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予言者

 炎の国ブレイズ領に属する精霊首都セラフィム。


 土の国グランドの国境沿いに位置する要塞都市クレストからは、早朝に出発すればその日の内に到着する距離だ。


 早朝から馬車に揺られ続けた俺達が到着したのは夕方頃。


 教会に向かい、セラフィムと合流する。


 そこには、俺達と同じくセラフィムと契約しているギルバートも居た。


「若き勇者達よ、久しぶりだな」


 俺の肩を強く叩きながら、豪快に笑っている。


「はぁ……どうも。クレイがお世話になったみたいで」


 いきなりのハイテンションに若干引きつつも、精霊騎士団の方で、クレイを保護してもらった事に対して礼を言う。


「ギルバート様には、本当に良くしてもらったからね。あたしがグランドから来たって知っても、優しくしてくれたの!」


 クレイもギルバートとの再会を喜んでいる様だ。


「それで、私と影司を呼んだのって、まさかブレイズで事件が?」


 咲夜がセラフィムに、勇者である俺達を呼んだ理由を問い掛ける。


「事件と言う訳ではありませんが……ギル、説明をお願い出来ますか?」


「そうだな、ここからは俺が話した方が良いだろう」


 ギルバートの顔から笑みが消え、教会の中が静まり返る。


「勇者達を呼び出したのは他でも無い。実はフレイメル家の予言者が、この世界の未来を観たのだ」


 フレイメル家、確かギルバートもそう名乗っていたな。


 この世界で言う貴族みたいな物か?


 確かクレイとバルドもグランシルト家の使用人だと言っていたな。


 本当はバルド自身もグランシルト家の人間だったが。


「予言者……未来を、観るだって?」


 俺は夢の中で、この世界の観測者を名乗る女性と話した事がある。


 俺の記憶に確かに残る、温かな、優しい光。

 俺と雷亜を包み込む、陽だまりの様な、大切な人。


 その女性も言っていたな。


 俺の過去も未来も、観る事が出来ると。


「その予言者の名は、セレライナ。異界の勇者がこの地に訪れる事と、魔王の復活を予言したのも彼女だ」


 俺達がこの世界に転移する事も知っていたのか。


 それに、魔王の事も。


 その魔王、実際は俺の友人である、雷亜の体に宿っているみたいだ。


「セレライナ……少なくとも俺の知り合いでは無いな。その予言者が、この世界の未来を予言したって事か」


「そうだ。その予言とは、人間同士の争いによる破滅の未来。だが、その未来は異界の勇者によって変える事も出来るらしい」


 俺が世界の未来を変える?


 そんな事、本当に出来るのか?


 勇者とは言え、元は普通の男子高校生だ。


 それなのに、世界規模で人間同士が争って崩壊する未来を変えるなんて……




 深夜、教会内の一室。


 クレイはギルバートに用事が出来たらしく、セラフィムと共に騎士団の宿舎に泊まる様だ。


 四つも並んだベッドを、また俺と咲夜で独占してしまった。


 俺は相変わらず、なかなか寝付けないで居た。


 明日への不安もあるが、眠りにつく度に見てしまう夢。


 姉である陽菜が死ぬ瞬間。

 憎しみの感情を込めて俺を睨む雷亜の顔。


 眠りにつく度に、毎回同じ夢を見る。


 これは俺にとって悪夢の様な物だが、同時に、俺が背負うべき罪でもある。


 俺はその罪から逃れたいがために、あえて眠らない様にしているのかもしれない。


「……影司。本当に辛いなら、全て放り投げて一緒に逃げよう?」


 俺が起きている事に気が付いた咲夜が、隣のベッドで横になっている俺を見ている。


「俺は逃げないよ。俺が勇者でありたいと願ったから、もう逃げない」


 咲夜を巻き込んでしまったから。


 咲夜の温もりがあったから、それだけで俺が勇者となる理由が出来た。


 この手で、勇者として、咲夜を守る。

 その為だけに、俺は勇者になった。


 きっかけはそれだ。


 でも、今の俺には、俺を信頼してくれる仲間がいる。


 やるべき事、知らなくてはならない真実も出来た。


 このまま逃げたら、きっと後悔するから。


「そっか……それなら、私も勇者でありたいと願うよ。影司とずっと一緒に旅がしたいから」


 そうだな。

 勇者は一人じゃない。


 俺と咲夜、二人で勇者なんだ。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

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