想い紡いだ土の城
土精霊クレイが、持てる力を全て出して形作った魔法。
グランドキャッスル。
人が入れる大きさ程あるその建造物。
旅の一時的な宿にしては充分過ぎる位だ。
地形操作魔法。
日本の発展した技術でさえ、地形を変えるには長い時間と、多くの人手。
様々な重機を使う必要すらある。
にもかかわらず、この少女はたった一人で、ほんの数秒で、魔法と言う俺にとっては馴染みの無い力一つだけで。
この様な立派な城を簡単に作ったのだ。
それは最早神の領域だと俺は思う。
自らの限界を超える魔法を使い、熱を出して倒れてしまったクレイ。
深夜。
不安からか、ずっと起き続け見守っていた咲夜だったが、これで咲夜まで倒れてしまったら元も子もない。
「後は俺が見てるから、無理しないで寝なよ」
「……ごめんね。夜更かしとか、あんまり慣れてなくて。後はお願い」
土で作られた城で、家具ももちろん土で出来ている。
だが、その土で作られたベッドでも、何故かふんわりと沈み込む柔らかさだ。
ベッドに横になる咲夜だが、それでも眠れなさそうに見える。
「心配しなくても大丈夫だって。クレイはちゃんと見てるから」
「それもあるけど、そうじゃなくて……」
慣れない環境で、緊張してるのだろうか。
どこか落ち着かない様な表情をしている。
少しでも安心出来れば、そう思いながら頭を撫でると、嬉しそうな顔をして直ぐに眠ってしまった。
「おやすみ、咲夜」
結局俺は眠気すら来なかったが、咲夜が幸せそうに眠っているから良しとしよう。
その後、ベッドに横たわるクレイを見守り始めて数時間経った頃。
少しずつではあるが、熱も下がり始めて、辛そうだった顔には、ほんの少し安らぎの表情が見えて来た。
「クレイの事、置いて行ったりなんてしないよ」
きっとクレイも、独りで居るのが嫌なんだよな。
誰だって、一人になりたい時があっても、孤独になりたい訳じゃないんだ。
「クレイの想いは、俺も咲夜も、ちゃんと分かったから。これからは、ゆっくり同じペースで歩いて行こう」
クレイはもう、俺達の仲間だから。
置いて行くつもりも無いし、置いて行かれる心配もさせない。
ふと、俺がこの世界に来るきっかけとなった事件を思い出す。
あの日、久しぶりに会った雷亜の表情は、絶望に染まっている様に見えた。
陽菜が死んでから、俺の前から姿を消した雷亜。
恐らく、その後もずっと陽菜の事を想い続けていたのだろう。
俺に対する恨みも、増幅していったと思う。
それでも、俺を巻き込まないように、逃げろと言ってくれた。
その直後だ。
黒い霧が、俺達を包んだのは。
俺も咲夜も、黒い霧に飲み込まれても生きているんだ。
もしかしたら、雷亜は今も独りで生きているのかもしれない。
早朝。
朝日が昇り始めた頃。
「……ごめんね、心配かけちゃったね」
眠っていたクレイが目を覚ました。
「おはようクレイ」
「おはよう……何かこう言うのって、仲間って感じで良いね」
俺達はもう、仲間だから。
クレイが望むなら、これから先も一緒に旅をするつもりだ。
「夢の中でね、途中から二人が出て来て、あたしに手を差し伸べてくれたの」
でも、それは夢の話だから。
そう思っているのだろう。
少し寂しそうに俯いている。
「そっか、それじゃあその手を、クレイは取ってくれる?」
俺はクレイに手を差し伸べた。
夢の中の俺がそうしたんだ。
俺だって同じ気持ちだ。
「迷う必要なんて無いから。夢の中でも現実でもあたしは手を取るよ」
手を取り合い、想いが繋がった。
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