悪役令嬢、光の柱から現れる。
新入部員の歓迎会をするために旧校舎へ行こうと言われ、幽霊部員だった俺はこの日久々に部活に出ることにした。
旧校舎の入り口を少し入ったところにある木製のベンチで待っていると、奏と夏目ちゃんが来た。古いとはいえかつての学校の備品であるベンチはしっかりとした作りで、今座っても問題のない耐久性を誇っていた。
「今日はここで新入生歓迎会をしまーす! ようこそ夏目ちゃん!」
奏がじゃーん! と手を広げて言ったので、俺は立ち上がって頭を下げた。
なんせ俺は名前だけ貸してる幽霊部員なもんで、夏目ちゃんを見るのは初めてだ。夏目ちゃんもそうなものだから、一瞬怪訝な目を向けられた。辛い。一応俺、副部長なはず。
で、奏は新しく出来た新入部員にほくほくした顔をして、わが校の七不思議のひとつである「かくれんぼさん」の話をした。
旧校舎で小さな子どもの霊が母親を探してかくれんぼをしている。その母親は以前旧校舎で自殺した女子生徒で、腹に子を身籠ったまま死んだとか何とか。生まれてこられなかった子どもが母親を探し続けているという、なかなかヘビーな話である。
「何度も調査してるんだけど、何もわからずに卒業しちゃいそうなの~」
「そう……」
「夏目ちゃん、是非引き継いでね!?」
「嫌……」
「ガーン!」
奏は両手で頬を押さえて昭和臭いリアクションを取った。
夏目に託す前に俺は? まぁ数合わせの幽霊部員で怪奇現象には露ほどの興味もないのだが。
「夏目ちゃんは何に興味があるの~?」
「召喚と降霊」
なかなか中二な新入部員である。
「えぇ! すごい!」
何がすごいのか。
「ねぇねぇ、もしかしてお化け見たことあるの?」
「……ある」
おい、すげえなそれ。
俺は二人の後ろをついていく。女の話には首を突っ込まないのが吉だ。それに夏目ちゃんに警戒されてるっぽいし。さっきからちらちら視線を感じる。
一通り旧校舎を見て回り、そろそろ帰ろうとなった時だった。
入って来たはずの扉が壁になっていたのだ。
「あれ? 道まちがっちゃったかな」
奏は本気でそう思っていたようだがここで間違いない。俺が座っていたベンチもちゃんとある。
「ここであってるぞ」
俺はようやく今日の第一声を発した。
「あれぇ~ここ壁だったっけぇ?」
奏は壁をペタペタと触ったが、扉が現れるとかすり抜けられるという現象は起こらなかった。
その時だった。
小さくて恐ろしいほど速い足音が聞こえた。
ペタペタペタペタペタ!!
「えっ、何?」
奏の声に不安が宿った。
「来る」
夏目ちゃんがそう言うと、角から小さな目のない人形が走って来た。
ペタペタペタペタペタペタペタペタ!!
「ひっ! いやぁー!!」
俺は咄嗟に奏と夏目の前に立った。
人形は取れそうなほど首を大きく傾げてにぃっと笑った。
「ママ、サガシテ?」
俺たちは全速力で走った。
開いていた教室に飛び込んで扉を閉め、息を潜めた。
「ど、どうしよ。かくれんぼさんだ、どうしよ」
奏がえぐえぐと泣く。
「召喚、してみる。対抗できる何か……闇に対抗できる、聖騎士」
夏目ちゃんはそう言って鞄に手を突っ込むと、油性ペンで床に魔方陣を書いた。そしてその上に栞が挟まれたライトノベルを置いた。
「で、出来るの!?」
「わからない。でも霊が作り出した特殊な空間なら、出来るかもしれない」
そう言って夏目ちゃんはぶつぶつと何かを唱え始めた。
詠唱を続けていると魔方陣が徐々に光り始め、魔方陣が淡いオレンジ色の光に包まれる。
ペタペタペタペタペタペタペタペタ!!
あの足音が聞こえて来る。
早く。何でもいいから早く。
そう願っていると、どこからともなくぶわっと風が吹いた。そしてそこに眩い光の柱が現れた。
「ひゃっ!!」
奏が大きな声を出す。
ペタペタペタ、ペタ。
足音が廊下の向こうで止まった。
「みぃつけた」
不気味な人形は重力を無視して教卓を駆け上がり、その中央でぴたっと止まった。
俺たちが息を飲んでいると、光の柱がすっと消え、かわりにプラチナブロンドの女性が現れた。