その平和は誰の為に
いつの間にか眠ってしまった様だ。
今、俺が見ているのは、過去の記憶。
見慣れ過ぎて、これは夢だと一瞬で分かる。
だが、この見慣れた風景を夢として見ている間は、俺の体自体は眠っていると言う事。
世界を旅するんだ。
せめて体くらいは休ませておかないとな。
それに、この夢の中では一人でも、目が覚めれば咲夜が居るんだ。
それだけでも、救いはある方だ。
朝。
長かった睡眠が終わり、やっと俺の体も目覚めることが出来た。
「おはよう、影司」
俺が目覚めるのを待っていたのだろうか。
先に目覚めていた咲夜が、俺の顔を見て優しく微笑んでいる。
二人で、朝から開店している飲食店に向かい、食事を取る。
誰かと一緒に、楽しく話しながら食事を取る。
わざわざ異世界に来なくても出来た事ではあるが、俺はこの世界で、初めてそれを体験した。
その後、食事を終えた俺達は、セラフィムからの呼び出しもあり、国王カーネリアンに謁見する事となった。
その場にいるのは、俺と咲夜。
クレイとギルバートも一緒に居る。
そして、ブレイズの国王であるカーネリアン、その隣にセラフィムが立っている。
「若き勇者達よ、既にこの世界の未来については聞いているな?」
「は、はい。このままでは人間同士の争いで世界が滅ぶとか……魔王が世界を破壊するって予言じゃ無かった事に少し驚きましたけど」
太陽の魔王エクリプス。
その魔王に体を貸しているのが俺の友人である雷亜だ。
「そう、最初は魔王が自らの手で世界を破壊する未来を予言していた。だが、その未来が変わったのだ。そして、魔王が世界を破壊するよりも前に、人間同士の争いが起こる」
魔王が、雷亜が俺と再会した事で未来が変わった?
それでも争い自体は止める事が出来ないと言うのか。
「その争いの原因は見えているんですか? 根本から正せば、争う未来も変えられるかも――」
「残念ながら、原因までは分からなかったそうだ。だが、元々ブレイズとグランドでさえ、対立関係にある現状、きっかけさえあれば世界規模の戦争等、何時起きてもおかしくはない」
少なくともそのきっかけ自体に、魔王は関与していないのか?
「今は魔王との戦いよりも、国同士が争う未来を変える方が重要だ。その為、勇者二名には親善大使として、各国との協力関係を結んでもらいたい。国同士が手を取り合えれば、少なくとも国家規模での争いは無くなるだろう」
「はぁ……何でもかんでも勇者に丸投げすればいいと思ってるんですかね? この世界の人達は」
「ちょ、ちょっと影司!?」
俺の発言を、咲夜が慌てて止めに入る。
相手は国王だ。
でも、そんな事、俺にとってはどうでも良い。
「この際だからハッキリ言わせて貰います。俺がこの世界で勇者として戦うのは、あくまでも魔王と戦う為であり、俺の大切な人をこの手で守る為です。正直に言って、国同士が争って人間が滅ぶのであれば、その未来はどう足掻いても変えられませんよ」
俺はこの目で、この国と、隣国であるグランドを見て来た。
二つの国、それぞれの日常を見て、俺は思った。
「ブレイズの人達は、グランドの事を戦争がしたいが為に精霊を奴隷として扱い、無理矢理兵力として使っていると、そう思っている人が大半でしょう」
俺がこの世界で目覚めて直ぐに、土精霊であるクレイが屈強な男に連れ去られようとしていた。
その男は、土精霊はグランドの戦力だからだと、スパイではないかと、勝手な思い込みでクレイに暴力を振るっていた。
「でも、俺は見て来たんだ、実際のグランドを。一部かもしれないけど、グランドの人達は精霊を友として、互いに手を取り合って生活をしていた。戦争がしたいからって理由で戦力を高めているんじゃない。そうしないと守る事が出来ないから戦力を集めているんじゃないのか?」
人間、誰だって争う事は望んでいない筈だ。
でも、国が変われば文化だって変わる。
常識だって変わる。
「互いが理解しようともしなければ、争いが起こるのは当たり前だ。何か理由を付けて戦争をしたがっているのはグランドでは無い。他の国なんじゃないのか!?」
その他の国とは、勿論ブレイズも含まれている。
「俺はこの世界の住人では無い。咲夜も、魔王に体を貸す雷亜だってそうだ。この世界が人間同士の争いで滅ぶと言うのであれば、それはこの世界の運命だ。勇者と魔王だけの問題では無い。そんな身勝手な争いに、俺達を巻き込まないでくれ」
勇者として魔王と戦う役目を放棄するつもりは無い。
だが、国同士の問題に、この世界について何も知らない俺が関わるべきではない。
それは、本来この世界の人達で乗り越えるべき事だと思う。
勇者なんだから、世界平和の為に戦えだって?その平和は、誰の為の平和なんだ。
この状況、きっとソルも体験していたんだろうな。
一人で抱え込んで、誰にも頼る事が出来なかったから。
この世界を正すには自らが悪となって、一度世界を破壊するしか無かったんだ。
愛する人を守る為に、自らが悪を演じていたんだ。
このまま世界平和の為に戦っていたら、きっと、ノクターンも同じ道を辿っていたから。
俺がやるべき事は、大切な人達を守る事。
世界を救うなんてのは、俺の役目では無い。
俺は俺の手の届く範囲で、助けを求める人に手を差し伸べられればそれで良い。
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