表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/53

対エスエリア会議

 後に「血の即位式」と呼ばれるこの事件は集まった観衆5万人の内、死者が87名、負傷者は500名以上に昇った。

 爆発による直接の犠牲者はいなかったのではあるが、その後のパニックによって転倒、将棋倒しになった人々の上を脱出を焦った他の避難者の下敷になったり踏まれたりでの圧死者、骨折などの重傷者を生み出してしまった。

 狙われた各国要人はエスエリアとアーゼナルの使者が軽症、その他は身を伏せた時にできた極めて軽度の擦過傷程度で済んだ。

 王国としての建国と新国王の即位の日にこのような事態を引き起こし、国家に泥を塗ったとして政府部内や軍の中で反体制組織に対する強硬な壊滅作戦を提案する勢力も当然の如く出てきた。

 エトラッコをはじめ、中小の組織も連名で、今回の事件にはいかなる関与もしていない、即位式においてはあらゆる意思表示、行動等は起こさないと取り決められていたなど、声明文を発表したが、真に受ける者はいなかっただろう。

 ただややこしくなりそうなのは、このテロ活動で長年ブラッカス公国の後ろ盾となっていた宗主国のエスエリア王国に対する不満の表れだと主張する勢力や、逆にエスエリアとは今までと変わらず親密な関係を維持すべきだと言うエスエリア系住民を主軸とする親エスエリア派、ダロン王国と歩調を揃え、エスエリアに対抗しようとする親ダロン派も声を荒げるなど各勢力の実態が浮き彫りになってきたことだ。

 これからブラッカスの行政府はその三派閥を抱え、難しい舵取りを要求されそうだ。


 難しくなるのは行政府だけではない。過激派組織連も今回の件は頭を悩ませており、緊急の合同会議が招集されることになった。

 今回の会場は治安部隊の目を避けるため以前のようなスズの町の一室ではなく、街からずいぶん離れた、魔素異変時の魔獣の襲撃で全滅し、そのまま放棄された町跡に構築されたエトラッコのアジトで行われた。

 山にも近く、日差しも穏やかでアイサには助かる気候だ。

 建物の色が黄土色っぽい建築が多いガーランやスズの街だが、このアジト周辺の建物は当時の仕様だろうか? 更に茶色が強くかかった感じの、ちょっと沈んだ空気に包まれていた。

 古いとは言え、堅牢な石造りで出来た建物をベースにしており、地下にも部屋や倉庫などを拡張し、深いところは井戸まで設置されている。

 いざとなれば1年やそこらの籠城も可能と言った要塞に近い構造であった。

「そっか、メグちゃんのご両親は見つかったのかぁ。よかったね」

「お父さん、腕、骨折、だけど、命、別状、無かった」

「それで済めばいい方でしょうね。死んだ人もたくさんいたし」

 会議室となるのは20人が一度に入れそうな食堂だとのこと。ターゲサンの4人は食堂に向かいながら、例の騒動時に保護したメグと言う幼女の事を語り合っていた。

「メグ、も良かったけど、帝府の大臣たち、軽症で、良かった」

「爆裂筒に最初に気付いたのはエウロパ大臣らしい。次いでフローレン大臣。二人して国王をかばって伏せさせ、ちょっと遅れて直近の衛士二人が三人の壁になって爆風から守った。その時に衛士の一人は軽傷を負ったが、国王を含む三人は伏せた時の擦り傷程度で難を逃れたそうだ」

 フォルドがVIPたちの顛末をアイサに説明した。

「攻撃はあれだけで終わったけど、バルコニーの後ろで控えていた魔導士が魔法で防御壁を展開して偉いさん連中は宮殿内に退避。エスエリアとダロンの使者が爆炎を吸い込んで軽症だけど他は無傷だってさ」

 とミハルが補足。

「ホントはアイサの会議出席は見送らせて欲しいと言ったんだがな……」

「まあ、カルロの独断専行ではあったけど、死なせちまったからなぁ。あたいらへの風当たりも強そうだし」

「でも、アイサが、殺った、わけ、じゃない」

「それは勿論そうだ。だがエトの連中はどう思うか分からん」

「あんなやつでも(れっき)とした仲間だもんね。説明させる前によそ者に殺されたとなったらいい思いはしないでしょうね。中にはあたしが殺したと思ってる手合いも居るだろうし」

「ほか、の、やつら、は?」

「ただいま絶賛逃亡中。行方が分からないのはカルロを含めて4人らしいけど全てが雲隠れだってさ」

 とミハルが言い終わる辺りで4人は食堂に着いた。


 会場にはターゲセン、エトラッコ、アウロラ、ガガラと、前回と同じ面子が揃っていた。

 だがマシャルは欠席で、代わりに同じく商人のドール・ペンゴンという年配の男が出席していた。

「さて、今回の事件について、我がエトラッコの一部メンバーが関与し、臣民の同志たちに対する有らぬ誤解を招いた事、深くお詫び申し上げる。これに関してはまだ詳しく話さねばならんのだが、勝手ながら今は横に置かせていただき、各国の状況について最新の情報を交換、共有したいと思う」

「ではまず当事国のブラッカスの方からお願いするぞな」

「うむ、我が国の状況は各派閥の勢力が拮抗してしまっており、明確な方向性が決められない状況と言っていいだろう。三つ巴、三竦みの状態だ。もとより燻っていたのが浮き彫りになった形だ」

「その辺はエスエリアの態度も影響してくるだろうな。こちら(エスエリア)は大使館爆破と、明らかにエスエリアの使者を狙った今回の事件でブラッカスに対しかなりの不信感を持っている。中にはエスエリア製品の輸出を同国系住民だけに限定する報復処置をとるべきと提案もある」

「我がブラッカスの再占領、属国化の復活などの声は上がらないか?」

「エスエリア王都で探りを入れているが、そこまでは出ていない。天界や魔界の意向もあったとはいえ、ブラッカスの公国から王国への昇格と発展を言い出したのはエスエリア側だ。言葉を翻しては道理が通らない。むしろこれを契機にエスエリアの技術の他国への放出を先送り、若しくは阻止しようとする勢力が問題だ」

「帝府を抱えている現状を良い事に技術格差を維持させて自国生産品の世界シェア、若しくは価格の自由操作をもくろんでいるかもしれない、て事なんだな」

「先端技術で効率化、合理化された農産物や工業品はそのコストパフォーマンスに於いて他国との差をどんどん広げとる。いくら人件費がエスエリアより安い我がダロンやブラッカスでも、近い将来、太刀打ちできなくなるのは火を見るより明らかだぞい」

 アイサの脳裏にタラ村の状況が過る。あれほど貧しい環境でありながら、エスエリアの先端技術はあの村よりも安く農産物を作り上げてしまうのか?

「我々は各々の国の体制にはそれぞれに改善させたい、いろんな思いがあると思う。が、今はそれを一時棚上げして、先端技術の独占を図るエスエリアの勢力を打破すべく協力し合うべきではないだろうか?」

「国が違っても万民平等を目指す点において少なくともここに集った4か国の組織の意見は一致していると考える。アウロラとしてはどう思われるか?」

「パルマ殿が言われるように、万民平等は我らの活動方針の根幹だ。自国の弱者から毟り取るような真似を他国にやる事を認めるわけにはいかない。そういえばエウロパ情報相の訪問でブラッカスに対する技術供与の期待が前回話し合われたが、結果はどうであった?」

「はっきり決定と言う訳ではないんやが、今回の事件もあって情報相と我が国の経産省との会談は無期延期になってしうもうたに」

 と、トーラ。

「帝府の意向か? それともエスエリアの入れ知恵か?」

「それは今は断じることでは無いな。うちのアイサの話では帝府には帝府の指針があり地元で縁が深いとは言え、復興なったエスエリアに過度な肩入れが無いのならば、なるべく敵対しないように努めるべきだ。いくら総員が少ないと言っても四天王の戦力は一国の軍に匹敵すると思った方がいい。明らかに我らの理念と相反するのでなければお互いに不干渉が良いのではないか?」

「帝府はともかく、対エスエリアとしちゃあ、ダロンの軍部でも不満を持つ勢力は結構いるぞい。徴兵された商人や職人、農夫などもエスエリアの商品の広がりに脅威を感じておる。その辺りはブラッカスと同じだぞな」

「……ゴルド殿、その勢力と我が国の反エスエリア派が手を組めばエスエリアに相当な圧力がかけられると思わんか?」

「ちょ、ちょっとシェルパさん! まさかエスエリアに戦争を仕掛ける気!?」

「まさか! 戦争など誰も好まん。しかし最悪そうなるぞと強気の姿勢を示すことで技術供与の話を進展させることは出来るのではないかね? 連中とてせっかくの好景気で築いた財を戦争なんぞで失いたくはあるまい?」

「……各国の動きはどうか? もしダロンとブラッカスが同盟してエスエリアと対峙した場合の動向は?」

「連絡は神殿経由の報道屋から行っているが、シュナイザーは恐らくエスエリアを消極的に支持、であろうな。未確認だが例の爆破計画時には、やはりエウロパ情報相によって新技術の供与について何らかの前向きな合意があったらしい。同盟軍が創設されたとしても、更なる供与にも期待を持てるエスエリアに対して、あからさまな敵対はせずに中立に近い状況で推移を見守るだろう」

「こちらの情報によるとトラバントは完全に中立に走るようだし。あそこは耕作地にも工業資源にも恵まれてっからなシ。新技術にゃあそれほど食指は動いて無いらしいなシ」

「アーゼナルは属国筆頭のアマテラの王女が帝府に輿入れしている。一応無関係を装ってはいるが、帝府に類が及ぶならこちらに宣戦する可能性は高いと考える」

「でも、ダロン・ブラッカスの全軍が与するわけじゃないんでしょ? その程度の戦力で圧力なんかかけられるの?」

「軍だけではなく我々に賛同する民兵組織も参加する。それでそれぞれエスエリアが南方の国境に割ける勢力の1/5にはなるだろう」

「おそらく目標となるんはダロンとエスエリア国境近くの工業都市ニースだぞい。そこの駐屯軍は約5千。市民から徴兵しても総勢は1万5千とはおらんぞな」

「それでも足りないんじゃない? 縁のあるアーゼナルと不可侵条約を結べばエスエリアはそちらに備えている軍がこちらを向くわ」

「君はどうも帝府やエスエリアに立ち向かいたくないようだね?」

「そう言う事じゃないわよ、シェルパさん。客観的に見た話よ。シュナイザーでもターゲサンが呼びかければ軍はダメでも民兵は募れる。それでも数的には全然足りない」

「ふむ、アイサくんの懸案ももっともだ。だがそこに、魔界の支援が有ったらどうかな?」

「魔界の? そんな話が!? いえ、そんな魔界の軍が人間界に介入なんてそんなこと天界や8大魔王が許すはずが!」

「魔界軍ではない。あくまで魔界の勢力だ」

「なんなの? どゆこと?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ