1/8
プロローグ
「お前は確かに、世界最高で最強のスパイだ。だが、時代が変わったんだよ」
その男――諜報機関の最高権力者は、俺に向かってそう告げた。
銃口とともに。
「これまでお前に与えられていた超法規的特権は、すべて剥奪。すでに財産も凍結した。もうお前の手元に残るものは、何もない」
「……さあ、どうかな」
「はっ、信じられないか? だが事実だ。
この世界に――もはやお前の存在は不要だ」
男が撃鉄が起こす
「最後に、言い残すことは?」
俺は男の言葉を黙って聞いていた。
「弾の重さを、忘れたのか?」
「……なに?」
男がはっとし、慌てて引き金を引く。
だが何も起きない。
どうやら男は、椅子に座ることに慣れ過ぎていたらしい。
青ざめた男に、俺は代わりに銃口を向けた。
「残るものは、あるさ」
俺は男の額と胸に銃弾を叩き込み、その場を去った。
たったひとつだけ、俺に残されたものがある。
――スパイとしての技能だ。