勇者として出来る事
炎の国ブレイズ。
俺達がこの世界で目覚めた場所。
精霊首都セラフィム、まさか俺達の仲間であるセラフィムが、そのまま都市の名前になっていたなんて思いもしなかった。
その事を知ったのが、つい先程。
クレイが目覚めてから、次の目的地を確認している時だった。
俺達の次の目的地。
グランド国境付近に位置する、要塞都市クレストだ。
都市と付くだけあって、人も多いだろう。
だが、クレイはあまり乗り気ではなさそうだ。
「大丈夫? もし行きたくないなら、クレストには寄らずに別の所にした方が――」
暗い表情のクレイを案じて、心配する様子の咲夜。
無理やり笑顔を作り、平気なふりをしてごまかしている。
「ありがと……別にあたしが何かされた訳じゃ無いんだ。ちょっと色々あって」
何か事情がありそうだな。
「俺に何か出来る事があったら言ってくれ。何でもいいからさ」
頷くクレイ。
何があったかは分からないが、警戒しておいた方が良さそうだな。
ただでさえブレイズとグランドは対立しているんだ。
何があっても、おかしくは無いだろう。
クレストに向かう道中、土で作られた人型の物体が所々に配置されていた。
「これは自律型ゴーレム兵だよ。土精霊の魔法で作ってるの」
自律型ゴーレム兵。
土の国グランドは、特に土精霊を奴隷の様に扱っていると聞いた。
それは兵力増強の為であり、このゴーレム達を作っているのが土精霊と言う訳か。
ゴーレム達は、通行人を認識してはいる様だが、特に攻撃等はしてこない。
監視をしているだけなのだろう。
そして、ゴーレム兵を多く見かける様になったと言う事は、ここがグランド領内と言う事。
もう少しで要塞都市クレストに到着する筈だ。
要塞都市クレストの入口だろうか。
巨大な門は閉まっているが、その近くにもゴーレムが居る様だ。
「ようこそ、要塞都市クレストへ! 何の御用でしょうか?」
「しゃ、喋った……しかも結構かわいい声で――」
咲夜が驚くのも無理は無いだろう。
見た目は巨大な土の人形。
威圧感のあるその巨体から、いきなり友好的に話しかけられた。
そのゴーレムが発する声質は、巨体からは想像できない女の子の声だった。
「久しぶり~あたしだよ! クレイ! 今日はブレイズの勇者様と一緒なんだけど、入ってもいい?」
「クレイちゃん!? お帰り~! 今、門を開けるね」
何とも軽すぎるやり取りである。
土精霊の魔法で作ったゴーレムと言う事は、このゴーレムを操作している精霊が居て、その精霊と会話していたのか。
それにしても、奴隷として扱われている割には、元気そうな声に聴こえるが。
「なぁクレイ。グランドは精霊に無理やりゴーレムを作らせてる訳じゃないのか?」
「確かにゴーレムの作成は土精霊の義務だけど、ちゃんとお金も貰えるし、美味しいご飯だって食べられるし、待遇は良い方だと思うよ? 休日は自由だしね!」
俺が想像していた奴隷と言うのは、強制的に働かされた上に、待遇も悪い物だと勝手に思っていた。
グランドと言う国は他の国から見れば軍事国家として、戦力増強を最優先にしている国だと。
だからこそ、精霊の扱いも、戦力として使い捨てにされる命なのだと思っていた。
だが、実際には違う。
少なくとも、ブレイズ国民が思っている程の悲惨さでは無い様に思える。
まだ、深く知った訳では無い為、何とも言えない所ではあるが、国同士で認識の違いがあるんじゃないだろうか。
門が開き、ゴーレムによって中に案内される。
門の内側に居たのは、クレイと同じ位の年齢に見える少女だった。
他にも、精霊族と思われる人々が魔法を使ってゴーレムを操作している様だ。
この都市に住む人々は、精霊と人間で手を取り合っている様に見える。
ゴーレムを使って、建物の修繕をしている精霊と、それを指示している人間の間でさえ、互いに笑顔でやり取りしている。
ブレイズの人達の方が、精霊に対して理解が無いように思えるくらいだ。
国同士が、互いに理解しあう事が出来れば、こんな対立なんて起こらないじゃないか。
勇者としての俺が、この世界で出来る事は魔王を倒すだけでは無い筈だ。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
なるべく長く投稿していきますので応援して頂けると励みになります!
ブックマークや評価等、頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いします!