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精霊少女クレイ

「二人とも、お待たせ〜」


 そう言いながら現れた、金髪のメイド服を着た少女。


 この子は確か、セラフィムの案内で街を見て回っていた時に、男に連れ去られそうになっていた精霊の女の子だ。


「も〜あたしの事仲間って言ってたクセに、置いて行くつもり?」


 状況に追い付けない。


 そうだ、俺は確かに言った。

 咲夜とクレイの二人は仲間だと。

 怖がらせるなら、容赦はしないと。


 だが、それは二人を守る為のハッタリだった訳で。


「えっと、クレイって言ったっけ? 本当に来るのか?」


 クレイが背負う、巨大なバックパック。

 旅の準備は万端だと言う事だろう。


「当たり前でしょ? 大丈夫だよ、ちゃんと役に立つから!」


 自信満々に胸を張るクレイ。

 不安そうに、俺とクレイを交互に見る咲夜。

 本当にこの子を連れて行くのか。

 そう言いたげな表情だ。


「あ、あのねクレイちゃん。気持ちはとっても嬉しいよ? 嬉しいんだけど……」


 俺達の本来の目的は魔王の討伐。

 命を落とすかもしれない、危険な旅だ。


「じゃあお願い! 荷物持ちでも何でもいいから、とにかくあたしも連れてって!」


 深々と頭を下げられてしまう。

 非常に困った。

 そこまでして危険な旅に同行すると言われてしまったら……


「じゃあしばらくは俺達と一緒に行こうか。嫌になったら何時でも戻っていいからさ」


 飽くまでも一時的に、だ。

 強制してまで、無理やり同行させるつもりは、俺も咲夜も考えていない。


 こうして、土精霊クレイが仲間に加わった。




 俺達の当面の目標は魔王に関しての情報収集だ。


 精霊族の特徴として、他種族との契約、つまり、魂の結びつきがあれば、その結びつきを通じて離れていても想いを繋げる事が出来る。


 糸電話の様な物だろうか。

 その為、セラフィムとも契約してはいるが、ブレイズに残ってもらう事になった。


 精霊騎士団団長であるギルバートも、セラフィムとの契約者。

 二人にはブレイズ国内からの情報収集を依頼したのだ。


 仮に、ブレイズで何か異変が起こった場合、契約者である俺と咲夜を、セラフィムの元に転移させる事も出来るし、逆にセラフィムを俺達の元に転移させる事も出来るのが契約者の特権だ。


 土精霊であるクレイも俺達と共にある事を望んでくれている為、契約を交わした。


 先ずは、クレイの出身国である、土の国グランドに向かうべきだろう。

 彼女を送り届けた後、それでも共にありたいと願うのであれば、止めるつもりは無い。




 ここから次の人が住む地まではまだ距離があると、ノクターンが教えてくれた。

 流石勇者だ。

 世界を旅した先輩勇者の教えがあれば、俺達の旅なんて、まだ楽な方だ。


 今日はここで野宿。

 この世界に来て初の……いや、思い返してみれば日本でもこんな経験なんて無かったんだ。


「さーて、ここであたしの真の実力、お見せしちゃいましょう!」


 そう言いながらバックパックから取り出したのは、硬そうな棒。


 その棒で、地面に印をつける。


「願うのは、土で形作られた城(グランドキャッスル)


 地面の印から、人が入れる位に大きな土の城が建設された。


「これが土精霊の得意魔法の一つ、地形操作だよ! これであたしでも必要と……して――」


 言葉を終える前に、クレイが倒れてしまった。

 顔が赤い、額に手を当ててみる。

 酷い熱だ。


「ちょっと張り切りすぎちゃった……でも、凄いでしょ? この力があれば、旅はもっと楽になるから、あたしを置いて行かないで――」


 涙を流しながら、気絶してしまった。


「……そんな力が無くたって、置いて行く訳ないだろ――」


 無茶をし過ぎたんだ。

 足手まといになる事を恐れて、必要として欲しくて。


「私、クレイちゃんの事、何も分かって無かった。私と似ているんだよ、多分」


 クレイを抱きかかえ、頭を撫でる咲夜。


 クレイも、誰かに必要として欲しかったのかな。

 俺も、咲夜も。

 クレイだって、俺達と似ているんだ。


 こうして一緒に旅をする事になったのだって、似た物同士で引き寄せあったのかもしれないな。

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