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悪役令嬢、威圧感を放つ。

「ナディア様、ここですっ!」


 奏は大きな胸をドンと張って放送室の前に立っていた。


「貴女……目障りね」

「ふぇっ!?」


 ナディア様は奏の胸を見て不機嫌そうに言った。

 いや、ナディア様もなかなかのモノをお持ちですよ?


 俺と夏目ちゃんも追いついたが、放送室の扉は外から南京錠が掛かっていた。錆び付いたそれが年月の経過を表していた。


「開けなさい」

「えぇっ、でもこれ、外から鍵掛かって……って、えー! 密室! 完全密室トリック!」


 奏、うるさい。


「夏目、ここで間違いないのよね?」


 夏目ちゃんはそう言われて放送室の扉にぴたっと耳をつけた。

 そして眼鏡の奥の小さな瞳をすっと閉じた。


「気配はあるけど、薄い」

「退きなさい」


 夏目ちゃんはこくりと頷くと扉の横に移動した。


「詠唱魔法、朽廃ディケイ


 ナディア様が指さして呪文を唱えると、錆びた南京錠がさらに朽ち始めた。そしてポキンという音とともに細い曲線部分が折れ、そのまま木の床に落ちた。


「すっごーい!」


 興奮した声を出した奏をナディア様がキッと睨みつけると、威厳のないオカ研部長は慌てて口に手を当てた。だがナディア様の目は奏を捉えたまま、視線だけで次の行動を促していた。


 開 け な さ い 。


 俺にもそう聞こえた。視線だけで物を語るなんて恐ろしい人だ。威圧感半端ない。

 こんな人にいじめられたら竦み上がるし、婚約者を横取りしようなんてよくもヒロインは思えたものだ。


 奏は恐る恐る扉に手を掛け、目を瞑って「えいっ!」と威勢よく開けた。


「いない……」


 ほっとしたような、残念そうな声で奏は言った。

 だかそこには黒い水溜りが出来ており、確かに何かがそこにいた痕跡があった。


「ここにいると言ったのは貴女じゃなくって?」

「ひっ」


 ナディア様の腹の底から響くような声に、小心者は小心者らしい小さな悲鳴を上げた。

 もはや怪奇現象より恐れられている気さえする。


「私に無駄足を運ばせたこと、どう償うのかしら?」

「えっと、あのっ」

「考える必要などなくってよ」

「ほっ」

「貴女ごときの人間、命をもってしても償えないものね?」


 にっと口角を上げたその顔は、子兎を目の前にした獰猛な肉食獣みたいだった。

 圧倒的優位を主張するその目線、勝者のみが浮かべる余裕の笑み、威厳を感じさせる首のわずかな角度や指先の隙のなさまで完璧だ。

 細胞の全てが悪役令嬢を作り上げるために存在しているかのようだった。


 びくびく震える奏など歯牙にもかけず、ナディア様は夏目ちゃんに目をやった。夏目ちゃんは水溜りを見たあと、放送室の天井を見上げた。


「上……」

「どうした夏目ちゃん」


 俺が声を掛けると、夏目ちゃんはたった一言、そこにいる皆の背筋を凍らせる一言を放った。


「いる」


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