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1
古来より魔女と呼ばれる存在はいつの時代どこの場所にも現れた。
ある者は不思議な力で人々を惑わせた。ある者は奇跡の力で人々を救った。ある者は圧倒的な力で人々を治めた。ある者は・・・
そしてここにも・・・
鍋をかき混ぜる少女。鍋の中身を小皿に取り、料理の具合を確認するために口元に近づける。
「あちちっ」
少し熱いのか、ふーっふーっと息を吹きかける。
改めて確認をする。
「うん、美味しい」
満足の味になったようで、再び料理を再開する。
2
カランカラン
「ん?」
少女は玄関が開いたことに気付く。
料理の手を止める。火を弱めて台所を離れる。
リビングに行くと荷物の整理をする男性と床に俯いて座る若い女性がいる。
「おかえりなさい」
「ただいまシア」
「問題はなかった?」
「大丈夫だ」
「それで、そっちは・・・大丈夫?」
「うぅ・・・」
彼女は蹲るまま動かない。
3
「・・もういや」
しゃべった?
「ずっと歩いて、毒の沼や瘴気の谷を抜けて、ここはどこ。もういや」
「大丈夫なの?」
「途中で馬車が使えなくなって、ちょっと疲れてるみたいで」
「ちょっと?」
「近道とか言って街道から外れて、道なき道を進んで、服は汚れて泥だらけ。集落にも寄らずに野宿して、毎日野生動物から逃げながら生活をしてちょっと?」
何させているんだ?こいつ
「まぁ、おかげで早く着いたろ」
4
「はじめまして。私はシア。後でゆっくり休める場所を用意しましょう。」
それまでの旅路を憐れみ嗤っている彼女に手を差し出す。
彼女は悲しむのを一旦辞めて、立ち上がり身なりを多少でも整えた。
「アナ王国第三王女チョウカと申します。お気遣いいただきありがとうございます。」
それは礼儀作法をしっかりと学んだ者の挨拶だった。
「それであなたは何者ですか?」
「私はこの森の魔女です」
5
用意されたベッドで横になるが、なかなか眠れない。昨日まで常に周囲を警戒しながら寝ていたために、身体が安らぎを受け付けないようだ
あのあとは食事と湯浴みを済ませて、早々に休ませてもらった。
なんで私はこんなところにいるのか。
そもそもはヤツが原因だろう。
6
私の国アナ王国は農業の国。国土の多くは農地であり、兵士のほとんど普段の生活では農夫である。
農民が多いためか、国民の物理的なパワーが強く、収穫期の連携も働き、軍事力もそこそこである。
特に食べ物の恨みは恐ろしく、食べ物を粗末にするヤツは味方であろうと、泣いて赦しを請うまで痛めつける。・・・まぁ、度が過ぎる気がするけど。
そんな我が国の王城にアイツはやってきた。
7
「ここを吾が輩の領地とする。ジャマな人間はさっさと出て行け。」
そう宣言すると彼の配下の魔族たちが大量に現れた。間もなく王都は魔族に占拠された。
私たち国民は対抗した。屈強な国民や兵士がいれば負けるはずがないと思っていた。
しかし、見るも無惨に負け続けました。
8
隣国や同盟国にも助けを求めた。
しかし、魔族に勝てる国はいなかった。
私の記憶にあるときには王都は魔族のものでした。
食べ物には困るまいと兵士と畑を耕していました。
いずれ王都奪還を夢見てなのか、礼儀作法は厳しく教わりました。
9
そんなある日。国王、私の父上が冒険者に王都奪還を再依頼しました。もともと依頼はしていましたが、軍よりも強い冒険者パーティーなどありませんので、あってないようなものでした。
しかし、何をとち狂った、いえ、お戯れしたのかその再依頼で「私」を報酬に指定されました。
唯一婚約が決まっていない私だからこそ報酬にできたのでしょう。ただ報酬扱いされることに思うところはあります。
そんなことで王都が奪還できるなら安いものです。
2週間後、一人の冒険者によって王都は奪還されました。
10
「おお、冒険者、いや勇者殿。見事王都を奪還してくれた。して褒美を取らせるが何を望む?」
「私が望むのは依頼書にあった通り第三王女殿下のみとなります。他の報酬は望みません。」
「なんと・・」
「そのように清廉なる心の持ち主である貴殿になら娘を差し出すことにも抵抗はない。娘を頼む。」
仕方ない。これが私の役目か。
「よろしくお願いします。勇者様」