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多摩川死体遺棄事件記事考察

作者: 川里隼生

 一九九八年五月。当時発行されていた雑誌『月刊都市伝説』に、とある記事が掲載された。一九七一年に発生した多摩川死体遺棄事件の犯人を絞り出す、ある種のドキュメントのような記事だ。この記事を書いた記者は事件の被害者が母親であり、捜査の進まない事件が迷宮入りすることを懸念していた。


 事件および記事の内容については、インターネットで『多摩川死体遺棄事件 透視能力者と雑誌記者』で検索すればヒットすると思うので割愛させていただく。今回こちらでは、この記事について巷で囁かれている噂について紹介していきたい。


 この記事を書いた記者は『月刊都市伝説』の未解決事件担当として、毎月の連載を持っていた。しかし、翌月以降の号には彼の記事は掲載されず、何の発表もないまま未解決事件コーナーはフェードアウト。さらに一九九九年七月号をもって『月刊都市伝説』自体が廃刊となってしまった。


 最終ページのあとがきでは廃刊はノストラダムスの大予言に合わせたものとされ、日本のオカルトブーム終焉を予見した見事な幕引きだったと出版業界からは評価された。しかし、一部の読者が『記者が事件に巻き込まれたから廃刊になったのではないか』と騒ぎ始めた。多摩川死体遺棄事件の記事に不可解な点があったからである。不可解な点は大きく二つ挙げられている。


 まず、その記事は読点が極端に少ない。読点とは文中に入れる点『、』のことである。文字数にしておよそ二千四百字あるのに対し、読点が使われているのはわずか四箇所。読みにくくなっている文もいくつか見られる。この記者の文章は、普段から読点が少ないという特徴はなかった。この記事に限って読点が異様に少ないのだ。


 そしてもうひとつ。この記事にはルビ、つまり振り仮名が振られた単語が三つある。ひとつは透視能力者として登場する女性の氏名。他のふたつは山陽地区の地名。この記者の過去の記事では、難読単語でない限りは人名にしかルビが振られていなかった。この二点から、噂ではこの記者が読者に向けて自身からのメッセージを送ったのだとされている。


 読点が少ない点について、読点が使われている部分を抜粋する。以下の文章がそれだ。

「まず現場となった、多摩川を米氏と訪れた」

「事件当日は偶然電車で東京に来ており偶然多摩川へ近寄って遺体を見つけたのです、と証言している」

「筆者はこの捜査に数日かけ、結局は完全な徒労に終わった」

「仮にA氏が暴力団員だったとして、筆者は以下のような仮説を立てた」


 それぞれの読点の直前にある字を順に並べると、この四文字が完成する。

「たすけて」

 記事内に登場する数少ない読点が助けを求める言葉の直後にのみ置かれている。偶然とは思えない。


 そして、噂では作中でAとされている犯人の氏名まで記事内に隠されているのだという。そう、それを暗示しているのはルビだ。この記者は基本的に人名にしかルビを振らなかった。意味もなく難読地名でもない漢字にルビを振ることはしないはずだ。


 そのルビが振られた箇所がこちらである。

「借金のことを隠している夫や息子を東京に残して新幹線で明石あかし大門だいもんを越えて広島へ向かった」

 確かに、明石も大門も新幹線で東京から広島へ向かう際は近くを通過するが、ここで登場するには不自然な地名だ。新幹線が通過するのは西明石駅であり、明石駅ではない。また、大門などではなく姫路や岡山など、メジャーな地名を選ぶのがこの場合は自然だろう。そもそも山陽地区に限定する必要もない。


 つまり、これらは『地名』ではなく『人名』を表していたのである。実はこのAという仮名はただの仮名ではなく、本名のイニシャルなのかもしれない。記事内で仮名は四名分出てきているが、A、B、D、Eとなっており不自然にCが抜けている。Cから始まる苗字は近本などが考えられるが、四名の中にはいなかったのだろう。


 ルビのある地名を合わせると明石大門。これがAの本名なのだ、と記者は我々に訴えているのだろうか。この記事は、最後に犯人へ挑戦的な言葉を投げかけて締めくくられている。廃刊から二十年以上経ったいま、この記者はどこかで無事に生きているのだろうか。この噂、信じるか信じないかはあなた次第である。

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