表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

悪役令嬢、異世界転生する。

 俺は奏と夏目ちゃんの背中を見送った。


「あなた、これからどうするおつもり?」


 俺の前にカツンとヒールを鳴らしてナディア様が立った。


「どうしましょう。地縛霊歴が長すぎて、動くのも何だか億劫です」

「良い若者が情けないわね」

「はは、死んでますけどね。ナディア様はどうするんです? 元の世界に戻るの、断ってましたよね」


 夏目ちゃんは逆召喚と呼ばれる、ナディア様を元の世界に戻す方法を試そうと言った。だがナディア様はそれを断った。


「あんなところ、どう乞われようが戻る気はないわ」

「そうですか」

「ねぇあなた、私とどこか別の世界に行ってみる気はなくて?」


 は?

 地縛霊に何の勧誘だろうか。


「どういうことですか」

「夏目に聞いたのだけど、死んだ魂は異世界転生が出来るそうよ」

「異世界転生?」


 聞いたことないな。


「この時代で流行っているそうなのだけれど、あなたのような年寄りにはわからないかもしれないわね?」

「さっき若者っていったくせに」

「定番はトラック事故で死んで、異世界に転生するらしいのだけれど」


 軽トラでもいいのなら、条件に当てはまるな。


「まぁ、私の魔法で転移して差し上げてもよろしくってよ? こんなところにいても仕方ないでしょう?」

「それはそうですが」

「それに転生した先に、あの女と生意気な子どもがいるかもしれないじゃない」

「っ!!」


 俺は顔を上げてナディア様を見た。

 その唇は美しく弧を描いていた。


「そんなことが?」

「あの子ども、口の利き方がなっていなかったから、きちんと躾け直しなさいな」

「は、はい! 百合にも、百合にも会えるんですか!?」

「そうね、早くしないとどんどん年齢差が開いてしまうかも」

「お、お願いしますっ! どうか、二人のもとへ――」


 俺ははっとした。

 そしてベンチから飛び降り、土下座よろしく跪いた。頬を流れる涙は温かかった。


「あら、頼み方をわかっているわね。特別に選ばせてあげるわ。熱いのと熱くないの、どちらがいい?」

「ははっ、熱いのでいいです。俺だけズルしたら、向こうで怒られるでしょう?」

「いい度胸ね」

「ほんとに一瞬なんですよね?」

「すぐにわかるわ。詠唱魔法、業火ヘルファイア



***




「ユリ、今日は女王陛下の即位パレードだぞ。早くっ」

「もう、それ日の出前から言ってる」


 ユリは今朝挽いた小麦粉で顔を白くしながらクスクスと笑った。


「パパ、ママ、どこかおでかけ?」


 おかっぱ頭の娘がよちよちと足元にやってくる。


「そうだぞ~。女王陛下のナディア様はすごい人なんだからなぁ」

「なでぃあ、しゅごい?」

「こら、ナディア様! 呼び捨てなんかにしたら怒られちゃうぞ」

「なでぃあ、さま! おこられちゃう! こわーい!」

「あ、こら!」


 娘が戸に向かってひょこひょこと走っていくと、おもむろにそれが開いた。


「まだ躾けられていないようね?」


 その弧を描いた形の良い唇は満足げに笑っていた。


ナディア様はパレード前に、転移魔法を使って一家の家にやって来たのでした。

ちょっとアレな性格ですが、案外いい人!?


これにて終わりです。お読みいただきありがとうございました。

「夏のホラー2021」に触発され、ホラーに悪役令嬢混ぜたらどうなる?と思って書いてみました。ゆる~く、あまり深く突っ込まずに読んでいただければ幸いです。

評価、感想いただけると嬉しいです!


それではまた別の作品でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ