悪夢(前編)
夜。
日が暮れて、辺りは暗くなってきた。
屋敷を後にした俺達は、今晩の寝床を確保する為に宿を探す事になった。
クレイの地形操作魔法、グランドキャッスルを使えば、正直寝るだけならばそれで充分ではあるのだが。
あの魔法はクレイにとっても消耗が大きすぎる。
なるべく負担はかけたくない。
「ごめん、先に休んでて。あたし、ちょっと行きたい所があるの」
「ああ、行ってらっしゃい……置いて行ったりしないから、ちゃんと帰って来てくれよ」
あんな事があった後だ。
クレイの表情も暗いままだし、このまま何処かに行ってしまうような、そんな気がしてしまった。
「うん、ありがと。ちゃんと帰ってくるよ。あたしの居場所は、二人の所だからね」
そう言って笑顔を作り、何処かに行ってしまった。
「あんまり遅い様だったら探しに行こ。心配だもんね」
俺を励ます様に咲夜が言う。
「そうだな、その時は二人で、クレイを迎えに行こう。三人で手を繋いで帰って来よう」
その為にも先ずは宿を探さないとな。
宿が見つかり、部屋を取る。
「俺は一人部屋で良いか? 咲夜とクレイで一部屋で」
「……それなら三人一部屋で良いじゃん」
何故かちょっと拗ねている。
「色々とマズイだろ。それに……ほら、クレイだって嫌かもしれないし」
「ダメ。影司まで何処か行っちゃったらどうするの」
まさか俺が脱走癖のあるペットか何かだと思っているんだろうか。
「……あんまりこう言う事言うのもどうかと思うが、俺だって一応男だからな? 何か間違いが起こったらとか、思わないのか?」
何かあってからでは遅いのだ。
何もしないが。
「襲うの?」
「襲う訳無いだろ!?」
真っ直ぐ見つめながら何て事を言うんだこの子は。
「じゃあ……いいじゃん」
そう言って勝手に三人部屋を取ってしまった。
嘘をついてでも襲うって言えば良かったか?
一緒に旅をする仲間だからこそ、嫌われる様な事をしたくはない。
それに咲夜もクレイも女の子なんだ。
男の俺と一緒の部屋って、幾ら仲間とは言え嫌じゃないのだろうか。
俺にはよく分からない。
二人が眠りについたのを確認したら、何処か別の所で寝るか。
「……今度居なくなっちゃったら、鎖で繋いじゃうよ?」
……やっぱり俺はペットか何かだったらしい。
笑顔で言う咲夜だが、それが冗談に聞こえないんだ。
いや、一度抜け出しているからその所為かもしれないが。
本当に反省している。
宿泊者には食事のサービスが付いている。
夕食は三人で食べようと思っていたのだが――
「クレイちゃん、帰ってこないね」
「そうだな……流石に明日まで帰ってこない何て事は無いと思うけど」
考え過ぎだろうか。
俺がただ、焦りすぎてるだけだろうか。
「あ……あれ? 今って夜の筈だよね?」
咲夜が突然おかしな事を言い出した。
違う、おかしいのは咲夜では無かったんだ。
窓の外に見える風景。
そこには、先程まで確かに夜だった空に、太陽が昇っていた。
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