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ロストフラグメント~異世界転移した勇者と魔王の交差する願い~  作者: セキツン
新たな勇者の旅立ち編サイドストーリー
15/19

あたしだけのお友達(土精霊クレイ編)

平和な日常。


平和な世界。


あたしのたった一人の友人が見たがっていた世界を、あたしが代わりに見てくるから。




「いや……嫌だよ……あたしを一人にしないで――」


たった一人の友人を失ってしまった。


「クレイちゃん……泣かないで……わたし、クレイちゃんと出逢えて、幸せだったから――」


あたしの腕の中で笑いながら力を失い、光の粒子となって消えてしまった。

あたしのたった一人の友人。


土の国、グランド。

あたしはこの国で、とある貴族に仕えていた。


ルクス・グランシルト。

あたしの、たった一人の友人。




「……今日はこの辺にしておこう」


「まだ、まだやれるよ、バルド! あたしはもっと強くならなくちゃ――」


正直、立っているだけで精一杯だった。

それでもあたしは強くなりたかったから。

大切なルクスお嬢様を守る為に。


全ての願いを込めて周囲の土を形作り、巨大な拳へと変化する。


「願うのは、打ち砕く土の拳(グランドブレイク)!」


土で作られた巨大な拳をあたしの腕として操り、薔薇の装飾が施された細剣を持った執事服の男性に向けて放つ。


「ふむ、友達想いの良い拳だ。だが――」


放たれた土の拳が、地中から伸びる茨に阻まれる。


「打ち砕くには至らんな。刺し貫け、ローズソーン」


ローズソーンと呼ばれる薔薇の装飾が施された細剣。

茨を自在に操り、攻撃にも防御にも対応できる魔導具。


あたしが放った土の拳が、無数の茨に貫かれ、崩れ去る。


「はぁ~また負けた……」


「悪くは無かった。訓練を続けた成果だろう」


土精霊クレイ。

それがあたしの名前。

訓練に付き合ってくれたのはあたしの契約者、バルド・グランシルト。


細剣を鞘に納め、手を差し伸べる。

その皺だらけの手は、歴戦の猛者でありながらも、孫想いの優しいお爺ちゃんの手だ。


差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

そして、二人で共に帰る。

あたしたちの愛する主、ルクスお嬢様の元へ。




大きなお屋敷。

あたしとバルドは、ここで使用人として働いている。


この屋敷の本当の主は、シュバルツ・グランシルト。

バルドの一人息子だ。


バルドは息子を想い、自らが持つ権力の全てを息子に与えた。

そして、自らも使用人として、息子を支えている。


「おかえり、父上、クレイ。夕食は出来てるよ」


シュバルツはあのバルドの息子とは思えないくらいに温厚で、武人と言うよりは科学者寄りの人物だ。


シュバルツが用意した食事を、あたしとバルド、シュバルツとその娘であるルクスお嬢様の四人で、一緒に食べるのがこの家の日常だ。




ルクスお嬢様は病弱で、外に出る事も出来なかった。

そんな時、あたしはバルドに連れられてこの屋敷に来た。


土精霊と言っても、あたしの力は最下位クラスの落ちこぼれだ。

とてもじゃないが、ブレイズに居ると言う炎精霊セラフィムとは天と地程の差がある。

セラフィムは炎精霊の中でも、最上位クラスの能力を持っているらしい。


あたしの力では、本来なら戦闘では役に立たないのだ。

その力を、シュバルツが調整してくれて、バルドが実戦で鍛え上げてくれたから、ここまで戦えるようになった。


精霊の能力調整技術。

人間で例えると人体実験だとか、改造手術だとか言われる様な、非人道的な技術ではあるが、あたしはそれを自ら望んだ。


戦う事も出来ない、落ちこぼれのあたしを、ルクスお嬢様はお友達だと言ってくれた。


その言葉が、あたしにとってどれだけ救いになった事か。




ある日、あたしはルクスお嬢様と共にお墓参りに行った。

そこに眠るのは、ルクスお嬢様の母親。


だから、代わりにあたしが守るって決めていたんだ。


それなのに、帰り道で魔物の群れに襲われた。


「クレイちゃん、ここは逃げて! わたしが時間を稼ぐから!」


そう言って、身の丈以上の巨大な盾を構えるルクスお嬢様。

ルクスお嬢様の正体。

それは、光の中位精霊ルクス。


本来のお嬢様の肉体は病に蝕まれていた為、シュバルツの技術によって精霊として生まれ変わった。


でも、その技術ですらも完全では無かったらしい。


「ダメだよ、一緒に逃げよう! 今バルドを呼んでくるから!」


手を取って、一緒に逃げたかった。

でもその手は振り払われたんだ。


よく見ると、振り払った手は、黒く変色している。


「ごめんね、やっぱりわたし、もう戻れないみたい」


これが、ルクスの病気?

黒く変色した腕は、霧の様な物を纏っている。


こんな病気だったなんて、あたしは知らなかった。

あたしは直ぐにバルドに助けを求めた。

ルクスの病気も含めて、今の状況を全て。


ルクスは必死に戦った。

そして、あたしに傷一つ付ける事なく守ってくれた。


でも、ルクスの精霊としての体が、徐々に崩壊していった。


バルドがシュバルツを連れてここに来た頃には、もう立っている体力すら残っていなかった様だ。


「遂に、始まってしまったか。僕の技術をもってしても、娘を救う事は出来ないのか――」


「何があったんですか!? シュバルツ様! どうすればルクスお嬢様を助けられるんですか!」


あたしがシュバルツを責めても、どうしようもないこと位、分かって居たのに。

シュバルツがルクスの持っていた盾を手に取り、ルクスに向けて構える。


「せめて、大切な娘が悪夢に囚われる事の無いように……その運命、僕が受け入れよう」


盾に力を込めるシュバルツ。

黒い霧の様な、禍々しい何かが、ルクスの周囲に漂い始める。


「喰らい尽くせ、フォースイーター。その悪夢を、僕の元に!」


盾を持つシュバルツに向かって、黒い霧が吸収されていく。


全ての霧を吸収しきったシュバルツは、そのまま倒れて動かなくなった。


そしてそのまま、ルクスもあたしの腕の中で、微笑みながら力尽き、消滅したのだ。




「クレイ、本当に行くのか」


「うん、ルクスちゃんが言ってたの。『何時か世界を見て回りたい』って、ずっと。だからあたしが代わりに見てくるよ」


あたしは一人、旅に出た。


この世界を、あたしだけのお友達、ルクスちゃんが見たいと言っていた世界を見る為に。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

なるべく長く投稿していきますので応援して頂けると励みになります!


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