離れていても繋がる想い
要塞都市クレスト。
早朝、本当の太陽が昇る頃。
俺達三人は宿屋で食事を取っていた。
昨日は色々あったからな。
夜だと思ったら、エクリプスが作り出した太陽で昼みたいに明るくなったり。
「影司、よく眠れた?」
「おかげさまで、ぐっすりとね」
寝付くのに苦労はしたが、慣れてしまえば、意外とすんなり深い眠りに入る事が出来た。
咲夜とクレイが、俺の腕に抱き着いたまま眠っていたからな。
最初は緊張したが、二人の温もりで自然と眠ってしまっていた。
「エイジ君、魔王討伐の旅、やっぱりこのまま続けるの?」
クレイが俺の事を心配そうに見つめてくる。
俺は魔王の正体が、過去に失った友人、黒鉄雷亜だと言う事を知ってしまった。
その事を案じているのだろう。
このまま旅を続けると言う事は、必然的に魔王と敵対する事になる。
「どうした物かな……俺としては、雷亜の願いも理解は出来るんだ。でも、その為に世界を破壊すると言う事は、あってはならない」
エクリプスは言っていた。
魔王としての力を集めれば、死者をも蘇らせる事が出来ると。
その為にはきっと、世界を破壊しなければならないのだろう。
かつての太陽の勇者、ソル自身がそうであった様に。
俺と咲夜を勇者と認め、送り出してくれたのは、ブレイズ国王であるカーネリアンだ。
俺達の帰る場所を用意してくれた王様の願いを無視して、魔王と協力関係を結ぶなんて事が、あっていいのだろうか。
(エイジ様、聞こえますか? セラフィムです)
ブレイズに居る筈の、炎精霊セラフィムから、俺の頭に直接声が聴こえて来た。
「聞こえるよ。すごいな、ここまで離れていてもハッキリと伝わってくる」
(これが契約の力なので。それよりも、勇者であるお二人には、一度ブレイズに戻って来て頂きたいのです)
「わかった。ブレイズに向かうよ」
セラフィムからの声が聴こえなくなった。
勇者である二人。
俺と咲夜が戻る事で、何かあるのか?
「あの……あたしはどうすれば……」
「何言ってるんだ、クレイも一緒に来るんだよ。それを知っているからこそ、契約者である俺と咲夜をブレイズに転移させなかったんだ」
また置いて行かれると思ってしまったんだろうな。
俺と咲夜はセラフィムと契約しているから、直接ブレイズに転移させる事が出来る。
だが、契約者では無いクレイは転移させる事が出来ない。
きっと、それを知っているからこそ、セラフィムはあえて俺達三人揃ってブレイズに戻って来られる様にしてくれたんだと思う。
俺達三人でクレストを出ようとした時、クレイを呼び止める声が聴こえた。
執事服の男性、バルドがクレイを呼んだんだ。
「クレイ。お前の帰る場所は、何時までもここにある。それを忘れるなよ」
「バルド……そんな事言う為に、わざわざ追いかけて来たの? 大丈夫だよ。ちゃんと分かってるから」
孫の旅立ちを心配するかのように、優しくクレイを抱きしめるバルド。
そのバルドが、俺と咲夜を見る。
「クレイを頼んだぞ、勇者殿。バルド・グランシルトの名に懸けて、勇者達が助けを求めるときは、全力で手を差し伸べる事を誓おう」
俺達の仲間は、旅に同行している人達だけじゃ無いんだ。
想いが通じ合えば、離れた場所に居ても手を差し伸べたいと願う人が、必ず現れる。
だから俺は、雷亜と、魔王となってしまったソルに対しても、手を差し伸べたいと本気で思っているんだ。
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