4組織合同会議
合同会議は首都から馬車で1時間ほどの港町スズの荷揚げ作業が行われる現場近く、港湾作業員でにぎわう食堂の二階で行われた。
地元ということと、反政府勢力としてはダロン王国勢と合わせても1・2を争うブラッカスのエトラッコの代表者シェルパが進行役を務めた。
初見も多いので、まずはそれぞれの自己紹介から始まった。
エトラッコから リーダー格シェルパ、若干年配のトーラ、若く些かチンピラっぽいカルロの三人。
ダロン王国のガガラからはリーダーのゴドル、役人ぽい話し方をするパルマ、そしてバエラ。
エスエリアの組織アウロラからはコージとトモロー。両方とも30台前後の中堅の上、と言った風格だ。
あと、ブラッカスにおける支援者の代理人が一人。
「エトラッコのエスエリア大使館爆破は見事だったわ。話には聞いとったがあれほどの威力とは恐れ入ったぞな」
ガガラのリーダー、虎の獣人ゴドルが先だってのエトラッコによるテロ活動の成果を称えた。
「すべて狙い通りさ。しっかし威力に関しちゃあ、俺も驚いたね! 感動で逃げ遅れるかと思ったわ! まあ、ターゲサンさんの手柄横取りしちゃったみたいでちょお~っと心苦しいけどぉ」
エトラッコの恐らく実行犯であろう、20代前半の若干目じりの垂れさがったカルロが見事に想像通りの荒い鼻息を見せてくれた。
こうまで見事に想像通りだと却って腹も立たない。あ、やっぱりぃ? てなもんだ。
「カルロ、言葉には気を付けろ。我々の成功はあくまで幸運だったのだ。すまんな、ターゲサンの衆。どうか気にせず聞き流していただきたい」
「成功は幸運、失敗は実力……エトラッコの気構えは我らも常に見習いたいと思っとります。此度の成功もその成果でしょう」
とフォルドもシェルパの顔を立てつつ返した。
「しかし、前大公の喪が明ける手前でって、タイミングとしちゃ微妙だな。臣民の中にはあまりいい感情を持たないものも居るんじゃないか?」
苦言、と言うほどでも無さそうな感じでアウロラのコージが疑問を呈した。
「だから国防軍も油断してたんじゃねぇかよ。明けたら警戒も強まるし、喪明けまでもう少しってこのタイミングが一番なんだよ!」
「そうは言っても死者に対する礼儀が一段と強いブラッカスで喪中に攻撃は……」
「それも気には掛かるが、今回の標的は公国関係ではなくエスエリア大使館だし。安寧計画から4年、傷ついた王都の復興もほぼ完了したにも拘らず帝府より優遇されていることには、財界や産業界だけでは無しに労働者界隈からも不満は出ているし。それでエスエリアの施設が標的にされた事には留飲を下げるものもいただろし」
語尾に方言を感じさせるバエラ、ガガラのメンバーで留守を預かる副長のモッブと同格の幹部との事。
「エスエリア系住民のコミュニティや街では品質や性能の良いエスエリア産の商品の人気が高いがそれらは優先的に連中の商店会に降ろされとる。それに不公平感を持つ者も多いしな。その臣民の思いはエスエリアの先端技術公開への圧力になるだろうに」
「だがなトーラ氏。今回の件でエスエリアは態度を硬化させているんだな。今週に喪が明け、次期大公の即位式は早々に行われるんやが、王族の出席は見送りの方向で進みそうや。そんな治安の悪いところにのこのこ出ていけませんてところなんやな」
「エスエリアの反応は予想通りか。ところでコージ殿、帝府の様子はどうだ?」
「変更が無いんなら外務省大臣のフィリア・フローレン元エスエリア王女。そして情報大臣シーナ・エウロパが出席するはずなんやがな」
「四天王は来んか?」
「小規模な帝府から閣僚が二人……何か帝府の思惑を感じるわ」
「アイサくん、だったね? なぜそう思う?」
「帝府代表で祝意を伝えに来るのなら外務大臣だけで十分のはず。帝府内の技術情報や研究資料を扱う情報相が来るのが引っ掛るの。帝府の持つ新技術に関しての交渉はエウロパ情報大臣が権限を持ってるはずだから、今回の即位式に便乗して公国の経産省辺りと交渉する可能性があるんじゃないかしら?」
「ん? 情報大臣が技術管理をしていると? 詳しそうだな? 帝府に関しちゃ出入りは各国の王族でもそうは無いし、概要はベールに包まれててそんな容易に情報が得られるはずは無いんだが」
「シェルパさん、アレだよアレ。ガキが聞きかじりやハッタリで工作失敗の汚名返上のつもりで背伸びしてんだよ。よお嬢ちゃん、俺たちに先越されて悔しいのは分かるけどよぉ、すぐバレる嘘はみっともねぇだけだぜ? へっへっへ!」
「よせカルロ!」
シェルパは一応カルロを諫めはした。しかしアイサの顔を見る彼の眼の奥では、アイサの値踏みはカルロと同様だった。
彼だけではなくガガラやアウロラの連中も同じ反応であったろう。しかしアイサは、
「まあ、あたしとレイが調べた限りでは……」
と、彼らの目線に全く動じず切り出した。
「帝府の総員は防衛軍を入れても200名前後よ。敷地内で目立つ大きな建物はたったの三棟で、本館、官舎、御所の三つ。主だった国務大臣は財務、外務、内務、情報で他の事は兼務してる。軍は四天王の筆頭キジマ将軍の直下に防衛軍が総勢130人程度。財務相は四天王の一人ヨウコ・コバヤシ・キジマ卿。外務はさっきのフィリア・フローレン、アマテラ王国から輿入れしたカリン・カート・キジマが次官。内務はミツキ・マツモト皇后が兼任。情報相、これも先述のエウロパ大臣。王都外に領地を持っているけど街は無くて畑や牧場だけ、世話は軍がやっているわ。帝府の最高顧問でミカドの相談役であるクロダ元帥は大神帝メーテオールと、キジマ将軍は大魔王ライラ・サマエルと親密な仲で12神や8大魔王とも交友が深い。他に何か聞きたいことがあれば……」
と、スラスラ説明するアイサ。
無名の、少女に近い娘の口から詰まることなく次々出て来る情報に、他の連中は皆ポカーンであった。
「で、でたらめ言うな! お前みたいな小娘がそんなこと知るわけないだろうが!」
カルロが喚いた。思いっきり、驚愕の見本みたいな表情で。
「残念だねぇ。アイサはちょっとこないだまで帝府に潜入してて内情をしっかり調査してきたのさ」
してやったり……そんな口調でミハルが付け加えた。
「あたいらが相手している政府や領主、その更に上が帝府なわけだけど連中の思惑はどこにあるのか? 連中は6大国をさらに発展させられる知識や技術を持っているけど、それを全世界に広めてくれるのか? 広めてそれが功を奏すれば、あたいらが思う万民平等・弱者救済の実現に寄与する事が出来るか? その辺の傾向が掴めれば我らの今後の行動にも大きくプラスになるんじゃないか、とね?」
かなり誇張も混じってはいるが、大筋においてはその通り。アイサとしては自分よりドヤ顔しているミハルに冷や汗ものではあるがまあ取り敢えずはその方向で。
ポカーンとしていた他組織のメンバーは、ミハルの説明に今度は、お~! っと、感嘆の声で応えた。
今回の爆破テロの手法は史上初と言えど、ある程度の経験者ならやってのける作業だ。しかもその方法も、言ってしまえば出どころの大元は帝府。
その人間界の頂点である帝府に潜入して情報を入手など、それこそ前代未聞である。ましてや国家の諜報部員ならばともかくも、反体制組織の一員が。
「そ、そんな、バカな……」
一気に優位性を失ったカルロはしっかり全身がフリーズしていた。そして室内の空気は、彼に対して更に追い打ちをかける流れに。
「ふむ……帝府内部の間取りや施設とか、主だった活動内容などは私も存じませんが、役職に関しては拙い私の記憶ともほぼほぼ同じですね」
話に割り込んできたのはエトラッコ等の組織を陰ながら支援している経済界の同志の代表者、この町を根城にしている商工会の会頭の地位にあるマシャル・ブラッドであった。
ブラッド商会は商工会でも最大級の通商規模を誇り、国際貿易も多く取り扱っており、情報もまた多く握っている。彼がアイサの情報を追認すると言う事はアイサの情報の信憑性において有利と言えるだろう。
「試すわけではございませんが……アイサさん、帝府が置かれた翌年から、四天王の中では毎年のようにお子様が誕生なされていたはずですが、ご存じの事は?」
「一番の年長はクロダ元帥とエウロパ大臣との間に産まれたエミーって女の子。あと現軍団長メア・キャーロル中佐との双子の兄妹ミンとリン。ミカドの息子はえ~と……」
「ケンくん、だよ」
「ああ、そうそう、ケンだったわ。ありがとレイ! で、キジマ将軍はコバヤシ大臣との兄妹ジョウとヒロコ。フィリア大臣との子が男の子でカトラス、カリン次官はレンて言う女の子を産んでアマテラへ里帰り中よ。」
レイの支援も受けてアイサはサラッと説明した。
目を白黒させているシェルパらの視線は、マシャルの顔に集中し、答え合わせを求めていた。
マシャルは正解であることを示すため、目を閉じながら頭をコクンと頷かせた。
「いや、参りました。ミカド様のお世継ぎ誕生はこちらでも触れが出回りましたが、カリン様のお噂は途切れておりましたので……里帰り出産なされておられましたか。それは私も存じておりませんでした」
「天守の東北にある離れで育児してるわよ?」
「情報ありがとうございます。アマテラとは交易もありますし、さっそくお祝いをお届けしなければ」
マシャルが太鼓判を押した以上、アイサの情報に疑いはない。
あんぐり空けていた口は閉じられたが、カルロの口からは歯ぎしりが聞こえてきそうだ。
「では、アイサくんの情報は信用に値すると言うことで……で、話を戻したいが……情報相の同行まではおかしいと感じたんだったな?」
「ええ、私たちは失敗したけど、あの時の標的は当時訪問していた情報相にも良く見えるような場所だったの。成功していたら、我々は帝府の新技術を市井の端まで行き渡らせるように要求する声明文を出す予定だったわ」
「帝国府にコネがある一部の豪商が技術の独占を図るのを食い止め、我らの意思を市井にも広めるための爆破計画だったのだ」
とフォルドが補足説明。
「その時の使節の中には外相は同行してなかった。もし訪問の目的が技術供与に関する事であるなら外相が来る必要はなかったとも考えられる。逆に今度は即位式が主目的だから外相はともかく、情報相がなぜ同行するのか?」
「つまりブラッカスにも、何らかの技術提供なり公開なりがあると言う事かね?」
「残念だけど、そこまでは。でも可能性は高いんじゃないかしら? コバヤシ大臣も技術格差の是正は進めると言ってたし」
「と、なると今は帝府に対しては刺激しない方が良策かな? もしも技術供与が本当であり、今回の爆破工作がそれを後押ししたのなら我が意を得たりと言っていい」
「パルマさんの言うようにテロが後押しした可能性は十分あるわね。元より帝府は条件付きながら技術の流出・供与を進めるつもりだって印象を受けたわ」
「問題はエスエリアやね。あそことしちゃ、技術格差が続いた方がいいんやから元王族のフィリア・フローレン外相を通じて妨害することもあり得るんやないかや?」
と、トーラは帝府・エスエリアの共謀の可能性を述べた。
表向きは別の体制であっても、縁類である以上は考慮すべき可能性であろうか?




