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プロローグ

「お前は確かに、世界最高で最強のスパイだ。だが、時代が変わったんだよ」


 その男――諜報機関の最高権力者は、俺に向かってそう告げた。

 銃口とともに。


「これまでお前に与えられていた超法規的特権は、すべて剥奪。すでに財産も凍結した。もうお前の手元に残るものは、何もない」


「……さあ、どうかな」


「はっ、信じられないか? だが事実だ。

 この世界に――もはやお前の存在は不要だ」


 男が撃鉄が起こす


「最後に、言い残すことは?」


 俺は男の言葉を黙って聞いていた。


「弾の重さを、忘れたのか?」


「……なに?」


 男がはっとし、慌てて引き金を引く。

 だが何も起きない。


 どうやら男は、椅子に座ることに慣れ過ぎていたらしい。


 青ざめた男に、俺は代わりに銃口を向けた。


「残るものは、あるさ」


 俺は男の額と胸に銃弾を叩き込み、その場を去った。


 たったひとつだけ、俺に残されたものがある。



 ――スパイとしての技能だ。



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