私が私である為に(炎精霊セラフィム編)
平和な日常。
平和な世界。
私は信じています。
新たな勇者達が、この世界を平和に導いてくれるって。
炎の国ブレイズ。
その中で最大の規模を誇る都市。
精霊首都セラフィム。
炎精霊セラフィムである私の名前がそのまま都市の名前になっている。
その理由は、ほんの些細な物だ。
太陽の勇者ソル。
私がその勇者を、兄の様に慕い、陰ながら勇者の旅を手助けしたから。
その功績を称えられ、私の名前自体が都市の名前になった。
この世界に新たな勇者が誕生した。
その報告を、従者であるギルバート・フレイメルから聞いたのだ。
フレイメル家。
勇者の守護者の家系として、この国に認められた貴族だ。
ギルバートもその勇者の守護者だ。
と、言ってもその記憶が戻ったのはつい最近の事。
ギルバートと言う名前自体は、彼の血の繋がらない兄、ギルベルトが付けた物だ。
幼い頃に、記憶を無くして森の中を彷徨っていた所を、ギルベルトの家族に拾われた。
ギルベルトの弟として育てられていたが、魔物の襲撃により村が壊滅してしまう。
大切な家族を亡くし、教会でひたすら祈りを捧げる彼に私は手を差し伸べた。
その後、私と契約したギルバートは元気に、強く成長していった。
兄と慕っていたソルが消滅し、魔王エクリプスとなってしまった。
これは私の罪でもある。
私にも何か出来る事はあった筈なのに、それが出来なかった。
こんな私の事を、母として、家族として接してくれるギルバート。
精霊騎士団団長として、この国と、私の事も全力で考えてくれている。
そんなある日、ギルバートが私に言った言葉は衝撃的だった。
ギルバートの家名であるフレイメル家。
そのフレイメル家の人間の一人が、未来を予言したらしい。
新たな勇者の誕生。
その勇者は異界からの転移者だと言う。
そして、それと同時に、魔王エクリプスが新たな依代と共に復活すると言う物。
その依代となった人間も異界の転移者なのだ。
ギルバートと共に、転移者の元に向かう。
場所は予言によって既に分かっていた。
そこに居たのは三人の見慣れない衣服を着た人間。
一人は気絶している様だが、後の二人の意識はある様だ。
勇者となる人物は二人。
もう一人は魔王だ。
そしてこの場に居るのは三人。
この中の誰かが魔王であると、そう言う事だろう。
意識がある二人が何か話している様だ。
敵対する様子は無い。
つまり、今気絶している白髪の少年が魔王なのだろう。
「すまねぇな、巻き込んじまって」
「い、いえ。私は大丈夫ですけど、あなたは?」
二人は初対面なんだろうか。
様子を見よう。
「俺は黒鉄雷亜って言うんだ。影司は、俺の……たった一人の友達だった」
悲しそうな、後悔も混じった表情で白髪の少年を見つめている。
「影司の、友達なんですね……でも、それならまさか――」
「ああ、俺の体には、魔王が宿っている。今は無理やり抑え込んでるけどな。でも、この体が、俺の物じゃなくなったら。きっとお前達を殺しちまう」
今起きている方の少年が、魔王だ。
ここで殺す事が出来れば、世界は救われる。
「願うのは、全てを破壊する炎」
私が今放てる、最大の魔法だ。
ここで魔王を倒す。
「……ま、そりゃそうだよな」
少年は魔法に気が付いていた。
晴れていた筈の空が雲に覆われ、雷鳴が響く。
「願うのは、連鎖する雷撃」
そんな筈は無い。
何故、魔導具も持たない人間が、異界からの転移者が。
雷系魔法最上位クラスのチェインライトニングを構成出来るんだ。
「下がれ、ここは俺がやる。燃え盛れ、カグツチ!」
カグツチと呼ばれる炎を纏った両手剣。
それと一体化し、炎に包まれるギルバートが、少年に立ち向かった。
稲妻がギルバートに向け放たれる。
それを全て受け止め、少年の首を掴み上げ、炎に包まれた。
「ああ、それでいいんだ。そのまま俺を殺せ。この世界にも陽菜が居ないなら俺はもう、どうでもいい」
雷鳴が止み、雲が無くなっていく。
そこに現れたのは太陽だった。
今は夜の筈だ。
こんな時間に太陽が昇るなんてあり得ない。
その太陽を見て、生きるのを諦めていた少年に光が宿った様に見えた。
「……そうかよ。魔王となった俺が死ぬのも、お前は許してくれないんだな。そう言う奴だったよな。陽菜――」
炎に包まれていた筈の少年の中に、ギルバートの炎が全て吸収された。
「悪いな、おっさん。俺はまだ、この世界でやるべき事があるみてぇだ」
少年の髪が赤く染まり、顔の上半分を覆う仮面が装着される。
「我は太陽の魔王、エクリプスの名を受け継ぐ者」
少年の口調が変わり、右手を天に掲げ、その手に炎が収束する。
「願うのは、星を焼き尽くす太陽」
ソルが使う最大の魔法。
それをこの少年が放とうとしている。
私達では、勝てない。
「……分かったら、さっさとコイツら連れて、どっか行っちまえ」
そう言って、白髪の少年と、先程話していた少女の方を見る。
「影司の事頼む。俺の事は言わないでくれ。じゃないとアイツ、勇者になれないからな」
見逃すと言うのか。
魔王と敵対する、私達を?
「あー……お前の事な、お前の兄ちゃんから聞いてんだよ。『全て忘れて幸せに生きろ』ってさ」
覚えていたんだ。
お兄様は、私の事を。
それなのに、何故――
でも、これはチャンスだ。
この場は撤退し、魔王との再戦に備えるべきだ。
私達は教会に戻る事が出来た。
追撃も無い、逃がしてくれたんだ。
でも、私はどうすればいいのだろう。
私はどちらに味方すればいいの。
「セラ。俺はお前に育てられた。お前がお前で居られる方を選べ。俺はそれに従う」
ギルバートが私を優しく抱き寄せ、そう言った。
私が選ぶのか。
世界の命運を。
ギルバートは私が育てた、大切な息子の様なもの。
だからきっと、私が勇者と敵対したら、全てを捨てて、ギルバートも来てくれるのだろう。
それは、勇者の守護者である、フレイメルの家名を捨てると言う事。
ならば、私に出来る事はただ一つ。
「ギル、私と共に、勇者を助けてくれますか? お兄様の魂を、解放するために」
それが、母である私が出来る事。
大事な息子の為だから、私の事は大丈夫。
私が私である為に、勇者を導くと誓おう。
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