、壁と格子の中間に立っていた番兵の口と鼻が後ろから延ばされたミハルの手によって塞がれて、わき腹から肺を目掛けて彼女の膝蹴りが一閃されたのだ。

 一気に呼吸を止められた番兵は瞬時に失神し、その場に崩れ落ちた。

 番兵の手から鍵束をもぎ取ったミハルは鉄格子の鍵を探し始めた。

「ミ、ミハルさん! い、一体!?」

「静かに! ここからフケるよ!」

 鍵が合った。扉が開き、ミハルは二人を手招きした。

「ミハル、さん、僕たち、疑って……」

 番兵の腰の剣を奪いながらレイが聞く。

「あの時は、ああでもしなきゃ収まらなかったよ。もしもあそこで抜け出すならあの人数を相手しなきゃいけなかったしな!」

「あたしたちの事、信じてくれてたの?」

「当たり前だろ? あんたらがスパイじゃ無いって事は、あたいが一番よく知ってるからね!」

「な、なぜ? アイサは、ともかく、僕、付き合い、短い」

「だって、スパイはあたいだもん」

「「………………は?」」

「それに、連中のこれからの状況が不確定だったし、一旦は捕まってもらった方が得策だと踏んだんだ」

「え? なに? どゆこと? わかんない!」

「詳しい事はあとで話す! 脱出だよ」

「う、うん!」

 まだ混乱はしているがアイサもレイも脱出には同意した。このまま居ても裏切り者の濡れ衣を着せられた上、粛清されるのがオチであろう。

 三人は地下牢から抜け出し、出口を目指した。

 だが、

「そうはいきませんな」

脱出を妨げる、前方の暗がりから聞こえる声。

「な!?」

 このねっとりした、しつこそうな口調の声……昼間聞いたあの……

「意外と早く尻尾を出しましたなぁ」

「ペンゴン!」

 コツ コツ コツ……

 ゆっくりとした足取りで照明魔石の近くに歩み出たペンゴン。薄ら笑いを満面に、いかにもしてやったりと言った余裕の表情を浮かべながらアイサらに厭らしい視線を寄こして来る。冷え込みも相まってアイサは背筋が凍り付く思いだった。

「若僧と小娘……この者たちが間諜でなくともをダシにすれば本命が釣れるとは思ってましたが……いやはや、こうも簡単に事が運ぶと些か拍子抜けですな?」

「フン!」

 ミハルは鼻で一息。

「別に? もう隠す意味も無くなっただけさ。必要な情報は頂いたしな。あとはあんたの喉を掻っ切って脱出するだけさね」

 フォッ、フォッ、フォッ!

 乾いた笑い声を吐き出すペンゴン。同時に横に一人の男が暗がりから歩み出てきた。

「その情報を届けられると思っているところが浅はかですな。知っていてもここで朽ちるのだから全く持って意味が無い。徒労の見本みたいなものですわ」

 ペンゴンの横に立つ男はそのままゆら~りと前に進んだ。照明魔石の灯りの中で浮かんだその男の顔……馴染のあの顔……

「フォルドさん!」

「……」

「ふぉ、フォルドさん、お願い、聞いて! ホントにあたしたち!」

 スパイなんかじゃない! アイサはそう訴えようとした。しかし、

「待ちなアイサ! 様子がおかしい!」

と、ミハルに言われて「え?」と彼女を見るアイサ。次いで改めて目を凝らしてフォルドの顔を見直す。

 確かに表情がおかしい。フォルドの顔は感情のかの字も無い、そんな顔つきだ。

「ま、まさか……」

「え? なに?」

 アイサにはミハルの表情が陰ったように見えた。

「ペンゴン! フォルドさんに何をした!」

「いや、なにね……フォルドさんはアイサさんやレイさんの裏切りがとても堪えたようでしてねぇ。ターゲサンの代表として4国連合に加盟しているのにこの体たらく。非常に落ち込まれていて見ているだけでもお気の毒でして……」

 ――よくも抜け抜けと! てめえがハメたくせに!

 アイサは頭に血が昇って来た。カルロの暴走辺りからのこの顛末、絶対こいつが絡んでいる、糸を引いている! 自分とレイをハメた事からもそれは感付いた。しかし、それをもって怒りを全てペンゴンに向けるには引っ掛る事もいくつか……

「で、まあ、魔界特産の気分が落ち着く薬をお勧めして……」

「魔界の……まさか、セロトロンか!」

 ――魔界? 確かカルロに喰らった粉も…… 

「ほう、これをご存じでしたか? そちらにもお詳しいとは、やはりどこかの高名な機関の一員……?」

「なに、その、セロ何とかって!?」

精神(こころ)を真っ白にする薬だよ。精神に傷を負って錯乱する患者用に開発されたんだけど、効果が強烈過ぎて患者は廃人同然になっちまうんだ」

「その通り。今ではアデス三界全てで禁止薬物ですな。魔界の一部では家畜魔獣を躾けるのに使われてますが……しかし、廃人になってそれで終わりではありません。実はこういった状態で、このプルートチンという薬を投与すれば……」

 と言いながらペンゴンは懐からアデスではまだあまり普及していない針式注射器を懐から取り出した。

 対してミハルはプルートチンと言うその薬品名を聞いた瞬間、顔を豹変させた。

「や、やめろ! そんなもの打ったら!」

「こちらもご存じでしたか? 物知りですねぇ。いや、参りました」

 世辞などと言う言葉も生ぬるい、皮肉、いや当てつけの様な誉め言葉を吐きながら、ペンゴンはフォルドの腕に注射器を刺し、薬剤を注入した。

「実はこれ、セロトロンで廃人になった患者を治療することを目的にして研究されてたんですがねぇ。無反応からは立ち直る事が出来るのですが、反応するのが戦闘本能だけでして……つまり……」

 プルートチンを打たれたフォルドは始めは何の反応も見せなかったがやがて数十秒後、身体を小刻みにブル、ブルッと震わせながら周りをキョロキョロと見回し始めた。ブラッカスの男としても低めの、身長が160cmにも満たない猫背のペンゴンはススっと数歩下がり暗がりに紛れ込んだ。

「目に入った者は敵味方問わず、襲い掛かってしまうようになっちゃうんですよねぇ。魔獣での実験では共食いにまではいかなかったのですが……人間には強すぎたんでしょうねぇ。周りの者を見境なく襲い始めるんですよ。当然これも禁止薬物です」

 フォルドはアイサら三人を補足した。先頭のミハルを睨み、腰の剣を抜き出して身構える。

「フォルドさん!」

「ダメだ、アイサ。こいつはもうフォルドさんじゃねぇ!」

「そんな!」

「いや~、懸命な判断ですが、ちと面白みに欠けますねぇ。剣を交えるのに、さっきまでは仲間だったのに~とか躊躇するくらいの愛嬌があってもよろしいんじゃ?」

「ざけんな、腐れ外道!」

「フォッ、フォッ、フォッ、それじゃあ、あたしはこれで。巻き添え喰らっちゃシャレになりませんでなぁ。んじゃ、フォルドさん、あとは良しなに~」

 いちいち癇に障る言いようのセリフを残し、ペンゴンは踵を返すと階段へ向かって走り去っていった。

 アイサらは「待て!」とペンゴンに投げかけたかった。しかしそれよりも、フォルドが襲い掛かって来るのが早かった。

「があああ!」

 ――まるで魔獣の咆哮……

 アイサの耳にも、フォルドが人格のみならず人間であることさえ絶望的だと感じる、そんな咆哮だった。

 三人は跳び散り、まずはフォルドの攻撃をかわした。

 ミハルは短剣を取り出し構えた。レイも拝借しておいた番兵の剣を構える。

 だがアイサは魔封環を掛けられたままだった。番兵の鍵束には魔封環のカギは入っておらず、得意の氷魔法は使えない。手近に武器にできる物も見つからない。

 ――サポートすら出来ないのか……

 アイサの奥歯が歯軋りに歪む。

「うがあぉあ!」

 フォルドは今度はレイにかかって来た。レイは上から叩きつけられる剣を受け流し、返す刀で切りつけるが、すぐに距離を取られた。

「は、早い!」

「戦闘本能だけになってる分、無駄が少ない。以前のフォルドより手強いぞ!」

 ミハルに言われ、間合いを計り直すレイ。結果、ミハルとフォルドでほぼ正三角形で対峙する三人。じわりじわりと距離を詰めるレイ、ミハル。

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