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11
こうして魔族の支配から解放された王国は一人の勇者によって無事に救われました。
勇者様とお姫様は幸せに暮らしました。
イラッ
ベッドに横たわっていたのに、思わず起き上がってしまった。
なってない。少なくとも幸せな暮らしではない。
重要なのはここから。
12
王城は補修が必要だけど使えないことはなかった。
食べ物はあったから、簡単な祝賀会が開かれた。簡単といっても王城でやるから、豪勢だったけど。
祝賀会は有力者ばかりだけど、王都はお祭り騒ぎだった。
みんなが心から笑っていて私も嬉しかった。
「勇者様」
はじめてまともに勇者様と話すことができました。
「やめてください、第三王女殿下。俺は勇者なんて呼ばれるほどの者じゃない。
名前でアークで呼んでくれ。」
13
「それではアーク様。私のこともチョウカとお呼びください。」
「・・・まぁいいか。チョウカ。」
気恥ずかしく感じるのは何故でしょう。
「チョウカ。陛下に伝えたいことがあるのだが。」
「え、あ、はい。今なら取り次げるかと。」
「なら一緒に来てくれ。」
するとアーク様は私の手を取り、父上のところに進みました。
いきなり手を繋がれて驚きました。
14
いったい何の話でしょうか。
物語の少女のように私の顔は紅くなっているでしょう。
「陛下。お時間よろしいでしょうか。」
「ああ、どうされた勇者殿。」
「急ぎお伝えしたいことがございます。」
何の話でしょうか。
依然私の手を握っているのが気になって仕方ありません。
「突然ですが」
「明日にはこの国を発ちます。第三王女殿下チョウカ殿を連れて。」
はい?
15
それからは場内は大慌て。
少ない物資から私への餞別にとあれこれ用意されました。
しかし、長い旅路となるとのことで、あまり大きな荷物は運べないとのことでした。
侍女や侍従も付けるとのことでしたが、勇者殿が守り切れる保証ができないとのことで、なくなりました。
自身のことはなんとかできるけど、どこに連れていく気なのか。
せめて、愛用の農具は持って行きたかった。
それとなくアーク様に行き先を聞いてみると、
「俺の主人がお待ちしております。」
はい?
16
次の日の朝には私たち二人は馬車で旅立つのでした。
馬車は順調に走っていましたが、野生動物に襲われたり、道が悪くて馬車が使えなくなったりと散々でした。
しかも、この勇者。
「俺は自分の身に危険がない限り戦わない」
とかいう平和主義らしい。
ならどうやって魔族から王都を奪還したか聞いても、笑ってはぐらかします。
なんなの?この人。
17
そうよ。このアークがよく分からない人間なのが1番の原因なの。
王都奪還は国民の夢だったから感謝しているけど、せめて野営での夜番くらいしてもいいはず。
農家の娘(王族だけど)だったからなんとかなったけど。
憤りに手に力が入るが。ダメです、考えるのも疲れました。
少なくとも今日くらいは安らかに眠りたい、なぁ・・・。
自然とまぶたが閉じていきました。
18
朝。
最近の習慣なのかちゃんと起きれた。
でも、もう少し寝てもいいはず。
ちゃんとしたベッドがあるんだから寝ないと。
・・・そうだ。ここは他所の家だ。
突然起き上がり、寛ぎ過ぎてもいけないことに気づく。
慌てて身支度を整えてリビングに向かう。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
魔女と自称するシアという少女がいた。
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「よく眠れましたか?」
シアは朝食の準備をしていた。鍋からは空腹を誘う香りを漂わせている。
「はい。とても気持ちよく眠れました。お風呂もベッドもとても素敵でした。」
「ありがとう。ここまで来るのは大変だったでしょう?」
「はい」
これまでの生活を考えると涙が出てきます。
常に気を落ち着けることはなく、お風呂なんて滅多に入れなかった。
「なら、今日はゆっくりして疲れを癒しましょう」
「ありがとうございます。・・・手伝います」
私は朝食の手伝いを申し出た。
20
「シアさんがこの森の魔女って」
「ええ。このネールの森に魔女は私だけなの。」
魔女に明確な定義はない。自称他称の差はあるが誰でも名乗ることができる。
魔女に共通する特徴は、
・人知を超えた力を持っている
・感情の起伏が激しい
・研究のテーマを持っている
などと言われる。絶対ではないらしいけど。
どこの国の歴史にも魔女は少なからず登場する。国を救う場合もあるが、同じだけ国を滅ぼしたこともある。
改めてシアさんを見るが、この女性は何を考えているかわからない。あの笑顔の周りに変なオーラが見えた気がする。
口調はいずれ直します